「あ…コーチったら…やだ…」

ここはスポーツクラブのプールのなか。 カズコーチのローライズビキニの先端が、わたしの下腹部に当たっている。 恥ずかしくて顔を真横に向けたのに、いじわるな指がわたしの顎を捉え、正面から少し上の位置に持って いく。

焦点が合わないほど目の前に見える丸い瞳は潤み、頬がわずかに上気している。きらきらと光り輝く目 に、すーっと吸い込まれそうだ。 「麻衣子さんの瞳に、ぼくの顔が映ってるよ」

ぷっくりとした唇が動くのを見ていたら、わたしの下半身が、むずむずと反応した。 互いに顔を突き出せばキスできる距離にいるのに、彼はそうしてはくれない。 「ぼくのアレ、麻衣子さんのお腹に当たってるね」 「わたしのおっぱいも、コーチの体に当た…」

最後まで言うのを待たず、筋肉質の両腕はこちらの体をぐっと引き寄せた。 「麻衣子さんっ…」

体を密着させたまま、彼は自分の腰を左右に細かく動かす。 「うっ…こう擦り合わせてると、感じるよ…」 「やんっ…」

プールの端にぴちゃんぴちゃんと水がかかる音は、愛液に溢れたあそこをいじくり回した時の音に似てい る。 「ほら、ぼくの、どんどん大きくなっていくよ」

わたしの下腹部をいやらしくマッサージしていた彼のものが、むくむくとうごめいた。 「おっ…あっ…ダメだっ…もう抑えられない…麻衣子さん、いいでしょう?」

ごつごつした手は背中から強引に、わたしのビキニの中に潜りこむ。 「きゃっ…だめっ…こんなところで…」

プールには誰もいない。でも三方をガラス窓に囲まれていては、いつ誰にのぞき見されるか分からない。 そんなわたしの心配をよそに、小さい布地のなかの指先は、つーっと割れ目を下に辿ってお尻の穴にたど り着く。 「どうして? 麻衣子さんも感じてるくせに」 「んんっ…」

大事なところをこねくり回されたら、わたしの欲望もだんだん抑えきれなくなってきた。

「だめだったら…」

言葉とは裏腹に、大きな背中に両腕を回す。つま先立ちをしてぎゅーっと抱きつくと、わたしの敏感な突 起と男根が、押し合うように重なった。 「んはぁっ…」

先程までのむずむずした感触が、甘いしびれに変化する。 もしかしたら、誰かに見られているかもしれない。でももう、ここまで来たら止まらない。 「ほら、水とは違うぬるぬるした液体が、たくさん出てるよ」 「あんっ…」

きちんと爪を切ってある指は膣口に辿り着き、いたずらに出たり入ったりを繰り返している。 「やぁんっ…気持ちいいっ…」

頭のてっぺんから足の指先まで、とろとろにとろけてしまいそうだ。 欲しい。どうしようもなく、カズコーチのおちんちんが欲しくてたまらない。 「ねえっ、来てっ…ココに太くて硬いの、入れてぇっ…」

しかし猛烈な指の動きだけで、わたしの体は一気にゴールへと到達してしまった。

時計の針は、2時ちょうどを指している。真夜中だ。 いつの間にか眠ってしまったみたい。少し頭が痛くて、心臓がドキドキする。 昨晩は、どうしたんだっけ? 記憶を呼び戻すために、部屋の中を見渡す。 つけっぱなしの電気とテレビ。ワインとグラスと、お菓子の空袋。 フローリングの床には脱ぎ捨てられたジャージ。枕元にはブラとパンティー。その横には、アソコを拭いたらし いティッシュの山。

やだぁ、わたしったら。 昨夜したことのいやらしい形跡を見ていたら、一気に記憶がよみがえってきた。

昨日は、わたしの24回目の誕生日だった。 彼氏がいたら、お洒落なレストランで美味しいディナーを楽しんだのかな。 ついに、彼氏いない歴3年目に突入してしまったわたし。 今年はヒマな友だちも捕まらず、ひとりで誕生日の夜を過ごすことになった。 さて、何をしよう。 割烹料理屋や雰囲気のいいバーで、おひとりさまをやる勇気はない。かといって、自分でご馳走を作る 気にもなれない。

考えた末にコンビニで、385円の白ワイン、からあげ、ポテチ、シュークリームを買ってきた。 グラスに並々とワインを注いで、録画しておいた海外の恋愛ドラマシリーズを見る。 結局、いつもの週末と変わらない。でも普段と比べれば、ちょっとウキウキしていた。それはもちろん、誕生 日だからではない。

実は先週から、スポーツクラブに通い始めたのだ。 社会人になって丸2年。慣れない仕事のストレスをドカ食いで解消していたら、体重が10キロも増えてし まった。

これまでに試したダイエットは、半断食ダイエットと、リンゴばかりを食べるリンゴダイエット。でもどちらも、三 日坊主に終わった。

食欲を我慢するなんて、絶対無理! 二つの方法からやっと悟ったわたしが、次に試そうと思ったのが、きちんとお金をかけてスポーツクラブに通 うことだった。

そこで出会ったのが、イケメンスイミングコーチの和利さん。初めて会った瞬間にビビビッと来た。 みんなに「カズコーチ」って呼ばれていて、いつも彼の周りには生徒の輪ができているほどの人気者。 彼女はいるのかな? どんな女性がタイプなのかな? オレンジと黒の水着姿を見て、コーチが好きな色を想像したり、ケータイのタロット占いで、「彼の今のあ なたへの気持ち」を占ってみたり。

気がつくと、コーチのことばかり考えている。 昨晩もワインを飲みながら、いつの間にか物思いにふけっていた。 そうやって、どのくらい時間が経ったのだろう。 見るでもなくぼんやり眺めていたテレビの中で、濃厚なベッドシーンが展開し始めた。 いいなぁ、わたしも、あんな風に愛されたい…。 激しい絡み合いを見ていたら、エッチな欲望が目覚めてきてしまった。 わたしはベッドに仰向けになり、もしも、プールの中でカズコーチにせまられたら…って想像した。そして、自 分の指を使って、ひとりエッチをしたのだった。

スポーツクラブ「サンライズ」のスタッフは、みんな元気で笑顔満開。あの勢いの良さには、度々驚かされて いる。

前回は、3人のスタッフから一斉に「こんにちは!!」と声を張り上げられて、びっくりしたわたし。思わずバッ グを床に落としてしまった。 「あはは、元気が良すぎるのが3人も揃って。驚かせてごめんなさい」

偶然うしろを通りかかったチーフの岩野さんが、バッグを拾ってくれたのだけど、実はわたし、彼のことは少 し苦手。

だって、第一に笑顔がぎこちない。それに、彼にはダイエット指導をしてもらっているのだけど、その時の顔 が恐いんだもん。

ニコリともせずに、「ここ一週間の食事内容は? まさかフライドチキンばかり食べてないでしょうね?」なん て言う。

それに圧倒されて、バカ正直に「昨日はポテチを食べました」って答えたら大変! 高カロリーの低栄養 だとか、油の種類も選ばないといけないだとか、長い説教が始まってしまう。 何だか、学校の先生に怒られているような、悪いことをした気分になる。 そういえば顔も何となく、体育の教師にいそうなタイプかもしれない。 寝癖だかお洒落だか分からない髪型。カッコいいといえばカッコいいし、サルっぽいといえばサルっぽい。身 長はやや低めで、ガリガリでもマッチョでもない。何もかも中途半端な感じ。

髪型は短髪でスッキリ、背も高くてマッチョのカズコーチとは、正反対。 こんなに対照的なふたりを2、3日おきに見ているなんて、変な感じがする。

風呂上り。 体を拭いて、真っ裸のまま部屋に行き、スタンドミラーの前に立った。 「サンライズ」に通い始めて約3週間。体重は、たった1キロ減っただけ。やっぱり、あのこわーい岩野さんの 言うことを聞いて、食事も見直すべきなのかな?

思っていたよりも体重が減らないので、ちょっとストレスがたまり気味。 もやもやとした気分から逃れるために、わたしは、自分の股間に手を当てた。 左手の中指を、そっと、茂みの奥に滑らせる。しっとり湿ってはいるが、さらさらとしたそれは、自分の体か ら染み出たものではない。

当然、あそこも口を閉じている。 鏡のなかのわたしは、相変わらずの体型。男の人が大好きなくびれは、無理矢理お腹を引っこめたって 現れない。

これじゃ、カズコーチに欲情してもらえないな…。 わたしはがっかりして、ひとつ、大きなため息をついた。 ふとアンダーバストの辺りから、水滴がつーっと体を伝う。あっという間に茂みに到着した小さな水の固まり は、陰毛に吸い込まれていった。

その先に、敏感なスイッチがある。 わたしは股間に当てていた手を少し引き、人差し指と薬指で陰唇を開いた。次に中指を鍵形にして、突起をくりくりっとなぞる。 「んっ」

思わずお腹に力が入り、少し前屈みになった。 扉の向こうに指を戻すと、ほんの数秒前にはなかった、ねっとりとした液体に触れた。 したい…。 わたしはたまらなくなり、クローゼットからおとなのおもちゃを取り出した。

わたしの体を開拓してくれた元カレとは、就職をきっかけに自然消滅した。 カレと会わなくなって最初のうちは、やっぱり寂しかった。孤独に耐えかねて、メールしちゃおうかと思ったと きもある。

でも実は、社会人になるずっと前から、倦怠期が続いていた。 もしかすると、もう新しい彼女がいるかもしれない…そう思うと、メールを打つ手が止まった。 そのうちにわたしも、会社で女友達ができたり、一人で過ごすことに慣れてきたりして、次第にカレを忘れ ていった。

けれど、一度開かれたわたしの体は、時々目覚めてしまう。 しばらくは自分の指で欲望を満たしていた。でも何度もするうちに、それだけでは物足りなくなってきた。 何か、別の刺激が欲しい…。 そう思っていたある日のこと、ネットで偶然、ローターの存在を知った。 今ではそれは、ひとりエッチをする時に欠かせないものになっている。

ベッドに横になってローターのダイヤルをセットすると、静かな部屋にブウーンというモーター音が響き渡っ た。

ピンクの小さい卵型のものを、軽くおっぱいに触れさせる。これがもしローターじゃなくて、カズコーチの指だ ったら…。 「や…だ…」

つんと尖った先端が、細かい振動でしびれるような快感を引き起こす。 「いやんっ…あっ…あんっ…」

いやらしいおもちゃが、ゆっくりと体を這いながらクリトリスに到着する。 そこをコーチにじっと見つめられているのを想像しただけで、下半身がかーっと熱くなった。 「見ちゃいやんっ…」

言葉とは裏腹に、両足が自然と開いてしまう。充血して大きくなった突起は、ローターの動きに敏感に反 応する。

「あはぁんっ…あっ…あっ…いいっ…いいのっ…」

目尻に涙が浮かぶほど気持ちがいい。 体がとろとろにとろけ、形がなくなってしまいそう。 あそこからは、垂れるほどの愛液が出ているはずだ。 「あぁっ…もうダメっ…ここにもっ…ここにもちょうだいっ…」

大きくV字型に開いた両足のまんなかに、ピンクの指を直角に当てる。十分に潤っている割れ目は、それ を簡単に受け入れた。

部屋に響いていたブウゥゥーンという機械音が消え、代わりにわたしのなかで、細かく激しい振動が絶え 間なく続く。 「あぁんっ…あっ…いやぁぁぁぁん…」

独特の快感に、あっという間に下半身がヒクヒクと痙攣し出す。 太ももやお腹にまで振動が伝わって、まるで体全体が性感帯になってしまったかのようだ。 「だめっ…いっ…イっちゃう…いくぅ……あぁぁぁぁっん…」

絶頂を迎えた膣壁が、いやらしいおもちゃをねっとりと包み込んだ。 ダイヤルをオフにしてからも数秒間、わたしの花芯は、勝手にピクピク動いていた。

「サンライズ」には、液晶テレビが付いた有酸素マシンやスタジオ、プールがある。

最初は、スタジオやプールで醜い体型を晒したくなかったから、大きめのTシャツを着て、電動ウォーカーば かりをやっていた。

でもそれでは、カズコーチとお近づきにはなれない。 何でもいいからコーチと話したい…その想いが「サンライズ」に通い始めて1ヶ月後、わたしにとうとう水着を 買わせた。

プールプログラムに初めて参加したときは、結構緊張したけれど、慣れてしまえばどうということもない。あ んなに怖かった水にも、今は平気で顔をつけられる。

学生の頃は、運動があまり好きじゃなかったわたしが、こんなに積極的になるなんて! やっぱり恋の力って、大きい。 絶対にやせて、綺麗になって、カズコーチを振り向かせたい! そのためには、例の鬼チーフの食事のアドバイスも、聞き入れるべきなのかもしれない。 客であるわたしに厳しい態度をとる人の言うことを聞くなんて、ちょっと悔しいけれど、仕方ない。 全てはやせるためと、わたしの恋を成就させるため。チーフは、その手伝いをしてくれているんだと思えばい い。

それにしても…最近気がついたんだけど、あの岩野さんって、厳しい上にストーカーみたいなところがある。

別に付きまとわれたわけではない。いつも、ふと気がつくと、遠くからわたしを見ているのだ。カズコーチと話 をしているときなんか、特に視線を感じる。

あれは一体、何なのだろう。 チーフだから、お客さんやスタッフのことが気がかりなのかな? それにしても、観察し過ぎだと思う。 今日で、ダイエットを始めて丸2ヶ月。体重は2.5キロ減少した。 あごにたっぷり付いていた脂肪が、ほんの少し取れて、顔の輪郭がシャープになった気がする。なかなか 順調だ。

アクアエクササイズでよく一緒になるおばちゃんに、サウナで話しかけられた。 「どう? やせた? あたしはちっともやせない」

人懐っこい笑顔の中年女性が、三段腹をぽんぽんと2回たたく。 「ま、動く以上に食べちゃうからなんだけどね」

からからとお腹を揺らしながら笑う姿が、こちらの警戒心を一気に解きほぐす。 「やっぱり、運動と一緒に食事にも気をつかわないとダメみたいですよ。わたしは、あの鬼チーフの言うことを 聞いて…」

思わず言ってしまった一言に、おばちゃんが目を輝かせて反応した。 「鬼? 誰が?」 「あ…いや、ほら、岩野さん。厳しいから…」 「ええ!? そう!? わたしにはぜんぜん厳しくないよ! 天ぷらを食べ過ぎたって言った時も、まあ、我慢ばか りじゃストレスたまっちゃうから、たまにはいいでしょうって、一言で終わり」

驚いた。わたしの時とはぜんぜん態度が違う。 「あたしみたいな中年と違って、あなたは若いし、かわいらしいから、目標達成して綺麗になるのを期待して るんじゃないの?」 「いえいえ、そんな…」

仮にそうだとしても、お客さんであるわたしに向かって、怒ったような口の利き方をする必要がどこにあるの だろう。 「そういえばね、若いのになかなかえらい人なんだよ、岩野さんって」

噂好きのおばちゃんは、ある日、偶然チーフを見かけた時のことを話し始めた。

それは半年ほど前の、初雪が降った日の夕方。 「サンライズ」近くの大型スーパーの駐車場で、杖をつき、片足を引きずった男性が、屈んだり立ったりを繰り返していた。

買い物袋を落として中身を派手に散乱させ、それを、不自由な体で拾い集めていたのだ。 何人もの人が、彼を一瞥するだけで通り過ぎていった。 なんて冷たい人たちなんだろうと呆れたおばちゃんは、自分こそは手助けしてあげようと、彼に近づいた。 でも、次の瞬間やはりみんなと同じく、見て見ぬふりをして立ち去ってしまったのだ。 「どきっとしちゃってね、つい…」

実は男の顔半分が、やけどの跡なのか赤黒くただれていて、怖くて近寄れなかったという。 でも自分の行動をすぐに後悔し、助けに戻ろうかと、うしろを振り返ったその瞬間。 見覚えのある青年が、男にさーっと走り寄り、一緒に品物を拾っているのが見えた。それが、岩野チーフ だった。 「頭ではどうするべきか分かっていても、とっさには、なかなかねぇ…。その点、岩野さんはココで見る時と同 じ笑顔で、あの人に普通に接してたよ」

そんな優しい一面があったなんて。確かにえらいと思う。 でもチーフの笑顔って、ぎこちないんですけど…。さすがにそうは言えなくて黙っていたら、おばちゃんはすご いタイミングで、こう言った。 「岩野さんの笑顔は、いつ見てもさわやかでいいよね~」 「そうですかね~…」

適当に相槌を打った。 あいつ、やっぱりわたしにだけ態度が違うみたい。変なの。

ダイエット生活も、早、3ヶ月目。 ハナミズキが咲き終わり、じめじめする季節がやってきた。 天気と人のメンタルヘルスの間には、何か因果関係があるのだろうか。 最近、同僚の千佳ちゃんの様子がどうもおかしいと思っていたら、なんと、うつ病で休職することになった。 千佳ちゃんのことは、もちろん心配だ。 でもそのおかげでわたしの仕事は二倍に増え、焦りと不安から、ケアレスミスを繰り返してしまった。 例えば、会議の資料を30枚も多くコピーしたり、午前中に発注した物を、午後になってもう一度注文し たり。

どちらも、忙しすぎて、確認やコンピューター入力をしなかったことが原因だ。 けれど、こんなことを言っては何だけど、どちらも大した失敗ではない。 問題は、お局さまなのだ。 今年42歳になる我が社のオールドミスは、機嫌が悪いと人にあたるタイプで、度々わたしがその標的になっている。

ここ数日間も、理由は分からないけれど、彼女はご機嫌ななめだった。 コピー部数を間違ったときには、 「ウチの会社って、いつの間に30人も社員増えたの? あ、そうか、わざわざメモ用紙作ってくれたんだー」

発注ミスをしたときには、 「そのくらいの量の仕事、普通は一人で出来るんだからね」

行かず後家はわたしのことをずーっと監視していて、いちいちイヤミや小言を言ってくる。 こういう時、今までなら千佳ちゃんと目配せをしただけで、気持ちが軽くなったのに…。 分かってくれていた仲間がいなくなって、わたしのストレスは溜まる一方。 ついに我慢も限界に達し、絶対にやってはいけないことをやってしまった。 ドカ食いだ。 安物のワインにポテチ、フライドチキンにインスタントラーメン、餃子にたこ焼き、ミックスナッツ…これら合計 の摂取カロリーを計算するのが怖いほど、高カロリーのものを食べに食べまくった。

その結果。当たり前だけど、体重が2.5キロも増えた。 せっかく3ヶ月かけて落とした体重を、ほんの数日で元に戻してしまったなんて…。 ドカ食いをすればこうなると分かっていたのに、自分をコントロールできなかった。 大体、太った原因が、大嫌いな先輩のせいだなんて、悔しくて涙が出ちゃう。

「サンライズ」のプールの脇にある、ミストサウナの中。

わたしは熱い蒸気を浴びながら、バタフライのプログラムが終わるのを待っていた。 カズコーチは、自分が受け持っているスクールが終わると、大体はミストサウナに来て、生徒さんとおしゃべ りをする。

バタフライは人気がなく、参加する人はほとんどいない。だからうまくいけば、サウナで彼とふたりっきりにな れる可能性が高い。 「神さま、どうぞ彼だけがココに来ますように」

わたしは目を閉じ、背中を丸めて首を下げ、ただひたすら念じ続けた。汗が、じわーっと体から溢れ出 る。

ふと、扉の向こうで若い男性の大きな声がした。 どうやらレッスンが終わったらしい。 ガラスには水蒸気がたっぷり付いているから、外の様子はぼんやりとしか分からない。 誰かが、こちらに向かっているようだ。 逆三角形の体、色黒、太ももの辺りにオレンジ色の幾何学模様…コーチだ! やった!

わたしは思わずガッツポーズをした。 ミストサウナの分厚いドアが、勢い良く開かれる。 「あれ? 麻衣子さん」 「あ、どうも…スクール、終わったんですか?」

神さまに願いが通じたのか、サウナに顔を出したのはコーチだけ。わたしはバタフライという泳法に、心から 感謝した。 「はい、どうもバッタは人気がなくて…。ガッツポーズなんかして、どうしたんですか?」 「わっ、いえ、何でもありませんっ」

とてもじゃないけど、あなたが一人で現れたからです、なんて言えない。わたしは手を下げ、姿勢を正し た。 「麻衣子さんとは、いつもサウナで一緒になりますね~」 「そ、そうでしたっけ?」

二人っきりになれるのを望んでいたのに、いざそうなると恥ずかしくて、まともに彼の顔を見ることができな い。 「あれれ? 顔赤くしちゃって! そういえば麻衣子さんって、僕が担当しているプログラムしか受けてないで すよね?」 「そ、それはっ、わたしがここに来られる時間帯と、カズコーチのクラスが偶然重なっているだけで…」 「ふ~ん、そうかなあ~。僕はてっきり、麻衣子さんは僕のことを気に入ってくれたからなんだな~と嬉しく思 ってたんですけどね。なんだ誤解だったか~」

いけない、コーチへの想いがばれてしまう。いや、いつかは告白するかもしれないけど、まだその時じゃない と思うし…。まさか今、こんな風にからかわれるなんて!

すっかり動揺したわたしは、話題を無理やりドカ食いした日の出来事に変えた。 予想外にも、話している間に感情がたかぶって、泣きそうになってしまう。 「そっかそっか、先輩のせいで…大変でしたね」

わたしが話しているうちに、彼は、普段のカズコーチに戻っていった。

それは、ほんの数秒の出来事だった。 軽く目を閉じ、指先で、そこに溜まった水滴を拭い取ったその瞬間。生温かい何かが、わたしの左肩と顎 にふわりと触れた。 「ん!」

驚く暇すらなかった。 顎に添えられた男の右手が、わたしの顔をすばやく斜め上に傾けた。

反射的に強くつむった目を恐々開けたのは、ふたりの唇がぶちゅっと合わさったあとだ。 「んっ…やっ…」

イヤイヤをして離れようとするわたしの体を、狼が横からガッチリ押さえ込む。 「まっ…待って…」

キスをされるのが嫌なわけじゃない。むしろこうなるのは、待ち望んでいたこと。 でも、あまりにも展開が早すぎるし、大体ここは、いつ誰が入ってくるか分からないサウナの中なのだ。 「好きなんだろっ、オレのことが」

やっぱりばれてしまった。 「…す…き、です…でもっ…」 「でも?」

好きなことには違いないけど、突然の行動に、心も体も追いつかない。 「でも…あの…」

どんな風に言えば分かってもらえるのか…うまい言葉が見つからなくて、わたしはそのまま押し黙った。 と、その時。 サウナのドアがぶわんと開き、白いTシャツとジャージを着た男が、わたしたちの目の前に立ちはだかった。 「おいっ! お前、やっぱりまたやりやがったな!」

岩野チーフが怒鳴ると、すっかりプレイボーイの顔になったカズコーチはふんっと鼻を鳴らし、悪態をつい た。 「オレが何やったってんだよ! 好きなモン同士がキスしてちゃ悪いのかよっ」 「ウソつけ! お前、麻衣子さんのことなんか好きじゃないだろっ」

開かれたドアの向こうには、数人のスタッフが集まり、心配そうにこちらを見守っている。 「なんでそう断言できるんだよっ」 「今までのことを見てりゃ分かるよ! 麻衣子さん、コイツにだまされちゃダメだ!」

岩野さんの顔は真っ赤だし、カズコーチはふんぞり返っている。 「あれれれ~? チーフ、もしかして麻衣子ちゃんに惚れちゃったぁ?」 「ち、ちがうっ」

あちこち飛ぶ話に、わたしはすっかり混乱してしまった。 一体、何が、どうなっているの?

目を覚ますと、木目入りの天井、淡いクリーム色の壁、ライムグリーンのタオルケットが見えた。 「あ、気がつきましたか。ここはスタッフルームです。安心してくださいね」

女性スタッフの安藤さんが、わたしがサウナで気を失ったことを教えてくれる。

「チーフがとっさに麻衣子さんの体を支えてくれて、本当によかったです。そうじゃなかったら、今頃、もっとひ どいことになっていたと思います」 「岩野さんが助けてくれたんですか?」 「ええ。今、チーフを呼んできます。そのまま、横になっていて下さいね」

安藤さんはそう言い残し、部屋を出ていった。 わたしは天井を見るともなくぼんやりと見つめながら、サウナでのことを反芻した。 カズコーチの突然のキスや豹変ぶり、岩野チーフが言った言葉…改めて考えてみても、やっぱり何がなん だか分からない。

当事者だもん、聞く権利はあるよね…。ぼーっと想いを巡らせていると、ノックの音がして、岩野チーフが 現れた。

彼はわたしの顔を見るなり、 「申し訳ありませんでした」 と、深々と頭を下げた。 そしてわたしの質問に、一つ一つ、言葉を慎重に選びながら答えた。 実は前々から、カズコーチのプレイボーイぶりは有名だったらしい。 次から次へとお客さんに手を出すスタッフのことを、チーフとしても、苦々しく思っていた。 でもレイプをしているわけじゃないし、何より彼は「サンライズ」の顧客獲得に大いに貢献している。 だからこれまでは「みんな大人なんだし」と自分を納得させ、女たらしの行動を見てみぬふりをしてきた。 しかし今度ばかりは、見過ごすわけにはいかないと思ったという。 「どうしてですか?」

そう聞くと、岩野さんは瞬間的にわたしの目をちらっと見て、急に顔を赤らめた。 「それはっ…! あの…相手が、あなただから…」 言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。 思ってもみなかった突然の告白。彼につられてわたしの頬も、ぽっと熱くなる。 「でも岩野さんって、わたしにいつも厳しくて…」 「ごめん…あれは、気恥ずかしさの裏返し」 「そうだったんですか」

だから笑顔もぎこちなかったというわけか。 「あと、麻衣子さんへの想いを悟られちゃいけないと思ってた。オレにはチーフとしての立場があるから」

仕事に対する真剣な姿勢が伝わってきて、思いがけずわたしの心の針も岩野さんの方へぐぐぐっと振れ た。

でも「サンライズ」に通い始めて3ヵ月半が経つというのに、わたしは未だに太ったままなんだけど…。

「あの、わたしの、どこが…?」 「気持ちがすぐに顔に出るところ。分かりやすくて、かわいくて、危なっかしくて。なんだか、放っておけないん だ」 「…」

わたしは、今までの岩野さんとのやり取りや、いつか噂好きのおばちゃんに聞いた話、サウナに駆けつけて くれたことなどを、走馬灯のように思い出した。

なんて誠実でいい人なんだろう。 今日ここに来るまでわたしの心の大半を占めていた人は、すっかり真面目なチーフに取って代わってしま っていた。

ダイエット生活も、4ヶ月目に突入。 結局カズコーチは「サンライズ」を辞めさせられ、岩野チーフ、つまり剛さんとわたしは付き合うことになっ た。

スポーツクラブ以外の場所で会う彼は、意外とお洒落で、からからとよく笑う。 好みの映画やテレビ番組も大体同じだから、話題には事欠かない。 思い続けても叶わなかった人のすぐ側に、こんなに自分とぴったりの人がいたなんて…。 もう何回もHをしたけれど、わたしたち、体の相性もいいみたい。 この前は、ちょこっと冒険をしてしまった。

「サンライズ」の定休日。

わたしと剛さんは、プールの中にいた。 「いつか、波がひとつも立っていない水面を、掻き分けながら泳いでみたい」

そう言ったわたしの夢を、彼が叶えてくれたのだ。 ただし、全裸で泳ぐっていう条件つきだった。 そんなの恥ずかしすぎると思ったけれど、 「Hな意味じゃないよ、裸で泳ぐのって気持ちいいんだよ」

って何回も言う彼に気圧されて、わたしはそれを渋々受け入れたのだった。 誰もいないプールは、とても広く感じられる。 自分が起こした波紋がなくなるのを待ち、隣りにいる剛さんと目を合わせた。 「麻衣子、夢が叶って嬉しいか?」 「うん、ありがとう」 「麻衣子の真っ白い体の下の方に、黒いのが見えてるぞ」

「やだっ、見ちゃいやっ」 「ほらほら、動いたら波が立つ」

ただでさえ裸で恥ずかしいのに、改めて言われたら、顔がぽっぽと熱くなった。 「どうした? 泳いでいいんだよ」

なかなかスタートを切らないわたしを、彼が急かす。 「だって…もしかして、後ろから付いてくるんでしょ?」 「あはは、そんなことしないって」 「うそ」 「信じなさい。ほら、夢を叶えておいで」 「…うん」

わたしはビートバンを抱え、片足でプールの壁を蹴り、ぱしゃぱしゃとバタ足を始めた。 泳ぎ進めてみると、思っていた以上に気持ちよかった。体を締めつける水着を着ていないせいか、開放 感があるのだ。

あまりにも美しいアクアブルーの水が、わたしのためだけに左右に分かれていく。 初めての体験に、わたしはすっかり夢中になった。 ただただ集中して25メートルを泳ぎきり、大満足で後ろを振り返ると、 「ひっ」

彼が、わたしのすぐ後ろにいた。 「やっぱり付いてきたのね。しかもこんなに近くにいたなんて」 「麻衣子の体、すごくいやらしかったよ。慣れてないから、バタ足が時々止まるだろ? そうすると、足と足の 間に見える大事なところが…」 「やっ、やめてっ」

恥ずかしくて話を止めると、彼は耳元で囁いた。 「あんないやらしいのを見せられちゃ、オレは我慢ができない」 「はぁうっ…勝手に、見たくせに…」

耳にかかった吐息が全身に甘く広がって、思わず腰がくねってしまう。 「おいで」

手を取られるままに、彼に付いていった。 ジャグジーのお湯が、体全体に染み渡る。 「こっちのほうが、あったかくていいだろ?」 「んっ…ふっ」

ぶくぶくした泡に股間を刺激されて、あそこがむずむずと疼いた。

スポーツで鍛え上げられた腕に促され、彼と向かい合う。いわゆる対面座位の格好だ。 どちらからともなくキスをして、お互いの舌を絡ませていると、口全体が性器になってしまったかのよう。 「んっ…んんっ…」

吐息をもらさずにはいられない。 下腹部には、時々、長い竿があたっている。 「ねぇっ…もうこんなに大きくなってる…」 「我慢できないって言っただろ? 麻衣子のココはどうかな?」

手のひらを上にしたまま、太い指が花びらをこじあけ、入口を細かくかき回す。 「いやんっ」 「麻衣子もすごく濡れてるじゃないか。さらさらしたお湯の中に、ねっとりした液体がどんどん流れていくよ」 「あぁっ…いやらしいっ…」

待ちきれなくなったわたしは、自分の手でおちんちんを花びらの奥にあてがった。 十分に準備ができた体は、上から少し体重をかけただけで、ずぶりと彼を受け入れた。 「あぁぁっん…」

水のやわらかい抵抗を使うと、わたしの腰はいつもよりなめらかに動いた。それがよくて、自ら進んで体を 上下に動かした。 「はぁっ…はぁっん…」

肉棒が下から子宮を突き上げる。 「麻衣子…とろけそうな顔してるぞ」 「はぁっん…剛さんだって…」 「顔にへばりついた髪の毛も…すごく…セクシーだよ、麻衣子…」

大好きな人と、いつまでもこうしてつながっていたい。 でも初めての体験のせいか、わたしの体は留まることを忘れ、一気に走り出してしまった。 「あぁぁんっ…ねぇっ…ずっと、していたい…」 「オレもだよ…でももう、イキたくなってるんだろ? いいよ、イって…何度でも抱いてやるから…」

その一言で、わたしはいよいよ欲望のかたまりになった。 膣壁が、硬くて太いものにまとわりついて、しっかりと締めつける。 「麻衣子…ああ…しまるよ…」 「はあっ…はあっ…はあぁんっ…イっちゃうっ…」

自然と体が反り、あそこがぴくぴくと痙攣しだした。 「あぁぁぁぁぁっん…」

絶頂を迎えて、抜け殻になったわたしは、ぐったりと剛さんのほうに傾いていった。

「サンライズ」のプールでHをしてからというもの、ジャグジーを見る度に下半身が反応してしまう。

そう話したら、剛さんは、 「オレも、同じだよ」

と優しく答え、わたしの頭を数回なでた。 肝心のダイエットは、まだまだ続く。 ドカ食いの衝動は、あれ以来ない。また徐々に体重が減ってきた。 結局、ダイエットに一番効くのは、愛する人とのHかもしれない。

<了>

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