ダイエットヘの決意

ダイエット・フォーエバー

毎週のように発売されるダイエット特集の雑誌。もう何年こういうテーマを掲げてんだろ。よく続くよなあっ て思うけど、ダイエット特集を組むと雑誌の売れ行きは爆発的に上がるらしい。

それだけ、世の中痩せられない人が多いってことか。 私もそのうちの一人。 もちろんパラ見はする。 コレ知ってる。 コレやってみた。 三日坊主で終わった。 コレはやったことはないけど面倒くさそうだなあ。 お決まりのドクター登場! もっともなこと言ってるヨ。 でも、ま、そうなんだろうなあ。 ところで、この一冊で本当に痩せられるの? 私。 今まで、ありとあらゆるダイエットを試みてきたけど、体重を落とすには食事制限がいちばん効果的だっ た。食べなきゃ痩せる! 七キロから十キロくらい体重を落とせたことも三、四回。

だけど、今の私は百六十二センチで体重五十六キロ。痩せた時は四十三キロとかだったけどフラフラだっ た。

でも彼とか出来て、デートとか繰り返しているうちに、どんどん元に戻っちゃうんだよね。なんてったってデー トに欠かせないのはディナー。

おいしいものが目の前に登場。ダイエットしてるなんて言えるわけがない。 当然のごとくいくら食べても太らない女を気取る。手をつけだすともう止まらない。 うっかりすると目の前の男より食べてしまってるじゃないの。 「よく食べる女の入って好きなんだよねえ。見ていると気持ちいいよ。ダイエットとか言って食べないコ多い けど、なんだかガッカリするんだよね」

まったく、こっちがガッカリだよ。私もダイエットしてんのよっ。どーしよう。すんごい食べた。あー下剤で出しち ゃお。

はたまたチョット慣れてくればその男と喧嘩したり、浮気の心配をしたりでストレス太り。ま、リバウンドした ってことね。いちばん太っているときには六十五キロとかにも平気でなっちゃってた。だから今の五十六キロ は、それでもいいほう? でも、運動もあまりしないし、年も三十を超えているだけあって、プヨプヨブルルー ン。これってやっぱりやばいよなあ。オッパイだって垂れてきて、ブラジャーも背中の肉に食い込んでるし、な んだか体がだんだんイビツ。

だけどリバウンドはもう嫌だよ。だって苦労が水の泡なんだもん。それどころか、もっと痩せにくい体のシステ ムを作っちゃうって言うじゃん。「肥満スパイラル」ってゆーやつ。すでに幾度ものダイエットを繰り返し、失敗 を重ねた私はこの肥満スパイラルに陥っている。

肥満スパイラルというのは、食べない方式のダイエットによって体重を落とした場合に、脂肪を燃やす役 割の筋肉まで落ちてしまうため、基礎代謝が悪くなり、食べたものを燃焼しにくい、太りやすい体質になっ てしまうことだ。再び太ってしまった場合には、体脂肪だけが増え、痩せにくい体質に。これがいわゆる「リバ ウンド」です。

またダイエットするのなら、まずは何とかコレから脱出する方法を考えなければならない。 「食べないダイエット」を繰り返した私としてはもう同じ過ちを犯さずに、リバウンドなしのダイエットを探さな くてはならないのだ。

女三十一。ここがオバサンとイイ女の分かれ道! 女を捨てて生きるには人生長い。よ~しっ、もう一 度! 今度は間違いのないダイエットをやってやろうじゃないかっ。

でも、どうすればいいんだろ。

もう何十年も同じ体型を保っているモデルの友達、理恵に聞いてみた。 「毎度、毎度ダイエットして痩せて、究極の我慢して、爆発して戻って。私はいつまでこんなこと続けなけ ればいけないのかしらあ」

すると、理恵は答えた。衝撃の一言を。 「何言ってるの、れみちゃん。一生よ、一生。ダイエットは一生続けるモノなのよ」 そうか! ダイエットはやめるから失敗する。ダイエットは始めたら永遠に続けなければ意味がない。痩せ て終わりじゃダメなんだ。一生続けられるようなダイエットをするんだっ。ダイエット・フォーエバー! いっそのこ と、楽しくハマれるようなダイエットをしてライフスタイルにしてしまおうじゃないのっ。

〈ルール1〉 ダイエットは終えてしまうから、失敗する

銀座のホステスのライフスタイル

そもそも私が銀座のホステスになったのも、元はと言えばダイエットにある。ダイエット話で親友になったファ ッションモデルの卵、あずきが、「私、モデルだけじゃゴハン食べられないから銀座のクラブでバイトしたいの」

と言いだしたのがきっかけだ。 私のその当時の職業は気ままなフリーライター。好きなことしか続かない、という自分の弱点をよく知って いるので私が取材するネタと言えば娯楽のみ。

流行のファッション、ニューオープンのレストラン、ちょっと垣間見てみたいような夜の社交場ナドナド、男性 女性のファッション誌ばかりで、ライターなんて言うと聞こえはいいけど、原稿料なんて度外視の趣味の延 長のような働きぶりだった。実家住まいという気楽さを武器に、小遣い稼ぎ程度でも生活はどうにかなって いた。

しかし女が三十過ぎで独り身で、小遣い稼ぎでいいものかと不安もいっぱい。そんな時、二十五歳のあずきが超現実的な考えを吐露したのである。

「私ね、おカネ欲しいんだ。クラブで働いた経験はあるの。だけど、今度は紹介で入りたいの。で、週に二 日とか、時間的に融通がきくような働き方で稼ぎたいの。誰か紹介してくれるような人知らない?」

その時は他人事のように聞いていた。だけど彼女の気持ちは理解できる。で、ライターの宝である人脈か らクラブに通ってそうな男性に話を持ちかけた。

「お安い御用!」 明くる日、あずきを連れてその男性と待ち合わせ。彼の行きつけのクラブに皆で行くことになった。 そのクラブは今年で二十六年目を迎える老舗の超高級クラブ。各界の著名人が足を運ぶことでも有名 で、男性ばかりが通うクラブにおよそ縁遠い私でも、その名は耳にしたことがあった。

そんな一部の人だけが集まる聖域を覗けるなんてラッキー! のぞ私はまるで観光名所に向かうかのようにワ クワクしながらその店に足を踏み入れたのだった。

ロココ調で重厚感が漂う内装とグランドピアノの音色。頭のてっぺんからつま先まで完璧すぎるほどに美し く着飾ったホステス達。一枚扉を隔てただけで、こんなゴージャスな世界が毎夜繰り広げられているのか あ。

私は興味の赴くままキョロキョロ。せっかくだから楽しんじゃおっ。いちばんイイ女を呼んでおくれえ~ナンテ 気楽なもんだけど、あずきは目をサラのようにして顔をこわばらせていた。

そうよね、このゴージャスなイブニングドレスや和服に身を包んだオンナ達に混ざって働こうってんだもんね。 大した根性ダヨ。

「ねえ、れみさん! このお店超高級。厳しそうだよお~」 目の前に出された水割りには口をつけるどころか目にも入らぬ様子。 「そおだねえ。だけど高級なのはお客も高級ってことだから逆に働きやすいんじゃないのお?あ、おかわ り! もう一杯くだちゃあい」

高級なムードに酔いしれてすでにイイ気分の私。オトコの気持ちワカルなあ~。お酒がススム。 その一部始終をオーナーママが見ていたらしい。ツカツカっと寄ってきて私の隣の椅子に腰掛けた。 「ちょっとアナタもどぉ?」 無心に楽しむ私のデカイ態度が買われたらしい。 「えっ? 私ですかあ? 無理ですよ、無理」 「無理じゃないわヨ。アナタ向いてるわよ。とりあえず今日一日体験してみなさいよ。バイト代ちゃんと出す から」

ん? すでにこの場で飲んでいる私。 お小遣いもらって帰ったほうがお得じゃないの。 「んじゃ、今日やってみまぁす」

酔った勢いで、メンバーの黒服(ホステスをお客のテーブルに配置する係)に言われるがままいろいろなテ ーブルについてみる。

「おっ、新人?」 「そおですう。れみです。よろしく~」

酔っぱらっている私に

物怖じは皆無。何を話したのか覚えていないが、ひとしきりしゃべり、飲み、一夜だけだと思い込んでいる気軽さが手伝って、自分勝手に楽しく遊びきった。それはもう逆にお客が私のお相 手をしてたって感じ。

銀座のクラブは零時閉店が原則だ。合図のようにピアノの曲が流れる。 「え? もう終わりなのぉ~」 何、ココ超楽しいじゃん。高級クラブで高級な酒をタダで飲み、さんざん楽しんだ挙句、帰りがけに封筒 を手渡された。アルバイト代。中身をチェックしたら一万円札がピラピラ。 何、ココ最高じゃん。私の今までの常識は音をたてて崩れていった。 入店して一ヵ月がアッという間に過ぎていった。 お気楽な私もバカじゃない。イヤなこともいっぱいあるんだろうなあ~、コレ(ホステス)一本でやっちゃ危険 だよなあ~と不安を抱きながら、イヤなことが一つもなく一ヵ月があっさり過ぎていったのだ。私ってバカ? そして私の心にトドメを刺すように、お給料日がやってきた。

何、ココ、やっぱり最高じゃん。 私の強みはお酒が好きである、ということ。ホロ酔い状態はとにかく楽しい。楽しいことって無条件に続くも の。それに毎日綺麗な服を着て、美容室に行って、美しく着飾るという行為も本来オンナは好きなんだな あとつくづく感じさせられる。

当然のようにライフスタイルもガラリと変わる。 エステに行って、ネイルサロンに行って、なるべく寝て、etc………。 コレって今までの生活からするとすべて良心の痛むムダ遣いよね。それが、ココ銀座においてはあくまで 〝仕事〟として認識される。確かにお金がかかるようになったのも事実だけど、それは必要経費なのだか らしょーがないじゃん、と都合よく腹をくくってしまえるのだ。人間って好きなことをするためにお金を稼ぐワケ だしね。

また逆にフツーの暮らしに比べるとお金がかからなくなる一面もある。 まず筆頭にあげられるのが、人間最大の必要経費である飲食代。その中でもいちばん気合の入りがち な夕食以降の飲食が他人(お客)のお財布ですべてタダ飲み、タダ食い出来ちゃうわけなのだ。コレは大き い。

銀座のホステスの一日は大体にして、まず昼過ぎにトドのようにだる~く起き上がる。夜七時や八時出 勤だからといって夕方まで寝ていてはいけないのだ。前の晩にお店に来てくれたお客さん達にお礼状を書い たり、ご無沙汰の人には電話を入れて世間話をしつつ誘いを入れる等、些細なことながらやらなければな らないことがある。コレはホステスにとって、とても大事な作業となる。

一人二人ならともかく、キャリアと共にお客も日々増えてゆくのだから、昼過ぎから夕方までの三、四時 間にご機嫌伺い出来る人数には限りがある。今週、来週、自分の予定を頭に浮かべながら相手の予定 を聞きだしていると、「食事でも行こうか」となる。コレがいわゆる同伴で、夕食をどこかで共にした後一緒に お店に入る、というやつだ。

「きゃあ~嬉しい。ぜひい~」 とってもポジティブシンキングな私も、銀座の楽しい生活に慣れてきたら、それにはそれなりに贅沢な悩み というものがつきまとうことに気づき始めた。

銀座の高級クラブに通う客は食事も高級、と相場は決まっている。 同伴の場合、出勤時間は八時半。 豪華な食事だからといってゆっくり、のんびりやっているとあっさり遅刻のペナルティが課せられる。それも十五分単位で十パーセントずつ引かれてしまう厳しさで、シャレにならない。遊び慣れているお客はそのことを 充分に承知しているので、食事の場所は自ずと銀座が多くなる。

フレンチならマキシムやロオジエ、イタリアンならエノテーカピンキオーリ、和食なら京ふじ、ナドナド、あらゆる ジャンルの最高級店が軒を連ねてはいる。しかし、小さな一つの街において、ホステスにとっては毎晩のこと だ。お客の行きつけも名店ばかりに集中していることから、一流とされるレストランや料亭なんかにはすぐに 行ききってしまえる。自分のお金じゃ一生行かないような所でも、すぐに「またマキシムかよぉ~」ナンテ超生 意気なことをマジで思ってしまうようになるのだ。

しかしながらお客もホステスも見栄っ張り。ホントのところは「ザルそばでいいヨ」なんて思っていたとしても、 「和食が食べたいわあ~」とのたまう。

そして行き着くのは懐石料理。突き出しから水菓子までの長い道のりにどへぇ~となりながらも、一品一 品、「オイシイですぅ~。シアワセっ」と天井のライトを計算し、微妙な角度で眼球をさらしながら目から星を 飛ばす。

シアワセに浸っているかのごとく瞳をウルウルさせるのだ。 そのうち、気がつけばこの行為をやっているというほどに板についてくる。 そして同伴の時間ギリギリにお店に駆け込む。 いくら優雅な一時を演出していても気持ちは常に「今、何時だろう?」ということから離れない。 緊張が走る一瞬だ。だって、超、楽しそうな女(私)がナンデそんな八時きっかりに合図を出せるのか。 「絶対、ずっと気にしながら食事してたぜ、コイツっ」 なんて思われてしまったら、今までの苦労が一瞬にして水の泡どころかマイナスじゃん。だけど食事をする のもお仕事感覚になっているホステスにとって、ここでのペナルティはあり得ないのだ。

このお客ガッカリしたんじゃないかな? と心配しているのも束の間、 「おっ。もうこんな時間か」 デザートにカブるように会計を持ってこさせ、デザートをほっぽらかして店までダッシュ。最後の最後に、実 は優雅さとは程遠かったでしたあ~と正体を見せながら息をゼイゼイさせながら八時半にお店に滑り込 む。

ホッ。間に合った~。 「走ったら、暑くなっちゃった。シャンパンでも飲みましょうか?」 何事もなかったかのように、また気取りだす。 高級なワインやお客がキープしているこれまた高級なブランデー、ウイスキー、最近流行の焼酎と、ホステ スは何でも飲み放題である。ボトルを空けることが売り上げに繋がるのだから、飲むのが私達ホステスの最 大の仕事であるワケで、うす~い水割りなんぞ作っていれば、すかさずお姉さん(先輩ホステス)から、「目 薬じゃないんだからもっと(お酒)入れなさいヨ~」なんて言われてしまうのである。

私の場合はもともと酒好きだからどーってことないけど、飲めないホステスにはさぞかしキツイだろう。だけど 根性がなければホステス稼業は勤まらない。すぐに辞めてしまうか、徐々に鍛えられて、焼酎なんか味がし ない、水にしか思えない~と飲めるクチになってくる。

銀座のクラブは基本的に零時に終わる、と先に書いた。 しかしホステスはそこで、じゃ、サヨナラ~とは言いにくく、飲み足りない、小腹が減ったというお客に付き合 うことになる。コレがいわゆるアフターで、カラオケやショーパブ、ゲイバー等、くだけた場所へと繰り出すのが 定番だ。場所も時間も自由だから六本木に行くもよし、新宿二丁目なんかでもOK。

ただしこれもホステスにとっては同伴と同じく仕事の一環なのだ。 お客と親しくなって、末永く可愛がってもらえるように、楽しかったヨ、また会いたいぜっと思わせるように、 銀座から始まった一夜は華々しくフィナーレを迎えるのであります。

従ってホステスはこの時、店内ではナカナカ人目があって大っぴらには出来なかったことに闘志を燃やす。 話の本題はココにあったりする。電話番号を交換したり、次の約束をしたり、チップをもらったり、「おうっ、ナ ンカ欲しいものあんのか? 買ったる」と言われたり。

でも喜んだのも束の間、その交換条件だぞといわんばかりに口説かれたり。 あらゆる可能性とよしなしごとが秘められた男と女の一騎打ちの場ともなるワケなのです。お~コワっ。 その日の戦いに勝ったり負けたりしながら、クタクタになってホステスは床に就く。 時間は午前四時、五時は当たり前。同伴で午後六時半頃からスタートしたとすると、ざっと十時間以 上、人と食ったり飲んだりしながらとにかく喋り続けていたことになる。

昼の営業電話から入れると……? モノ凄い労働時間。コレ高給取りなんて言えねえ~よっ。 もっとカネくれえ~、ってなもんで、豪華な食事同様、ふと気づけばおカネに対してもド生意気になってし まうのであります。

あっさりリバウンド

銀座のホステスのもっともベーシックな一日の過ごし方はザッとそんな感じ。 一見、華やかで贅沢三昧してそうに思われがちだが、キャピキャピと楽しんでいられるのも最初のうちだ け。一見高額なお給料を保証してもらうからにはハードルの高いノルマが課せられていて、ある日を境に、 時間的にも精神的にも常に戦っている気分になるのが実情だったりする。

しかしながら銀座のオンナは「テーヘン(大変)だっ、テーヘンだっ、ツライ、ツライ」なんて言いながらも勝負 好き。それはハッキリ言って、勝った時にはとってもイイコトがあったりするからで、これは一度味をシメたらも ~やめられない。

気がついたら、いろんな殿様(お客)の顔を浮かべながら自分の刀を磨く日々だった~なんてことはザラ だ。

たとえ負け戦ばかりに痺れを切らし、「私、疲れちゃったからも~辞めるっ! 昼間の仕事するっ」なんて 引退発言したとしても、戦の少ないお昼間の生活なんかにはすぐに、もっと痺れを切らし、まるで長期休 暇を終えたかのように、「戻ってきちゃいましたあ~」と、再び刀を磨きだすことになる。

同じ目的を持つ我々ホステスは、ライバルながらもその気持ちが痛いほどよく分かる仲間でもある。 「一度本人の気が済むようにやってみるのもいいかもね」 なんて温かく見送る。 お客から、「○○ちゃん、いないの? ど~したの?」と聞かれても、「チョット、お昼間やってみたいらしいの よ。でも、すぐに戻ってくるわよお~。二、三ヵ月よお~」

「そうだねえ~」 なんて皆で無責任に占って、しかもその占いは細木数子級に的中。よく考えたら誰にでも出来る占いだ ったりして。だけど引退気取りの本人を逆撫でしないようにと皆でそっと見守りながら、戻ってきた暁には、 「お帰り~い」と出張帰りのように温かく迎える、ナンダカよく分からない銀座の酒場の絆みたいなものがそこ にはあったりするのです。

ところで、一度入ったらナカナカ抜けることの出来ない魅惑の街銀座において、私達ホステスには、もう一 つ心を通わせるキビシイ戦いが存在する。それは何を隠そう、「肥満」との戦いなのである。

これまでいくつものダイエット法にチャレンジしてきた私も、銀座に来たらあっさりとリバウンドしてしまった。 気づいたら、まんまと体重が増えてしまっていたのである。

ダイエットで最高潮に減らした時の体重は四十三キロくらいにもなった。体調も見た目も、精神的にも私 のベスト体重は四十七キロと判断をくだし、上手いことキープしてきたつもりだった。

しかし銀座のホステスに転身したら二ヵ月あまりで三キロ増。あれよあれよという間に五十キロの大台に 乗ってしまったのだ。

ええーっ!? ナンデでしょう? と自分にトボケてみてもしょーがない。あ、やっぱりねえ。 あまりよく考えなくても、銀座のホステスのライフスタイルはそもそも太るように出来ていた。 まずは同伴につきものの豪華なディナーは美味しい~っと平らげるのが礼儀、の前に人気の秘訣。男は往々にして、「よく食べる女の入って好きなんだよねえ~」

とのたまうからして、人気が命のホステスはまずそのとおりにする。 売り上げが命のホステスは店で酒を飲む。 アフターが勝負となるホステスは腹が減っては戦は出来ぬ、と深夜の二時過ぎだというのに今度は自ら 食って、お客に合わせてまた飲んで。

重くなった胃を土産にあ~疲れたびぃ~とすぐに寝る。 不規則な生活で、いつを朝だと考えればいいのか分からないまま、昼過ぎに起き上がったかと思えばこれ また不思議! しばらくするとお腹が減ってパックリ食べる。

その上、お店で出されるフルーツやツマミに自ら手を出さずとも、お客からア~ンとかいって口元へ運ばれ たらトホホ、食べないわけにはいかない。

お客にとっては一回のことだとしても、ホステスは一晩にいろいろな席を回るから、アッという間に軽~くケ ーキ一個分のカロリーを摂ってしまった、という事態に陥っている。

さらに、私達ホステスの生活において、運動をしている場面ときたら同伴出勤直前の猛ダッシュのみだ。 ドレスや着物で、足元はピンヒールや草履で、お酒を飲んで、たらふくに食べた後で、寿命を縮めるように 猛ダッシュ。

脂肪を燃やすというよりは心臓が焼けつくぜっといった感じなのだ。 お店が終わり、アフターに行く時はもちろん、「ヘイ! タクシー」

アフターが終わってお

家に帰る時はもっと当然、「ふう~、タクシー」 うち

気がつけば、運動どころか歩きもしてない、となるワケです。 そんなマグロの養殖、全身大トロになりそうな銀座ライフに恐れをなしたある日のことだ。私は全身が凍り つくような発言に遭遇したのであります。

それはある同伴の食事の席でのこと。 超上客である上場企業の社長二人が、私が働くクラブのオーナーママ(通称大ママ)と五十キロの大台 に乗って自殺寸前の私を有名料亭に招待してくれたのである。

他愛のない世間話から恋愛話にお題が移り、さらに結婚話へと発展。 大ママはこの道三十五、六年。その昔、小悪魔タイプと呼ばれたほど可愛く美しかったらしいが一度も 結婚したことがなく、そんな機会にさえ恵まれなかったという。

「え~。イイ方(お金持ち)がいっぱいいたでしょうにぃ。ど~してですかぁ?」 無邪気に、だけど、ナンデナンデよぉ~とチョット問いただしたい気分で聞く私。 ジッと言葉を待つ社長達。 「銀座にいるとねえ……」

大ママは目の前に並ぶご馳走を頬張りながら口を開いた。

「目も肥え、舌も肥え、(ジェスチャー付きで)カラダモコエ(体も肥え)」 一同硬直。 ゲッ! わ、笑えない。大ママは太っていた。 銀座にいる以上、ホステスにとってクラブのオーナーママはビッグスポンサーとゴールインしたホステスと同様 (いや、次かもしれない)憧れの存在だ。

長年ホステスを続けるのさえ様々な苦労がつきまとうというのに、お店を流行らせ続けて二十五、六年と いったらカリスマもいいとこで、その生き方は何から何までマネしたいってなワケで。

入店してからというもの、私は分からないこと、困ったこと、悩みナドは何でも大ママに相談してきた。そし て手取り足取り、大ママは私にいろんなコトを教えてくれた。そして私はそのとおりやって、人気を伸ばして きていたのだ。

私にとってはすでに教祖サマのような存在の大ママだけど、この時ばかりは大いに反発。逃げだしたい心 境であった。

その日を境に、私は自分が大ママの体型になった夢をよく見るようになった。 ギャア~っ、バサッ! 起き上がる。ゆ、夢かよお……。 トコトコ、ぴょんっ。体重計に乗る。五百グラム増。 ゆ、夢じゃないのかよぉ……。 かといって銀座のホステスにデブは少ない。男が敢えて通うくらいなのだから一般の人達に比べたらスタイ ルは全然よかったりするくらいなのである。

私は、この悩みに関してだけは大ママではなく、美しく、スタイルのいい売れっ娘ホステス達に相談するよう になった。

落ち着け、落ち着け、体重!

リバウンドはいつ訪れるか分からない、不慮の交通事故や地震のような感じか。 人間の体というものは全く思うようにいかないものですねえ。 ここまで気をつけてきたはずなのに、またもやコントロールが利かなくなってきてしまいました。 食事ナドを意識しながら、かろうじて体型を維持していた私の体重はうなぎ上りに増え始めてしまってい るではありませんかっ。ガビ~ン。

ここ最近では最高潮に体重が少なかった四十五キロに対して十一ヵ月目の今、私の体重は五十キロ。 二ヵ月前までは四十六・五キロ。増えたことは気になっていたけど、仕事の量が急激に増え、生活にスト レスを感じ、闇雲に食べてしまった。その割には増えなかった気もしないではありませんが、銀座のホステス になるという環境の変化に伴い一気に三キロ以上も増やしてしまった。まさに環境の変化によるストレスが 原因。

まず、もともとライターとして早起きの習慣がある私に朝食は欠かせない。 朝八時半になると腹時計が鳴り朝食をバッチリいただく。銀座のホステスに転向したら夜の長さが気に なるから出来る限り昼寝をする。

しかしながらお昼くらいまでしか眠れない。 ウダウダと起き上がって昼食を摂る。まったく一般人の感覚。夜八時出勤の私は夕方から仕度を始め る。同伴がある日は五時半に、ない日は七時少し前に美容室に入る。どちらにしろそこでまた食事を摂 る。

お酒に酔わないために……いやいや、意外と空腹感があるのであります。 ナントこの時点でもう三食目。 お店で酒を飲む。ツマミをつまむ。よりによって酒場のツマミときたらピーナッツにチーズ、チョコレートにおか き、高カロリーに加え全部止まらない系ばかりなのだ。またいくら食べても満腹~という気にはなれない。

深夜の十二時半頃お店が終わる。お客さんとアフター。目の前にはもちろんご馳走が並ぶ。そのとき、な ぜか腹が減っているんだな、コレが。お酒に酔っているせいか気が緩んで空腹に身を任せパクパクやっちゃ う。気づくと満腹。お酒ももういらない。アレ、眠い。とっとと帰りたい。

朝方四時頃帰宅。すぐに寝る。そして朝八時半には腹時計が鳴る。こんなことしてたら一気に太った。 当たり前か。 一体何カロリー摂ったんだろ、私。切り札の下剤も飲まないまま、もしくは手遅れ的に飲んで寝てしまう。 朝食時には下剤も作用していない。昨日のすべてを体に重く乗せたまま朝いちばん体重計に乗る。

ううっ。死にたい気持ちだ。 私の例は極端かもしれない。銀座のホステスに環境をスイッチする人はあまり多くないとは思いますが、 誰にも環境の変化というものはあるのではないでしょうか。

多忙な日々から激ヒマになったりして、どちらの生活が〝食べることを考えずに済むか〟は人それぞれだ と思いますが、この生活リズムの変化には危険がいっぱい。食生活のリズムまでもが崩れてしまう。私の場合、ストレスを感じると何故かいつもその矛先は食に向けられている。

だけど、ココでアデュ! ダイエットしてしまってはならない。環境に身を任せて脱落してはならないのだ。 再び、あきらめずに策略を練ろう。 キーポイントは起きている時間。 長い時間だらだらと起きていてはいけない。不規則なら不規則なりの生活パターンを考案する必要があ る。

なんとなく起きていたとしても、腹が減る。腹が減っては戦は出来ぬ。おデブになっては人気も落ちる。落 とすのは体重のみ。意志を強固にしてひたすら食べるのを我慢するのではなく、頭を使って新たなリズムを 生み出してしまうことが大切なのだ。

ココで食べるのを強引にやめようとするのも、実は挫折してしまうことになりかねない。つまり、リバウンドに 襲われる。

ダイエットと関係ない人生を送っている人は、リバウンドというものが理解出来ないらしい。 「ようするに意志が弱かっただけだろ?」 なんてのたまう。 自分でもそんなふうに思ってしまったり。すると自己嫌悪の塊になってしまう。つまり、自分のことが嫌いに なってしまう。

これが、いちばんイケナイ。 あなたが悪かったのではない、悪かったのは生活パターンなのです。嫌いになるのは自分ではなく、これま での生活のパターンだけで充分。

自棄をおこさず、冷静に自分が置かれている状況を見つめ、自分を好きでいられるために作戦を練る必 要があるのです。

どうしても充分な睡眠時間がとれないことによってお腹が減る人は、とにかく気軽に摂れるゼロカロリー飲料や食品のバカ飲み、バカ食いで飢えを凌ごう。

それはリズムが取れない場合の応急処置だ。しかし、コレはアナドレナイ。あらゆるケースに役立つ、結構 使えるテなのだ。いや、まずはこの方法で気持ちが落ち着くのを待つしかナイとも言えよう。そこからゆっくりと 最良の方法を考えればいいのだ。

自分の体重と生活パターンに意識を行き届かせようとする姿勢。まず、それが大切です。 落ち着け~。落ち着け~。落ち着け、体重!

〈ルール2〉 生活リズムの変化は危険がいっぱい

 

女の歴史はダイエットの歴史

デブのハンコ――小学校三年生の思い出

果たしてダイエットに最良の方法というものがあるのだろうか。過去にいろんなダイエットにトライしてきたと いうのに、今もこんなに体重に悩まされているなんて! じゃあ、今までの経験はすべてムダだったという の? ゆ、許せない……。

だけど、結果痩せなかったとか、一度は痩せたけどリバウンドしたとか、そういえば失敗の仕方にもそれぞ れに特徴があったハズ。失敗は成功のもととも言うわよね。最良法を見つけ出すためにも、ここはひとまず 冷静になって過去の自分を振り返ってみることにしようか。

私にデブの烙印が初めて捺されたのは小学校三年生。小学校といえば年に二回、春と秋に身体測定 が実施されていたっけ。私はその頃、身長はグンを抜いて高かった。背が高い方がカッコイイ~って自分で も思ってたから、身長測定の時はさらにグンっと背筋を伸ばして結果の声を待つ。

「百五十三センチ」 保健の先生が言うと、周りの同級生が、「わあ~っ、スゴーイっ」 いやいやぁ~、まあまあ~、皆さんもそのうち大きくなるとイイですねえ、牛乳飲むとイイですよぉ、あっ、煮 干もね。ヤな奴だったかも。

体重測定。 「六十キロ」 ザワザワザワ。プッ。す、すごお~い。 「うっ」 目をウルウルさせて、脱いだ制服を片手でバッとひったくりダダダダダーッ(というほどの距離でもないが)、 恥ずかしさのあまり保健室のカーテンの仕切りの後ろに隠れる私。

全生徒の測定が終わり、保健室の先生が私の様子を窺いに来る。 「れみちゃん、太ってることは恥ずかしいことじゃないわよ。だけどね、あまり太ると成長や健康の妨げにな ると思うから、先生、れみちゃんのお母さんと一度相談したいの」

エエッ! け、健康の妨げ? 私は病的に太ってるってことなのっ! 少女の私は本当にショックだったっ け。

私の母は、あまり真面目な母ではない。学校に呼ばれると、「あ~面倒くさいわあ~」ってな感覚で、担 任の先生と保健の先生が真剣に私のデブを心配して、お家でのお食事のバランスを~とか、夕食後に縄 跳びとか~、ってアドバイスに、へいへいっ、分かりましたあ~。その場が過ぎるのを待つだけという姿勢。

その証拠に学校を出ると、「れみちゃん、あそこでケーキ食べて帰りましょうヨ」 さっきの話聞いてたのかよ。 「うんっ! 食べたいっ」 オマエ(私)もなっ。 だけど、その時、私はケーキを食べるのをガマンした。

食べないダイエットの始まり

食べなきゃ痩せる。小学校三年生のとき、私はこの単純明快なダイエット法に初めて手を出した。朝はノンオイルドレッシングをかけたレタスと

胡瓜のサラダと紅茶(確か、発ガン性があると噂されたサッカリンを使用したノンカロリーの砂糖を入れてたっけ)のみ。

お昼、学校は給食だったけど、野菜だけを箸でチョコチョコすくって食べ、あとはビニール袋に全部捨てて ランドセルの中にこっそりしまう。腹減った~、だけど何としても痩せたいっ。おやつもナシ。夕食はワカメや 野菜をイッパイ入れたお味噌汁か湯豆腐か。そんな感じだった。

その頃、アイドル歌手として人気絶頂だったのは松田聖子。アイドルばかりが登場する月刊誌かなんか で、彼女の体重を知る。百五十八センチ、四十五キロ。よ、四十五キロかあ。私より十五キロも少ないの かあ。私は松田聖子の体重を目指すようになった。

二ヵ月もすると私は松田聖子になった。大デブだった私はまさに別人。か細い小学生。その当時松田 聖子が通っていた美容室に行って聖子ちゃんカットにしてもらい、フリフリのドレスを着て、自分の部屋で 「青い珊瑚礁」(松田聖子の曲)を熱唱。一日の中でこの時間だけが楽しくナゼか元気いっぱい、あとはフ ラフラ。ほとんどベッドでタダ時が過ぎ、食事の時間が訪れるのをひたすら待っていた。

ある日、母が再び学校の先生に呼び出される。 「急激に痩せすぎです。お嬢さん、給食もほとんど手をつけていないみたいで、体育の時間が来ると具合 が悪いと保健室に行かれるんです。あと、あのヘアスタイルは校則で禁止されています」

へいへいっ。 「厳しいわねえ~学校って」 帰り道、先生達の言ったことに対する母の感想はこれだけだった。

そんなかたく 頑なな食べないダイエットもある日突然終わることとなる。私は自分の部屋の本棚の上の方にあ る辞書を取ろうとして、椅子の上に乗っかった。分厚い辞書を見上げながらさらに手を伸ばしたその時、ダ ダーンっ!! 目が回って地面に転げ落ちた。その音に驚いて何事かと母が私の部屋にすっ飛んできた。

「どうしたのっ! 何があったのっ!」 「ああ、あれ~っ。なんだか目が回った」 「あなた、食べなさすぎなんじゃない?」 え、今さらそんなこと言っちゃって。 転んだ後も、意識はすぐに回復。気を取り直して、お風呂に入る。ダダーンっ!! お風呂場の湯気に意 識が遠のいた。アレ、またやっちゃった。母にまた気づかれたカナ。

お風呂から出ると、ポタージュスープとホットドッグが用意されていた。夜十時。私の食べないダイエットは 終わりを告げた。

元の体重には戻らなくとも、残念ながら十五キロ減らした体重はアッという間に十キロ近く回復。私は再 び太り気味の小学生となる。

しかしながら、その後もダイエットというとすぐにこの食べない系に走る傾向があった。中学、高校、大学 生、その時々のダイエットブームにのっとって、一つの食品を集中的に食べ(たとえば、コンニャク、リンゴ、 卵、グレープフルーツ等)、あとは極力食べないようにする。

確かに痩せる。だけど、ホントはこの世の中には食べたいものは沢山あって、食べてはいけないと思うと余 計に食べたくなる。喫茶店などに入るとメニューの中のハンバーグやスパゲテッティ、パンケーキにチョコレート

パフェ等の写真を固唾を呑んで見つめる日々。

母親が無神経にそれらを注文すると、「ねえ、匂い嗅がして」

クンクンする。しかし食べた気になれるハズはない。好きなものを好きなだけ食べていたら確かに止めども なく太るだろう。今思えば、この極端な制約を与えるダイエット法はストレスによる失敗の代表格ではなか ろうか。

だけど、この食べないダイエットにも実はいいところはあった。肌が抜群にキレイになるのである。日頃、い かに脂っこい食事や、体によくないものを口にしているかをしみじみと感じるほどに、アッという間に肌はツル ツルになる。まあ、ずっと油分を摂らなければ、カサついてくるんだろうけど。

そういえばダイエッターでない人からも同じ発言を聞くことがある。それは歯の矯正を始めた人達。矯正器 具によって、しばらくの間何も食べられない日が続くとみるみる美肌に生まれ変わっているのを実感すると いう。

それは「プチ断食」を連想させる。体内に汚いものを入れない、リセット期間を持つことはたまにはいいのかもしれない。

〈ルール3〉 ダイエットの敗因はストレスにあり

ダイエットサプリメントはいかに

怠け者の私が次に着目したのはダイエットサプリメント。 確か中学生の頃だったか。食べたもののカロリーを八十パーセントくらい大幅にカットしてしまうという夢の ような話に、迷うことなく飛びついた。

今でこそ氾濫しているが、その当時(十六、七年前)は「ギムネマシルベスタ」でカロリーカット系のサプリがようやく世に注目されるようになった時期だった。

ギムネマシルベスタ(通称=ギムネマ)とはインド原産、ガガイモ科に属するツル性の植物の名前だ。この葉を噛んだ後に砂糖を舐めるとアラ不思議、全く甘みを感じないというので、古代インドではヒンディー語で「グルマン=砂糖を壊すもの」としてダイエットに活用されてきたのだとか。それをサプリメントに加工して、体 内に放り込んでおけば、糖分摂ってもなかったことにしてくれるってなワケで、ホントかよお~と頭のどっかで 思いつつも、即買い。一日十粒から十五粒を三度の食前十分前に飲み分ける。コレでOK。カロリーカッ トといってもギムネマは主に糖分に効く。だから単純な私はちゃんとした食事はあまり摂らずに、チョコレート やケーキ等の甘い物系に走ったっけ。しかし、手応えはなかった。注意事項をよく見よ。

「効果には個人差があります」 でも、効く人はいるのだろう。だってその後も炭水化物を吸収するという白インゲンの抽出物やキノコキト サン等々、あらゆる成分の特徴に着目した新製品が続々誕生してきている。

全米で大ヒット! とか何十万人に愛用されているロングセラーとか、有名人や一般人の喜び(痩せて) の声がついていたりすると、こっちもまた、コレなら効くかもっ、今度こそはっ! と懲りずに購入してみる。

で、ふと気がついた。いろんな製品を試しているにもかかわらず、その結果思うことはいつも一緒。本当に カット(カロリー)してくれてるのか!?

それでも不老長寿の薬を探し求めた秦の始皇帝のように、怠け者の私は飲むだけで痩せられる秘薬を 探し求める。だけど、カロリーカット系はもう期待出来ないから、今度は燃焼促進系にチャレンジしてみよ う! と目をつけたのが「ガルシニア」。南アジアに自生するオトギリソウ科の常緑樹で、その果実の皮に潜 む成分、HCA(ハイドロキシクエン酸)が脂肪の形成を妨げ分解、燃焼を促進するというもの。

これ飲んだからと安心していつにも増してドカ食いしているわけでは決してない。だから、(だけど?)私の 体重は増えもしないが、やっぱり減りもしなかった。

他にも燃焼系では「ナイトダイエット」等の、寝ているうちに痩せられるという夢のようなお話にはすべてのっ た。今では私は「すごく効いた!」という人に出会うと、この人は販売元と何かしらの関係を持っているので はないかっ? とまずは疑いの目を向けるようになっている。

ところで、このようなダイエットサプリメントの箱などにはその使用方法についてあらゆる記載がなされてい るが、私が気になるのはやっぱり「効果には個人差があります」というその一行だ。さらには「一~二ヵ月か ら効果があらわれる場合がありますので長期のご使用をおすすめします」ナンテのもある。

でもさあ、食べたもののカロリーをその場で八十パーセントもカットしたり、燃焼させたりしているハズなの に、それがどーして二~三ヵ月もかかるかなあ~。少なめに見積もっても四十~五十パーセントはその日 のうちにカット出来てもいいんじゃないんすかねえ~。

「美味しい話には裏がある、まずは疑ってかかれ」。いつ誰が教えてくれた言葉かは忘れましたが、そんな 言葉があったことを私はふと思い出すのでした。

ダイエットサプリメントはもしかして人生勉強にいちばん効果的だったりして。 そんな私にもいまだその効果が不明なものがあります。それが「BOWS」。五年ほど前からこの世に登 場して、その当時は通販というか、代表の会社に直接電話をして送ってもらう方法のみで、その後一部の ドラッグストアに置かれているくらいで探し当てるのも大変でしたが、今ではコンビニ等にも君臨するまでに 成長し、商品のラインナップも展開し続けているというから、そのニーズの高さが窺えます。

そして、その姿が今も私の心を揺さぶります。

でも、BOWSがまだ無名な発売当初、すっかり疑り深くなっていた私はもちろん試していたのです。 まず、その広告が衝撃的だった。BOWSはバリアス21というリン脂質を含む植物性抽出物が主成分 で、それが糖分、脂肪分の八十パーセントを包み込み、体内の吸収を強力に抑制する……と以前どっ かで聞いた話のような気もしますが、私の心を捉えたのは、それを写真で説明しているところなのです。

BOWSは顆粒で、スティック状になっておりそれを百五十ccの冷たいお水などに混ぜて飲むのですが、 その写真では、まずビーカーにお水で溶かされたBOWS水が入っています。そこにゴマ油かオリーブ油だか を注ぎ込む→油が分離しだしている。するとBOWS水がその油をたちまちキャッチして、アレヨアレヨという 間にまるでボールのような一つの丸い塊にしてしまっているではありませんか!? という写真が入っていたので す。

そして腸内ではまた含有成分であるビフィズス菌が油分の十パーセントを餌にカサを増し、しかも常に善 玉菌優勢状態に保つことから便の量を増やすことが出来るのみならず、腸にへばりついた宿便だって取り 去ってしまう、要するに太るものは固めて出しちゃえっ(宿便のお土産付き)っていう手法なのです。

今までの製品はカロリーカットと言ったって、実際どうやって吸収しているのか、よく考えたら(考えもしなか ったが)分からなかった。BOWSはそのへんを目で納得させてくれたワケです。

私は母と試すことにしました。なかなか手に入らなくなることを危惧して二ヵ月分くらい買い込みました。 一箱には三グラムのスティックが三十袋。これで十日分、約一万円なり(その当時。今では安売りもしてい る)。一ヵ月一人三万円。二ヵ月分となると、二人でおよそ十二万円分も買い込み、それでもコレでとうと う痩せられる、何でも食べていいんだヨといい買い物した気分になっておりました。

ところが母も私も二日間で一・五キロくらい太りました。 「チョットれみちゃん、まるで便が出なくなっちゃったワ。お腹が張って苦しいい~」 「ママ、私もっ。全然出ない。当分出ないよコレ。どんどん体重増えるよコレ」 慌てて販売元の会社に電話する母。すると、便を促すセットアイテムとして「BOWS便どっさり」(現在 は改良されて「BOWS朝の定期便」となっている)という凄いネーミングのシロモノを薦められた。アレ、本 品の善玉菌はど~しちゃったのかねえ。それも一箱二十四袋入りで一万円近かった(現在は半額くらい の安売りアリ)。

「れみちゃん、コレいくらなんでもお金かかりすぎるわよ」 「ねえ、ママっ、もう止めようよ。開封していない分、返品しようよ」 「当たり前」 こうして、私達のBOWSダイエットは二日で幕を閉じました。でも、いまだに売れているところを見ると、 効いている人いるんじゃないかな? と、コンビニで見かけるたびに私は実は気になっているのであります。で も、私の周囲からはイイともダメともBOWSについて声を大にする人はいない。

そして、再び手が出ないのはなんてったってその金額にある。ダイエットサプリメントは、例えばそれで痩せ たとするならば、止めた途端に太りだすのではないか? だとしたら永遠に飲み続けなければならないのだ ろうか。一生、買い続けなければならないというのか。となるので、金額は重要なのだ。

それと同じく金がかかるなあ~と思ってやったものには「塗るだけ」のボディクリームやジェル等の化粧品の 類がある。その先駆けとなったのは、覚えている人も多いと思うが、遡ること十数年前、ディオールの「スヴェ ルト」という痩身ジェルだ。これが大流行したことがあり、そりゃあ入手困難もいいとこで、海外に行く友人に は、「五本! 十本! ありったけ買ってきて!」

ホントに効果があったのかなかったのか、食べる量にはおっつかなかったりして。血相変えて汗をかくほどに 指に力を入れて贅肉に擦り込んでいたのが、いささかエネルギー消費に繋がったような気がしないでもない が、まあ、それは自力とも言える。そのうち全身に塗る行為さえメンドーになってやめてしまったが、恐ろしい ことに、間もなくするとナント、ディオールからもスヴェルトは姿を消した。だが、その後もこのような痩身ジェル はいろんなブランドから展開されており、今も出せば売れるというヒットアイテムなのだとか。

体重を増やすのはカンタンだが、貯金を増やすことはなかなかムズカシイ。体重を減らすのはムズカシイが 貯金を減らすことはカンタンだ。

行くか止めるか、ま、それは人それぞれだと私は思うのであります。

〈ルール4〉 お金のかかるダイエットは続かない

お茶ダイエット

〝痩せるお茶〟として思い浮かぶのはやはり中国系に多いのではないでしょうか。その信憑性の源といえ ば、そもそも中国人の女性があれだけ脂っこい中華料理を毎日食べているのにもかかわらず、何故ボディ コンジャズなチャイナドレスをスラリと着こなせているのかということが日本女性の心を惹きつけたのではない かと思います。

中国茶は〝食べたものの脂を体から流しだしてくれる〟〝脂肪を分解する〟という効用が浸透しまし

た。烏龍茶に始まりプアール茶や

杜仲茶、雪茶や小桂花減肥茶、新五日減肥茶、その他いろんな葉っぱをブレンドしたものは数知れず、現在でもお茶パワーは炸裂し続けています。果たしてその効果はいかに?

私の実家の台所には、実に様々なお茶が並んでおります。母が新聞や雑誌等で〝痩せる〟とか〝若 返る〟とか〝美肌になる〟といった文字を見つけるとスグに注文、または買いに走ってとにかく入手する性 質だからです。

一方、私はと言えば沢山のダイエットサプリと付き合って、フッたりフラれたりしているうちに、なかなかスグ には信用することがデキナイ、どうせお金が目当てナンダロっと実に卑屈な人間が形成されてしまったので あります。

ですが、お茶ってダイエットじゃなくてもどうせ飲むものじゃありませんか、そーいえば。ならばね、どうせ母が 煮出しでポットに入れておいてくれるんだから、じゃ、ま、飲んでみますか、という感じで痩せる効果があると いう中国系のお茶は実は片っ端から飲んだ。

結果、お茶はやっぱり〝どうせ飲むんだから〟の域を超えて期待してはいけないと私は思うのです。じゃ あ、痩せないの? と聞かれればまたそーとも言えない。じゃ、何なのヨって感じだと思いますが。

まずは今、人気の五日減肥茶。これはテレビ番組の「あるある大事典」にて取り上げられ、とある女性が 五日間飲んだところ二・五キロ痩せたという結果に問い合わせ殺到。七種の葉っぱがブレンドされて出来 ているお茶なのですが、あまりのヒットに今はその葉っぱを十七種にも増やして新五日減肥茶という新製 品にて売られています。だけど、やっぱりその効果には個人差があるようです。私の長いダイエット人生で は、お水やダイエットコーラ等をガブ飲みして空腹を凌いだ経験があるため、今でも一日に二リットル以上 はコーヒー、ダイエットコーラ、お酒、何かしらを飲んでいる。ま、痩せるとなると、早くその効果を得たくて、洪 水のように飲んでみるのが私の習性。で、まあ減ったのは一キロくらいだったでしょうか。それも、あまりに飲 みすぎて食欲が減退したとも言える。

お茶に関しては烏龍茶に始まり、すべてこんな感じでした。今でも、今日体重増え気味だったあ~ナン テ日には、お家にある烏龍茶やプアール茶を夕食時にはガブ飲みしたりもします。すると、確かに次の日体 重は減り気味になる。それは飲んだそばから実感出来たりもする。大変汚い話で申し訳ないのですが、例 えば夕食時、ゴハンを食べながらまあ、コーヒーカップ等で十杯くらいは飲むでしょうか。すると、食事中に何 度も何度もトイレに行くハメになります。利尿作用かタダ沢山飲んでいるからだけなのか、それはよくは分か りませんが、とにかくトイレから戻ってゴハンを食べ始め、お茶を飲む、するとまたトイレ! 確実に五、六回 は行きます。

ま、こんなガブ飲みもトイレも自宅だから成せるワザ(?)ですが。食事が終わった頃にはナンダカ疲れき ってるワケで。

あ、もしかしてっ! トイレに行ったり来たりと意外と体を動かしているんだったりして。そーだ、そーだ、そー かもしれない。

ま、とにかく明くる日の体重は晴れて減り気味となるワケです。メデタシメデタシ。 私が思うに、痩せると名高い中国茶であっても、食前、食中、食後に一~二杯の上品な飲み方じゃ体 重激減! とはいかないのではないかと思います。でも、日本茶飲むなら、やっぱり、どーせなら中国茶を 選んどこかな、といった感じで、ダイエットサプリのように、薬のような感覚で義務付けないことも大切。

だって、お茶って結構高価なんですヨ。だから、それ沢山飲んでもし痩せたとしたなら、止めたら太る→買 い続けなければならない、となるワケでしょっ。それに、選んだお茶が外出時にどこでも飲めるとは限らな い。ポットに入れて持ち歩くなんて遠足じゃないんだから。明らかに負担になります。

だからといって、お茶はダメということでは決してありません。ダイエットじゃなくても、お茶には体にイイことが イッパイ。現に、「このお茶飲んでから体の調子がイイ!」って話はよく聞きます。そんな場合は毎日、朝晩ナドに適量を美味しくいただけばいいワケです。 そんな意味でも太りやすいということ以外、基本的に健康な私の家では現在、スーパーで手軽に買える 一袋五百~六百円の烏龍茶やプアール茶を購入しています。どうもそれで充分な気がしてならないので す。

〈ルール5〉 モノに頼りすぎると失敗する

セレブの食事療法はいかに

太るからアレ食べない、コレ食べないと低カロリーの食品ばかりを追い続けることはストレスになったり栄養 バランスを崩したりと、とにかく危険。食べることが生きてゆく上で必要不可欠だということはいい加減私に も分かってきました、最近。

ならば、肉体的にも精神的にもバランスのいい食生活を確立したいってなワケで、では、どんな食生活が いいのか?

ダイエット法はいつの間にか自然消滅しているものが実に多い。ちゃんとした理論に基づき今後も生き残 ると思われる食事方法として目に留まったのは三つで、主にハリウッド女優やモデル達が取り入れたことか ら話題になったもの。ハ、ハリウッドかあ……。

マクロビオティック……陰陽の理論に基づき、全粒穀物四十~六十パーセント、野菜二十五~四十パ ーセント、豆製品と海草で十パーセント、他少量の白身魚やフルーツといったバランスを保つ食事方法。 マドンナが取り入れていることでも有名だが、考案者は日本人の桜沢如一氏。日本古来の食生活にの っとって考えられており、ダイエット食というよりはライフスタイル。

ローフード……火を通さないことで酵素の働きを最大限に活用する食事方法。四十六度以下で調理 し、なるべく生に近い状態で食べることをモットーに調味料においてもなるべく加熱殺菌をしていないものを 選んだり、二十二時~翌昼十二時までは体が消化、分解、排泄のために稼動する時間と捉え、なるべ く食べないようにする、主食は豆や種子で代用する等々。デミ・ムーアが実践して有名に。

ローカーボ……低炭水化物の食事方法で、二〇〇三年アメリカにて低脂肪や低カロリーを意識した食 事よりも減量効果が高いと発表された。ローカーボにはアトキンス博士が約四十年前に開発した低炭水 化物、高タンパク質、高脂肪という理論に基づいたニューアトキンスダイエットや、一大ブームを巻き起こし た低インシュリンダイエット(インシュリンを低く抑えた食事で血糖値を低く保ち、脂肪の燃焼を促進する食 事方法)等も含まれ、微妙な違いでいろいろなネーミングがされている。ジュリア・ロバーツやシンディ・クロフ ォード、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ等のハリウッドセレブの間で人気。

ザッと並べてみましたが、どうでしょう? やってみよう! と思われた方はちゃんと詳しくお調べすることをお ススメします。

いずれも科学的に分析していることから、とにかく摂取する食品の比率がキッチリはじき出されていたり、 調理の仕方に指示があったり、その他にも実は規制はかなりあるのです。ちゃんとやろうと思うとキリがあり ません。お抱えのコックがいるようなセレブはいいけど、凡人の私はどうすりゃいいのか。毎日、毎食のことで すヨ。一応購入したマクロビオティックの料理本をパタンと閉じる私。いろんなオーガニック食材揃えたり、豆 を数時間ふやかしたり、空腹じゃなせないワザだ。見ただけで、その工程をやった気になった。あ~疲れた。 だけどね、いろいろな食事方法は見ていただけでも勉強になった。スーパーなどに行くと、いきなり、コレ (上記の食事法で見た食品)を食べることにしてみようかとか、レストランでオーダーするときにも、もしかして 化学反応が起きるかもっ! と、期待薄でも健康志向なモノを選んでいたりして。そんなことの小さな積み 重ねも、もしかして効果あったりして。

メンドくさがり屋の私は一つの方式なんかにはこだわらず(こだわれず)、まるで思い出したかのように、いき なりハリウッドセレブしたりするのであります。

〈ルール6〉 メンドくさいダイエットは失敗する

ダイエット年表

女優、ジェーン・フォンダのシェイプアップスクールがブレイク アメリカのフィジカルブームに乗り、シェイプアップスクールの開校やエアロビクスのビデオの発売で、80年代 のダイエッターのカリスマ的存在となった。

歌手、カレン・カーペンター拒食症により32歳で死亡 彼女の衝撃的な死により「拒食症」が世の中に認知されるようになった。専門的な研究も始められるこ とに。

エステサロンが続々と誕生 たかの友梨等のエステサロンが急成長し、ボディメイキングの意識が高まる。

鈴木その子のダイエット法が大ブームに「やせたい人は食べなさい」という印象的なキャッチフレーズが世の女性達の心を掴んだ鈴木式ダイエット つかは、我が子を拒食症で失ったことにより、鈴木その子が考案したダイエット法。

腸内洗浄 故ダイアナ元妃やハリウッド女優達が定期的に通っていたことで有名になった腸内洗浄は、その名のと おり、腸内を綺麗に洗い流し、腸本来の機能を活発化させるというもの。

リンゴダイエット

SEXダイエット ダイエットとSEXの関係について語られた植松治彦著「淋しい女は太る」(マガジンハウス)がベストセラ ーに。

エリザベス・テイラーがダイエットに成功 リズにとって、いちばんダイエットに効果的だったのは、「自分の太っていた時の写真を冷蔵庫に貼っておく こと」だったらしい。

コンニャクダイエット カロリーゼロのコンニャクに着目したダイエット食品が続々と登場する。

ダイエットビールの登場

塗るだけで痩せるボディジェル、ディオール「スヴェルト」が大ブレイク

ダンベルダイエット

肥満遺伝子が発見される アメリカ、ロックフェラー大学の肥満研究チームがマウス実験で肥満遺伝子を発見。日本人の約30%は 肥満遺伝子を持っているといわれている。

ガルシニアダイエット 南アジアに自生するオトギリソウ科の常緑樹(ガルシニア)の果実の皮に含まれるHCA(ハイドロキシクエ ン酸)が脂肪の形成を妨げ、燃焼を促進するといわれ、注目を浴びる。

マイクロダイエット 1食分は174kcal。体に必要な栄養素が約50種類含まれており、一日のうちの2回、食事代わりとし て飲む。味もココアやストロベリーミックス等7種類ある。いまだに売れている人気の商品だが、リバウンドす る人が多い。

唐辛子ダイエット 唐辛子に含まれる成分、カプサイシンが脂肪を燃焼させる効果大として注目を浴びる。

朝食抜きダイエット 夕食等に比重がかかりやすい現代人の傾向からして、朝食は抜いたほうが賢明というダイエット論。

脂肪吸引 美容外科で、痩身を目的とする手術として脂肪吸引が定着してきたものの、死亡につながる事故等も あり、社会的な問題に発展した。

映画「ブリジット・ジョーンズの日記」 レニー・ゼルウィガーが、痩せて美しくなってイイ男を掴もうという、ダイエットに奮闘する女性の姿をリアル に演じ、世の女性の共感を得た。

ゆで卵ダイエット

低インシュリンダイエット インシュリン値を低く保つことで太りにくい体を作る食事法が大ブームに。

アミノ酸 筋トレ流行と共に、筋肉の形成に効果的といわれているアミノ酸が、サプリメントやドリンクになって大ヒッ ト。

香りダイエット グレープフルーツの香り成分が中性脂肪を減らす効果があるという理論に従って、「香りで痩せる」ダイエ ット法が誕生した。

にがり にがりに豊富に含まれるミネラルには糖分を抑制する効果が。食べ物や飲み物に二、三滴入れるだけ で、便秘も解消されると話題に。

いきなり訪れる葛藤

思いつくままにダイエット個人史について書いてみましたが、数々のダイエット法を試してきた私にとって短 期集中で効果を実感したいものの、長い目で見ての失敗は許されない。っつーか冗談じゃない。美の崖っ ぷちに立っていながらも世間に広まるダイエットは疑惑に満ちていると感じるのは私だけでしょうか。

いずれにせよ、痩せなかったり、痩せたけどアッサリと元に戻ってしまったり(リバウンド)してきたワケです。 でも少なくとも、健気に努力はしているとは思う。しかし、そんな女の努力がぜーんぶ無駄になってしまうよう な出来事が突発的に起こったりするのです。

それは、まだライター時代のことでした。 よく晴れた月曜日。イタリアの伝説的なカロッツェリア、ピニンファリーナ社のスポーツカーの新作発表会& パーティがあり、私は女友達二人を誘っていそいそと出掛けました。

ルイ・ヴィトンが内装を手掛け、オーディオをバング&オルフセンが担当するという夢のコンセプトカー。 品川の原美術館で催されるため、私は一日長くなるなあ~と〝腹が減る〟ことに対して朝から何となく 不安を抱えておりました。

パーティは七時から。シャンパンとかを飲むと意外と食事はどうでもよくなる傾向がある私。 今宵もそうなることをお祈りしながら、朝七時半に一食目は始まった。 大好きな神戸屋のレーズン&くるみのハーフサイズといってもかなり大きいのをペロリ。さらに昨日ジム帰り に東急本店の前にある今、いちばん美味しいと話題のパリ発ベーカリー&ケーキのお店VIRONで買ったく るみパンをさらに四スライスほどいただく。パンは神戸屋のハーフサイズで止めるつもりだったのにぃ。他には 食べてないからOK? うーん、でもやっぱりチョット食べすぎたよなあ。昼を調節するか! 主食ヌキにしよ う。魚か肉どちらでもいいけどメインのみ。よおーし、ガンバルゾ! その日の出社時間は朝十時。

アッという間に昼はくる。十一時過ぎ。 お昼のメニューを考えながらパンとかはあまり欲してない自分を実感できた。 よぉ~し、よぉ~し。 十一時半。アレ? お腹がかなり空いてきてパンが食べたい気分。アレレ。これだもんなあ~。 女心と秋の空~。 ダメだよ、ダメだよ。 そして十二時になった。制作部の男の子に数日前連れでいってもらった麻布十番商店街の入り口にあ る和食屋「さくらこ」に足をむける。

ここは驚くほどメインがハッキリしていてボリューム満点。ランチメニューはお肉を中心としたメニューで大体 五種類。他には海鮮もので、お刺身がたっぷりのった丼もの等。お隣の人がマグロのユッケ丼を食べていた のをチラ見したけど、卵の黄身が一個真ん中にのっていて超旨そうだった。

だけど、何故か生魚×米の組み合わせをいただくと体重が跳ね上がる傾向のある私。鉄板系を頼んでタ ンパク摂取といこうじゃないか。一人用のガス台付き鉄板でたっぷりの野菜と共に出される焼き物。その日 は日替わりで鶏のつくねがメイン。見た目も満足、ダイエットに肝心な脳がとにかく満たされる。味もバツグ ンだった。

そんな記憶を辿りながら店に入ろうとした瞬間、やってない。休み。がーっくり。どーする、どーする。計画 はガタッと崩れ、モンタボーのパン屋でとっても大っきなくるみのパンを買い、ウェンディーズに駆け込んでしま った。

シーザースチキンサラダをオーダー。まあ、サラダだし、イイのかな。 このウェンディーズのサラダはボリュームがあって、美味しくて、だけどカロリー表示させたら高そう。でも、カロ リーだけじゃない、という考え方もある。サラダとパン。聞こえはヘルシー、でもホントは。

夜までなんとか乗り切った。友人と待ち合わせをしてパーティ会場に到着。朝から想像していたシャンパ ンが配られる。セレブな顔ぶれとお洒落にプロデュースされたパーティの華やかさに食欲が吹き飛ぶ。コレだ よ。コレ。この引き締まったムードこそがダイエットには効き目大! あっという間に時がたっちゃうんだもん ね。

コンセプトカーにも近寄ってみる。

あふ スタイリッシュなボディデザインに鮮やかかつ気品溢れる赤いシート。バングのオーディオの音色は確認出 来ないが、なんと、動かぬその車はエンジンを吹かすことが出来る。紳士の中に宿る勇ましさといった感じの エンジン音。

やけに優しく、妙にワイルド、端々までセクシー。 人々との会話を楽しんでいても決して中断はさせず、わざわざ耳を傾けさせることはないが、ずっとどこか で誰もが聞き続けていただろうその音色はパーティを格調高く盛り上げてくれていた。だけど、その車、フロ ントガラスはなく、ヘルメットをして乗るのだとか。まさに夢の車。

次の瞬間に私が出会ったのは天使だったのだろうか、悪魔だったのだろうか。昔、少しだけ遊んでもらった チョット年配の男性に再会したのだ。友人ではない、敬語を要する知人である。

「うわあ~っ。お元気でしたか? どーしてたんですかあ?」 数年間のブランクを埋めるかのごとくひとしきり喋くりまくる。まだ、話し足りない。 「ねえ、この後お友達も連れて夕食どう?」 げっ。嬉しいんだけど、何食べさせられるの?

「ええ~っ。ウレシイ。是非~」

「何、食べたい? 何でもご馳走するよ」 「何でもいいですう。好き嫌いありませんからあ」 まったく、ダイエッターの私も人前にでるとこうである。 ダイエットしてるんでタンパク質がどーのこーの、なんてややこしい話は出来ない。今日イチの緊張感を持 ってついていく。

彼は車の中からレストランに電話した。 どこ、どこ、どこに電話してんのよっ。 「今から、えーっと、四名で行くから、料理はおまかせするよ。メンドくさいからおすすめをコースみたいにしと いて。あ、オレはあまり食べないから」

おえーっ。よりによってコース形式!? ごまかせないじゃん。

青褪めながら到着した先は千駄ヶ谷にある新亜飯店。ちゅ、中華かよお~っ。しかもココはおデブ時代に私が好んで来ていたレストラン。目の前に出された日にゃあ。

案の定、そのコースはおすすめだけあって、私が大好きなメニューのオンパレードだった。かろうじてヘルシー な前菜だけど、これから出てくる品々を考えたら手がでない。

だけど、コースだから食べないわけにはいかない。 フカひれの姿煮、中にぎっしりとフカひれが詰められた手羽先、北京ダック、エビチリ、伊勢エビ、チャーハ ン、えっ!? ツユそばも? 小さいサイズだからって出してきた。

結局残せたのは最後のツユそばの半分くらい。 だけど、止まらなかったのは自分。だってぇ、美味しいんだもん。 たらふく食べてしょんぼりしてたのも束の間、恐怖はまだ終わらなかった。 「まだ、話し足りないなあ。すごい美味しいケーキ屋があるんだ。チョットお茶しよう」 ええーっ。そういえば食べるのに夢中で話もままならなかった。だけど、こうなったら一日に集約させて解放 日? なんだか食べたいっ。

結局、西麻布のドゥリエールに行き、大きなモンブランを食べてしまった私。ウエスト回りや背中を手でさ すってみる。太くなってるよお。確実に。 最悪の一日を過ごしてしまった私。 だけど、人生は長い。こんな日もある。コレは毎日ではないのだから、この後始末を考えるべく明日からの 自分を見つめよう。

女優だって、モデルだって、誰にだって食べすぎて後悔している日があるのだ。明日の体重に一喜一憂するのではなく、二日、三日かけて元の体重、元のリズムを取り戻せばいいのだ。

もしそれが出来たのならば、またこんな危機が訪れても余裕で対応出来る強い自分になっているはず。 今度こそ、失敗は成功のもと、と言ってやりたい。

 

トータル・ワークアウト

そもそも何故リバウンドするのか?

痩せた、太った、リバウンドしたってカンタンに言ってるけど、そもそもなんでリバウンドしてしまうんだろう か? 恐ろしいリバウンドのその正体とは?

人間はもともとリバウンドしやすい体を持っている。あるいは、そういう体を持つようになったからこそ、人類 に進化し得たのです。

まず、すべてのダイエッターはそのことを知る必要があるのではないでしょうか。 リバウンドは、実は人間の生命と深い関わりがある。私達がデブることに悩まされるほど食生活が豊かに なったのは、つい最近のこと。人類四百万年の歴史上、その大半は飢餓との闘いであったワケです。そん

な環境の中で〝子孫を残す〟ための戦略として、人間の体は実のところ効率よく体内に脂肪を溜め込むように進化を遂げてきたのです。

発情期を失い一年のうち三百六十五日セックスできるのも、メスの乳房が豊かに膨らんでいるのも、体 毛に覆われないツルンとした肌を持っているのも、人類だけが持つにいたった進化上の戦略なのです。

ところが……。急に食が豊かになったり、体を動かす機会が激減したりという人間社会の変化のスピード に、体や遺伝子が到底ついていけず、溜め込んだ脂肪は使う間もなくまた溜め込まれる状況が生まれ た。

これは飢餓状態に身につけた優秀な身体保護機能が、現代社会ではかえって裏目に出てしまってい るということなのです。

リバウンドは、要は摂取エネルギーと消費エネルギーのアンバランスによって生じる現象なのです。 つまり、デブは人間の証ってこと。自己嫌悪に陥る必要なんてない、でも……ということで、人間の消費 エネルギーと筋肉の関係について考えてみましょう。 人間の消費エネルギーは三種に分けられます。

・生活活動代謝…………日常の動作や運動による代謝(二十~三十パーセント)。 ・基礎代謝………………心臓を動かしたりする生命維持に必要な代謝。(六十~七十パーセン ト)。

・食事誘導性熱代謝……食事をしたときの消化・吸収、ほてりや発汗等(十パーセント)。 *()内の数値は全消費エネルギーに対する割合

このうち、基礎代謝は十代をピークに加齢と共に落ちていくと言われています。さらに、大人になるに従っ て車を利用したり、運動する機会も減ってくるとなると、エネルギーは溜まるばかり。

しかし、この加齢と共に減少する基礎代謝は、上昇させる方法があるのです。それは筋肉を鍛えること。 基礎代謝のうち約四十パーセントが自分の意思で動かすことの出来る骨格筋のエネルギー消費と言わ れているので、筋トレをすれば、自ら基礎代謝を上げることが可能だというワケです。

エネルギー消費に関する人間の体のしくみを知った上で、再びリバウンドについて考えてみましょう。リバウ ンドでいちばん多いのは、食べない、または偏った食事方法を続けて、止めた途端に太りだしたというもの。 飢餓状態を作ることによって、人間の本能である身体保護機能を働かせてしまい、体が危機感によって 脂肪を溜め込もうと働くワケです。

食べないダイエットのリバウンド地獄です。 しかも、この食べないダイエット、食事制限を始めればもちろん体重は落ちるのですが、実際は糖質が不 足して体内の水分が減っているだけで、脂肪は落ちていないのです。

そして、体は筋肉中にあるタンパク質をエネルギー源にするために、筋肉がみるみる痩せてしまう。 そう、基礎代謝も下がってしまうことから太りやすい体質を生み出しているということなのです。残念なが ら筋肉はトレーニングをしない限り基礎代謝を増やすことは出来ない。体脂肪は食べればいくらでも増える。間違った食事制限によって落ちた体重が元へ戻ると体脂肪だけが増えている、これがリバウンドの正 体なのです。

リバウンドは繰り返せば繰り返すほど太りやすく痩せにくい体を作ってしまう、コレはまさにリバウンド地獄。 ですから、ダイエットにおいて食事制限をする場合はちゃんとした科学的な理論に従って行うのが鉄則で す。

ダイエットは私達が人間であることの証なのであり、闇雲にガムシャラにやるのではなく、やはり「考える」必 要があるのだと思います。

スポーツ嫌い、持続性ゼロの私の最後の駆け込み寺

ライターをやっていた頃のある日、先輩のライターがかなり興味のナイ話をしてくれた。 「ねえ、トータル・ワークアウトって知ってる?」 「何ですか、それ」 「スポーツジムらしいんだけど、私の学校の先輩が通い始めて2ヵ月でなんだか凄くハマっているらしいの よ。一週間で三キロ落ちたってよ」

その女性は以前美容室が同じだったこともあって、何度か見たことがある。 「一週間で三キロ!? それ、いけてますね。だけどあの人そんなに太ってましたっけ? 体格はガッチリして たような気がしたけど」

「パッと見デブじゃないけど、四十くらいになると体型ヤバイらしいよ。あの人の場合パーティも会食も多い からどうしても太っちゃうんだって」

「だけど、私運動苦手なんですう。スポーツクラブとかも何回も入会したことあるけど、全部三日坊主でし たね」

「それがね、そこは違うらしいよ。超スパルタで……。激ツライんだって」 「ひえ~。やだあ」 「だけどね、パーソナルトレーニングでマンツーマンだから、どんなにつらくてもそのトレーナーにあと一回、あ と一回って励まされながらやっちゃうらしいのよ。サウナやジャグジーみたいな豪華設備は一切なくてロッカー ルームにシャワーのみ。汗を洗い流してサッサと帰れって感じみたいよ。それでね、最初の三週間は食事制 限をするんだって。食べていいのは野菜と鶏のササミとかで、お酒、炭水化物、油一切ヌキ」

「そりゃ~痩せますよ」 「そうだね。だけどね、そうやってまず贅肉と筋肉を入れ替えちゃうんたって。筋肉つけると燃焼系の体に なって食べても太りにくくなるらしいよ。最初の三週間で体質を変えてしまうらしい」

食事制限は、さんざんやってきた。それなら通わず自分で出来る。私には向かないダイエット法だと聞き 流したが、ふと、思った。

「体質改善かあ。頭の構造も変わるカナ。それだけスパルタに誰かに運動させられたほうがいいのかなあ」 それから数ヵ月後、私はトータル・ワークアウトに通うことになった。スポーツ嫌い、持続性ゼロの私が最後 の駆け込み寺を求めたというワケ。

直接のきっかけは、売れないモデルをやってる友人のあずきと久々にランチをした時のことだ。 食後にトイレに寄った私達二人。洗面所に並んで手を洗いながら彼女を見て思った。 「うわあ、顔小さいっ」。次の瞬間、真横にある全身鏡に目をやった。 「えっ、あり得ない! コレが同じ人間なの?」。同じ女だとは思えない大きな顔、肉厚の頬、二重アゴ、 大きな頭、カタチの崩れた体、太い足、すべてにガマンならない。

トイレの中で私一人に雷が落ち、稲妻が走った。 あずきに気づかれまいと冷静さを装ったが、私はかなり無口で、具合の悪そうな人に見えたのではないだ ろうか――。

ダイエットを始めずにはいられない。落ち込み、メラメラ憤慨。 だけど、ダイエットにはこういった衝撃と落胆が必要なのだ。自分の醜さをしっかりと見つめることがダイエッ トをライフスタイルにする第一歩といえるのではないでしょうか。

〈ルール7〉 筋トレで肉体改造計画をしよう

燃焼系の体を求めて

私は見かけに似合わずブッキッシュな人間みたいで、トータル・ワークアウトに通うようになると、筋肉の役 目についていろいろ調べてみた。

体の基礎的な代謝量=基礎代謝のおよそ四十パーセントは筋肉が握っているらしい。 基礎代謝とは体温維持等人間が寝たままでも健康を維持するために自然と使われるエネルギーのこと だ。

筋肉はよくエンジンにたとえられるが、その排気量が大きければ消費量も自ずと増える。 車でもスポーツカーはガソリン食ってタンクがすぐに空っぽになる。満タンにしたのに走るとアレレ、もうEmp ty? 近くにガスステがあるかどーかソワソワしだす。車じゃ悩みのタネだけど、コレ自分の体だったら大歓 迎。

体に大きなエンジン(筋肉)を積んで溜め込んだガソリン(食物)のエネルギーをサッサと使ってしまえばい いというワケ。

このしくみサイコーじゃん。 一度大きなエンジンを積んでしまえばこっちのもの。 あとはなるたけ志を高く、高級志向に。そして定期的にエンジンふかして動きが止まらないように手入れ をしながら可愛がって維持していけばイイ。

とにかくまずは一度、フェラーリやポルシェ等の高級なスポーツカーに乗ってみたいという夢を自分の肉体で 叶えてしまおう。

欲が出て、今度はこんなところを極めたいとか言いだしたならそいつはかなりの幸せ者。もう、完璧に楽し んでいるマニアだ。

そこには乗った人だけにしか見ることの出来ないパラダイスがある。タダ一度乗ってしまったなら、軽自動 車ナドの燃費のよさに安楽を感じてしまうことだけは避けよう。気に入って乗り換えたならばモチロンOK。 何も言うコトはない。

だけど、そうじゃなかったらナンダカとっても卑屈になりそーだ。だが、また単なる高級志向に陥るのだけは やめよう。楽しむコトヘのこだわりがアナタをダイエット・パラダイスに導いてくれるのだから。

とゆーワケで、さて、筋力トレーニングの開始である。 前夜は私の大好きな焼き肉で締めくくった。まず、ダイエットを始めるにあたり大切なのは身の周りの友 人、知人に宣言をすることだ。

「私、ダイエット始めるわ。今度は本気。半年くらいで十キロ痩せる。もし達成出来なかったら……」 となるべく条件付きで。 そしてもし挫折したら一生酒の肴にしそうな親しき友人、口の悪いイケメン電通マンの男二人とモデルの 卵で極細の可愛いあずきを呼び出し意志の固さを伝える。

すでにダイエット開始のゴングが鳴った気分。 食べ納めとはいえ消極的? 生ビールは二杯。グラスワイン一杯。特上タン塩三枚。カルビ一枚。鳥は 五枚くらい。野菜焼き。豆腐チゲ。コレ、いつもに比べたら超ガマンしてんだけど。

トレーニング初日。 予約は午後三時。 その日は起きた瞬間からダイエットモード。トレーニング開始前からヤル気まんまん。 だけど、こんなに意気込むと後々勢い疲れ状態になるのよねえ。気楽に気楽に。だけど、お腹がスッカラ カンなのに胸が高まってるのかホントに食欲はない。ああ、いつもこんな感覚で生きていられたら痩せるんだ ろうなあ。

あ、コレっていわゆる緊張感ってやつ? ふーむ。自分に気合を入れることは結構重要ポイントなのかもね。 すでにもう痩せ始めてる気がするっ。聞きかじった前情報にすでに影響されている私。筋肉によしとされるタンパク質が豊富な〝焼き魚〟定食を青山ツインタワーの地下一階にある和食屋にて遅めのランチ。 和食屋の定食は結構ワークアウトの方式に沿って食べることが出来る。もちろん大好きなお米は捨て る。味噌汁も捨てる。味噌は大豆だから糖分も油分も含まれているんだって。ほうれん草のお浸しはO

K。お漬物もOK。焼き魚は鮭とさわら 鰆が一枚ずつのってる。 コレって珍しいよね~。魚でもいろいろだけど、コッテリ脂のものはなんだかカロリー高そうでコワイ。銀ムツ や銀ダラなんて口の中に入れた瞬間溶けちゃうほど脂がのってて美味しいもんね。ま、魚の脂はいいってゆ ーけど、どうせダイエットを始めたのならばグングン痩せちゃいたいから最初は魚といえども程々に。

三時よりダイブ早めにトータル・ワークアウトが入っているビルに到着。トータル・ワークアウトは現在都内に は三田と渋谷にある。私が目指すのは渋谷。道玄坂を上がると右手に交番がある。その後ろに新しい高 層ビルE・スペースタワー。

グローバルダイニングが手掛ける「権八」や代官山のタブローズ系でオシャレな「Legato」がレストランとし て入っている。今まではそこに直行していたっけ。同じビルの三階にトータル・ワークアウトなるものがあったと はツユ知らなかった。

エレベーターを降り、三階フロアに辿り着くとまず正面に立ちはだかるフロントにてチェックイン。ロッカールー ムの鍵を渡され着替えに行く。常にお掃除のオバさんがウロつき、清潔だが飾り気は全くないロッカールー ムに細長いロッカーが並ぶ。

二つの洗面台のボウルにドライヤー二つ、ハンドソープ。 シャワールームはホントにシャワーだけ。ボディソープとシャンプー、リンスがワザとじゃないかと疑いたくなるく らい出の悪いポンプ式ボトルに入れられて置いてある。

フリーに使えるタオル等は一切置かれていない。タオルはすべてレンタルで、わざわざフロントに借りに行か なければならないのだ。

フェイスタオルは無料だがバスタオルは三百円。他にもトレーニングシューズやウェアも貸してくれるがすべ てにカネがかかるシステムになっている。

カネ、ときたらこのトータル・ワークアウトの絶妙な料金システムについてチラリとふれておこう。高級スポー ツクラブのメンバーになっているような金持ちにはどーってことないけど、それでもチョット、また一般ピーポー にとっては確実に懐痛む料金設定になっている。

だけど無理すりゃ、それがマジなら、ワタシ払うわよ、実はおカネがホントにないってワケじゃないの。それに 今、おカネで済むならそれで解決したい気分なの、ってなことで事前にかかると案内されている初期費用ざ っと八万くらいを当然のごとくフロントに流し込むことになるのだ。

内訳は入会金一万、月会費二万一千円を最初は二ヵ月分、パーソナルトレーナー十回分で二万七 千円(コレは一回分ずつでもOKだが、十回まとめて払うと一回分の三千円をオマケしてくれる)。

ドブには捨てられない金額である。 この金額はオーナーであるケビン山崎氏の意図的なもので、OLにとっては大金、挫折はあり得ない、だ けど払えない金額でもない、従って本気でトレーニングに励むだろうという思惑の上でそろばんを弾いたらし い。

また、パーソナルトレーニングは当日キャンセルすると全額取られる厳しさ。本当に仕事ならいたしかたナ イが怠け心にはイイ薬。

トレーニングは全員、最初の三週間に魂を捧げるコトから始まる。 必ずパーソナルトレーナーがつく。一回のトレーニングは一時間。最初は週に三回とにかくコイ、それと食 事制限を三週間。その食事とは単純に言うと脂肪と糖分を一切抜くというもの。

ただし、魚の脂は身につかないからイイらしい。ありがたや~。ザッと(と、ゆーほどナイ)食べられる食材を あげておこう。

まず、肉は鶏のササミと皮ナシの胸肉。魚介類はまずまずOK。 野菜は大体、健康の常識から言ってOKだろう、と思いきや意外と駄目とされるものがある。

緑黄色野菜でもキャベツは「うーん、まあ、いいですよ」なんて言われてしまうからビックリだ。 ナヌっキャベツは太るから食べないなんて聞いたことナイでしょう。何よ、そのタメは。 「コーンとかはダメですよね?」 「あ、ダメです」 語尾にカブるくらいの即答。 「ジャガイモや南瓜ナンテのも……」 なんだか厳しく突き詰められないように、ワザと野菜類に片足しか突っ込んでないような美味しいモノをふ ってみた。すると、「ダメです。ダメです。とにかく野菜といってもその成分に糖質が含まれていてはダメなんです。 この三週間はとにかく脂肪に変わりやすい脂質、糖質をすべて抜いてもともと貯えられた体の脂肪を落 とす。そして脂肪を燃やす筋肉質に体を変える。トレーニング中に体重が減ったとしてもそれが筋肉だった ら意味がないんです。燃焼系の体にはならない。タダの食べないダイエットになってしまうんですよ。だから野 菜でもにんじんとかには糖質が含まれます。大根もダメなんですよ。あと、ダイエットにいいとされる豆腐、豆 類一切ダメです。食品成分表お家にありますか? 一冊買って成分データを確認されるといいですよ。あ と、調味料は基本的に塩、コショウ。

お醤油は豆だからホントはあまりよくないんですけど、ま、チョットならイイですよ。ポン酢もチョットね、お酢 には糖分含まれてますから。あとは~etc、etc……」

も~止まらない。チョット甘えた発言をしたら鉄砲玉のように一気にやっつけられた。 でも、「タダの食べないダイエットと同じになる……」か。それがイヤでココまで来たんだもんね、私。こりゃ、 ゆーコトきかなきゃアカンな。よおーっし決めた。やってやる。私は三週間やってやる! リバウンドに悩んで ムダなダイエット繰り返したウン十年考えたら、たかが三週間で太りにくい体質ゲット出来るんでしょう? し かも三ヵ月とは言ってない。

一ヵ月でもナイ。 ココでも微妙に出来そうな三週間。 アッという間に過ぎてしまいそうな三週間。 そして、この日を境に三週間、私の時の流れはとってもとってもベリーベリースローリーとなった。 しかし、後にも先にもこの三週間が私の運命を変えることになる。この三週間は絶大なる効果をもたらし た。本当の意味で、ダイエットに成功するのです。とにかく信じてこの三週間だけは何が何でも、どんなにツ ラクてもガマンしよう。ご褒美にはナント! ダイエット・パラダイスヘの切符が用意されている。そう、しかもそ れはもう戻ることのない、幸運の片道切符なのです。

〈ルール8〉 三週間だけはマジでやって、燃焼系のカラダを手に 入れよう

筋肉とは?

人間の体の筋肉の数はおよそ六百五十あるといわれている。そのうちの約四百個が骨格筋といわれる 骨についている筋肉で、残りは心臓や胃、腸、血管等の内臓についているもの。

その、約四百個もある骨格筋は自らトレーニングをすることによって鍛えることが出来る。それによって基 礎代謝量が増え、消費エネルギーが増加し、脂肪を燃焼させることが出来るのです。

それに、他にも、筋トレはボディラインの細かいリクエストにも応じてくれる。ウエストをクビレさせたい、ヒップ アップしたい、振袖のような二の腕を引き締めたい、バストアップしたい等々、全身に張り巡らされた筋肉は 人それぞれの要望に従って部分的にも強化することが出来るのです。

筋肉は「筋線維」という細い線維が何本にも合わさって出来ており、瞬発力に優れながらも疲れが早い 「白筋」と脂肪をエネルギー源に変え、持久力は高いながらも力が弱い「赤筋」の二種類で形成されてい て、その割合によって筋肉の質が左右されます。

筋線維は傷つきながら大きくなるという特徴があり、この際に起こる炎症や、

腫れがいわゆる筋肉痛で、筋線維は再び同じ程度の圧力では傷つかないよう、主にタンパク質をエサに修復→補強を始めます。

このようにして、筋線維は太く、強く成長していく、これは筋肉の「超回復」と呼ばれています。 ですから、まず筋肉の成長を促すにはトレーニングで傷をつけ、そして栄養源であるタンパク質を多く取り 入れる、コレに尽きるのです。

ココで大切なのは、筋トレの仕方。 正しいフォームで効率よく行うことが大切です。 まずは大きい筋肉から鍛える。筋肉は全身に張り巡らされていますが、極端な例で言えば筋量の小さ い指を鍛えても増える筋量には限度があり、意味がないワケです。

そして正しいフォームでなければ、実は鍛えたい筋肉には負荷がかかっておらず、ムダとは言わないまで も、効率の悪いトレーニングをしてしまっていた、ということが起こっていたり。

また、筋肉にかける負荷は大きければイイというわけではありません。回復に時間がかかりすぎたり、故障 を招くようなハードなトレーニングは危険。

「ちょっとツライな」程度で、「もうムリ~」という状態で止めるのが丁度イイのです。 それから回復には四十八~七十二時間かかるといわれています。だから、その時間を考慮して、トレー ニングは二~三日に一回がおススメ。もし、毎日行うのであれば、それぞれ鍛える部位を変えるなど、超 回復の妨げにならないようなトレーニングメニューを組むという配慮が必要です。

さらには、この際使っている筋肉をしっかりと意識するのも大切なこと。意識を集中することにより、脳から の指令が活発になって、より多くの筋線維が動かされ負荷がかかると言われています。

たとえばマッサージされながら眠ってしまう人がいますが、それではまったくのムダというもの。自分の体のど この筋肉がほぐされているか、全身で感じなければ意味がありません。

背中や下腕、お尻等、普段手の届きにくい部位も、タダ何も考えずにトレーニングしているのは勿体な い。意識ひとつで効果もアップするのです。 筋肉の鍛え方には王道があるのです。 筋トレのフォーム、ツライ上での適度な感覚、意識等々、これらの正しい方法を手っ取り早く体得するに は、初めに、個人的にトレーニングをしっかりとサポートしてくれるパーソナルトレーナーについてみるのもいい かと思います。

トータル・ワークアウト 基本ルーティン

トレーニングメニューは基本的に上半身を中心に鍛えるAパターンと下半身を中心に鍛えるBパターンとに分かれ、交互に違った筋肉を刺激するように繰り返す。

〈脚〉 1、スクワット

ニュートラルな状態(まっすぐ立ち)からバーをゆっくり持ち上げる。担ぎの姿勢は、胸を張り過ぎたり、背 中をそらし過ぎないように注意する。ももの付け根に力が入るように太股と床か平行になるまで腰をしっか り落とす。

2、レッグプレス

両足のスタンスを肩幅に広げ、フッドパッドに置く。屈曲したところで膝が90度になるようにシートをセット する。膝が内側に入らないように注意し、プレートを斜め上にプレスする。膝はロックしない。

〈背中〉 1、ラットプルダウン

バーを肩幅よりやや広めに握り、力を抜いたまま引き下ろしシートに座る。肘にあまり力を入れずに両肩 を絞るように引き下げる。引ききったところで一瞬止める。息を吸いながら(吐きながら)ゆっくりとスタートポ ジションに戻る。

2、ロウイング

背筋を伸ばしグリップを握る。肩甲骨を意識しながら引き寄せ、ゆっくり戻す。前腕が常に床と平行とな るように行う。グリップを引いた時に肩が上がらないように、戻す時にお尻が浮き上がらないように注意す る。

〈腕〉 1、ワンハンドアームカール

脚を前後にしっかり立つ。手のひらを内側に向けた状態でウェイト(ダンベル)を持ち、肘を支点に肩の高 さまで持ち上げる。なるべく遠く(前方)に弧を描くように動かす。上腕二頭筋に目線を集中するように行 う。

2、スタンディングアームカール

ニュートラルの状態から、手の甲を上にしてバーベルを持って立つ。やや前傾姿勢になるような意識で、 バーベルを顎の下あたりまで巻き上げる。持ち上げる時、肘をお腹に乗せたり、肘が動かないように注意 する。

〈胸〉 1、ベクトラルフライ

グリップの高さが肩と平行になるよう高さを調整する。肘をやや曲げ、大胸筋を意識しながら手前に引き 寄せる。左右のグリップがぶつかる寸前で止め、ゆっくりと最初の位置に戻す。背中がシートから離れない ようにする。

2、ベンチプレス

バーが目の真下にくるようにポジションを取る。 頭、両肩をベンチ台にのせ、足裏を床にしっかりとつける。手幅は肩幅よりやや広め。バーベルが脚の頂 点に接するまで下ろし、その後一気に持ち上げる。

〈尻〉 1、スティッフデッドリフト

つま先をやや外向きに向け、バーベルの中央にポジションを取る。お尻を突き出すように、中腰でバーベ ルを持つ。バーベルを両足にこすりつけるように、足の付け根まで一気に持ち上げる。

2、リアランジ

直立姿勢でしっかりとバーベルを持ち、片足ずつ交互に足を踏み出す。踏み出した時、ひざがつま先よ り内側になるように注意する。上体は常に床に対して垂直に保つようにする。歩幅は床につかない程度に 保つ。

まずは大きい筋肉から鍛えよう! 筋トレで大切なのは正しいフォームで効率よく行うこと。 大きい筋肉を鍛えると、周りの小さな筋肉も一緒に鍛えられるので効果的。「ちょっとツライな」程度が 丁度イイ!

 

ダイエットを科学する

朝食は摂るべきか、抜くべきか

パーティや宴会等で夕食が重くなったり、朝早くから夜中まで仕事をしていて深夜にどうしても何か食べ てしまう、コレが頻繁ともなると、それはもう生活習慣であり、要注意。

私はパーティにもよく顔を出すのでありますが、会場では周囲の目もあったり、いろいろな人と会話を交わ すことから、料理はチョコチョコっとつまむ程度で飲むばかり。パーティが終わりに近づくと、じゃあ、皆でどこか に食事に繰り出そう! と、夜遅くから本格的に食べだすなんてパターンは実際多いのです。

パーティじゃなくても、私はホステスに転身してからというもの、食の比重は圧倒的に夕食にかかっている。 そして、深夜にまた食べてしまった~なんてことも多々あるワケです。

「こんな日もある、明日から気をつけよう」 コレは、しょっちゅう思うようになっていてはイケナイのではないか。どー考えてもっ。 そんな場合は、もうそれが私の環境ナノダ! と諦めて、自分なりの生活リズムを新しく確立させてしまお うではないか。それに合わせて食のリズムも考える。パターンが定着すれば、それが自分にとって規則正し い生活であり、それでいいのだと私は思うのです。

まず、新しい食リズムを確立させる一つの手段は朝食にアリ。 何事も修正は早いがいちばん。 一日の食の始まり、朝食を狙ってみてはいかがでしょうか。 ところで朝食、食べてますか? 長年、朝はちゃんと食べようって論じられてきたけど、現代は総不規則 生活時代。何時に起きなければならないのか、例えばそれが昼の二時だったとすればそれがその人の朝。

私みたいに眠気より食い気が勝つ一種のビョーキはここいらで治したほうが身のためかもしれません。 ここで言いたいのは時間の問題。 昼の二時から一食目がスタートすれば、二食目は遅めの夕食時間にさしかかったりする。しかもそういう 人に限って一食目が消極的だったりする。夕食時に、「今日、まだオニギリ一個しか食べてないんだあ」

と、超ウラヤマシイ発言聞いたことありませんか。 私も是非言ってみたい一言です。私は是非そんな人間に生まれ変わりたい。 だってその言葉を横で聞いている私はいつもバッチリ二食を終え、しかもディナーまでの間にスイーツ等の 間食までしちゃっていて、もう夕食にまわすカロリーは残っていない崖っぷちの状態なのです。

そんな時にまだオニギリ一個しか口にしてないナンテお隣で言われたら、金で買えるもんならそのカロリー 譲ってくれ! ってな心境です。

「え~っ。お腹空いてるでしょう? 大丈夫? 食べて食べて~」 なんて、引きつった笑顔で優しい人をやっとこさ気取りながら内心は、早く追いつけコノヤロっ! 太れ、 太れ! と実は凄まじい根性がメラメラと燃え上がっているのであります。

この意地悪根性をなくしたいという理由だけで朝食ヌキをおススメしているわけではありません。実はちゃ んとした理論に基づいてちゃんとしたドクターが提唱しているのであります。

そのドクターとはイシハラクリニック院長の石原結實先生。

およそ二十年前に内臓疾患予防やダイエットのための「断食道場」を伊豆高原に開設して以来、約一 万人以上の人々が石原式断食メソッドを受けたいと足を運んだカリスマ。

石原先生曰く。 「特に体を動かしていない普通の人は朝食を摂らないほうがいい。トップアスリートやそれに近い運動量 をこなし、消費カロリーがとても多い人は別ですが、そんな人は圧倒的に少ないでしょう? まず現代人は 食べすぎて栄養過多の食生活を送っています。それが肥満に繋がり、やがて生活習慣病の原因となって しまう可能性が高い。もうそれだけで朝食を抜く大きな理由になり得ます。すごく単純に言えば、たとえば 一日二千kcal摂っている人が朝昼晩と六百六十六kcal摂ってるとしたら、朝食を抜いて六百六十六k cal減らす。1ヵ月、2ヵ月経てばそれだけで相当な減量になりますよ」

先生ゴモットモ! そうじゃなくても、朝は食欲がナイっていう人、結構いますよね。そうであるならば抜い てしまうのは賢い方法。

だけど、コレにはもっと健康面において納得させられる理論がありました。

流石ドクター!「体重を落とすこと以外にも、私の断食クリニックには生活習慣病を予防するために来院する方がたくさ んいます。そして、その方たちが断食を始めてしばらくして体験するのが、舌のコケ、目ヤニ、濃い尿の色、 発疹などの排泄です。余計な食べ物の消化等の仕事を休んでいる臓器たちは、今度一斉に今まで溜ま っていた不必要な老廃物や毒素を排出することに集中することができるのです。同じ理屈で朝は大小便 の排泄にエネルギーを集中させるべき時間帯。本来、エネルギーや血液を大腸や腎臓に集中させなけれ ばいけない時にものを食べると、消化するために胃のほうにそれらが回ってしまう。大腸や腎臓の働きが活 発化しなくなり、排泄作業が滞って、結果的に肥満や血液の汚れを引き起こしてしまう。朝食を抜くこと で体全体が浄化され、結果的には健康な体が出来上がるというわけです」

しかし先生、現実的にまともな朝の時間帯からバリバリと仕事をこなす人々にとって朝食ヌキはパワー不 足に陥りませんかね?

「まず、夕食を一日の食事のメインとして比較的多く食べている人は、フルコースの朝食は必要ないんで す。だいたいにおいて太りますから。しかし、糖分は脳の唯一のエネルギー。糖分を摂ることによって、全身 の臓器の司令塔とも言われる脳にエネルギーを与えることが必要となれば、にんじんジュースやしょうが紅 茶に黒砂糖を溶かしたものなどを飲むとよいでしょう。これらは実際、私の断食道場で皆さんが飲まれてい るものです。市販の野菜ジュースなどを飲むのもいいと思います。糖分が不足すると、確かにイライラや不 安、ふるえ、めまい、動悸などを伴う低血糖発作を起こしますが、タンパク質や脂質が足りなくて起きる発 作は存在しません。一日のスタートは少しの糖分を摂ることで充分なエネルギーが補給できるんです」 これで安心。朝食ヌキは精神的にも健康的にもおススメ出来るダイエット法といえるのであります。

ダイエットは「脳」で

ダイエットのカギは「脳」が握っている――。 コレは様々なダイエット法を試みて挫折し、それでも潔くデブにはなれないダイエッター達が広大なダイエットの森を彷徨っていると、ある日突然バッタリ出くわす、ダイエット・パラダイスヘの道しるべです。

脳は考え事をしたり、記憶したりする時にだけ使われるのではなく、喜怒哀楽や外的情報に反応して行 動を起こさせるナド、要するに私達人間の体を支配する司令塔みたいなもの。

つまり、脳が元気であれば人間はベストコンディションを保っていられて、はたまた脳がわずらっているとす べてが狂いだしてしまうというワケ。この脳を侵す最大の原因は〝ストレス〟だ、ということにダイエッターはい つしか気づくのです。

そして何でこんな簡単なことに気づかなかったのだろう、とも思うのです。 コンディションが乱されるのは体重ばかりではない。情緒不安定から様々な病を招いてしまったり、脳の 問題はとにかく厄介。肥満も脳のストレスと大きな関係がある。

このストレスこそがダイエットの最大の敵であり、ノン・ストレスの健康な脳こそがダイエットの成功のカギを 握っている。結論を言えば、「脳と仲良く付き合う」ことで本当の健康で美しい体が約束されるのです。

では、脳が元気でいられるにはどうすればいいのか。 そう考えることがすでにストレス。 めんどくさがり屋に超がつく私はまず、あまり深く考えてはいけないなあ~と気持ちをラク~に、ラク~に。 だけどっ、もしもっ! この最大のテーマに異様に興味をそそられた方はどうぞ今日から研究者になってく ださい。それこそ一石二鳥というもの。

もう間もなく、あなたはダイエット・パラダイスに辿り着くことでしょう。

では、糖分が脳を満たしてくれるのであれば、一体自分の体にどれくらい糖分があるのか? コレを数値で示したのが「血糖値」です。普通の生活を送る人であれば、血糖値は血液百mlあたり八 十~百二十mgが正常とされており、この値から外れた場合、人間の体は「お腹が空いた」とか「お腹がイ ッパイ」という感覚で教えてくれる。そして、ついつい食べすぎてしまい、血糖値が上限の百二十mgを超え ると、糖質は脂肪になり蓄えられてゆくのだそうです。また逆に血糖値が下限の八十mg以下になると、今 度は体は糖質を求めて筋肉を分解してしまう。だからお腹が空いたあ~という飢餓状態をひたすら我慢で 乗り越えるのは科学的に考えてもよくないのです。

ですから、食事はいつも腹八分目まで。血糖値は八十~百二十mgまで……と、コレがキッチリ出来る ような人はそもそも太ってないのではないか? と私は思うのですが、ま、理論的にはそういうことだそーで す。

しかしながらあまり難しいこと、メンドっちいことは苦手よぉ~という私のような怠け者は、とにかく気持ちを 楽に、胸に手を当て、無駄なガマンを捨て、なるべく好きなことをセレクトしてゆくのみ。

何を隠そう脳は「好きなこと」で癒される。 好きなことをしている時って食事をするのも忘れ、アッという間に時間が経つのも忘れ、夢中になっている 間に実はかなりのエネルギーを費やしていたりする。

脳神経細胞は好きなことに触れると、どんどん極める性質がある。それを利用出来ればこっちのモノ。ダ メダメと自分にガマンを強いるのは結果的に逆効果。 毎日の体重測定に一喜一憂するのもホドホドに。 食事制限もホドホドに。 とにかくいかに気持ちにゆとりを持たせるか、が勝負なのです。 体重は減り調子の時のほうがよぉ~っし、もうイッチョ減らしてやろう! と意気込めるもの。 逆に増えた時ほど腹が減る。 だけど、ガマンをしなくていい、というワケではない。そこでジタバタするのではなく、食事のことを考えなくて 済むような楽しいことをとりあえずやってみる。

体重や食欲が上り調子になってきてしまったら、心で〝おおーっと、チョット待ったっ〟をかけ、脳の負担 にはならないようなガマンの代用策を片っ端から試みて、とにもかくにも直ちに気分転換を図るのだ。〝ツ ライ。ツラスギル。も~ダメっ。やーめたっ〟となりそうな瀬戸際がダイエットのいちばんの勝負時。

ココで負け戦はあり得ない。城でたとえるならば脳は天守閣。ついに〝まいりましたあ~〟と世間に緩ん だお腹をさらさないためには、くだらない罠でもカムフラージュでも何だってマジでやってやりましょう。

と、ずいぶん鼻息も荒く意気込んではみましたが、現実は至極単純。ブティックに出掛けてドレスを試着 してみたり、デパートの化粧品売り場に行って、新しいコスメを探して顔に塗ってみたり、外へ出る気力も なければ好きな香水を自分に振り撒いてみるとか。憧れの女優や歌手の美しい写真やビデオを眺めて自 分にダブらせてみるとか、とにかく食欲から解き放たれるような効果的でなるべくお手軽なテをいくつか用意 しておき、いざという時が訪れたら試みるのです。

そして、その戦いに勝利した時、必ず自分を褒めましょう。褒められることは脳にとっていちばんの幸せ。ど んな小さいことでもとにかく克服した自分を褒め称える。そのたびにドーパミンが大量発生。私はデキル、次 の危機も乗り越えられる、もっとやってやろう、腕を磨こうじゃないかっ。ダイエットって楽しい~、とミョ~に有 頂天。ポジティブシンキングな幸せ者になれるのです。

そんな単純なもんかっと疑いを持つ方もいるでしょう。だけど、人生はシンプルになるべく単純な方がいい。 ダイエットに失敗する人ほど、ダイエットをとかく難しく考えがち。もっとも太らないための原則は〝摂取カロリ ーよりも消費カロリーが多いこと〟。タダそれだけなのに、焦って、深みにハマって、ダイエットの森を延々ウロ ウロと彷徨ってしまう人は私も含めてやたらと多い。

そしてどんなちっちゃなイイことも、アクシデントも楽しむべし。だってダイエットは一時のことではなく、いわば ライフスタイル。ゲームのように、趣味のようにハマって楽しんでしまったほうが勝ちなのです。

ダイエット・パラダイスを行った後も一生このことだけはお忘れなく。そしてダイエットの森を彷徨う、迷えるダイエッター達にそっと囁きましょう。 「ダイエットは一生続けるモノなのよ」と。

〈ルール9〉 現代人は食べすぎている

脳の空腹を満たす方法1ゼロカロリー製品

ダイエットの成功の秘訣は、脳を満たしてあげること。 では、時折(いや、しょっちゅう)訪れる空腹感やナンダカ食べたいっ! といったダイエットの危機に、私の ような意志の弱い怠け者はどうやって対抗しているか。お手軽(←私の必須条件)に脳を満たす方法、先 にも少しチラつかせましたが、もう少し具体的に取り上げてみます。

まず、ゼロカロリー製品。 その名のとおり、カロリーがゼロ。いくら食べても太らない! だってゼロなんだもーん。これにはもう、本当 にお世話になってます。コレがあってホントによかった。コレなしで私のダイエットに成功はあり得ません。だっ てね、空腹感が襲ったらとにかく、ひとまずコレを口に入れればいいのですから。

カロリーがゼロの商品で、まず筆頭に挙がるのはダイエットコカ・コーラです。私が幼い頃からあったのです が、私はダイエットコーラで育った! と言っても過言ではありません。あ、いくら飲んでも横には絶対育ちま せんのでご安心ください。他にもゼロカロリーの飲料はいろいろありますが、コーラってホントにホントにロング セラーでどこでも手軽に買うことが出来る。全くアタマが下がります。

私の幼い頃には、ファンタグレープとファンタオレンジもカロリーゼロのモノが出されていた時期があったんで す。アレ、本当に美味しかった。アレは何故無くなってしまったのか。あと、数年前まであったはずのアクアブ ルガリアノンカロリー。カロリーゼロには珍しい乳酸テイストで私は薄いカルピスのつもりで愛飲してましたが、 コレもある日突然、姿を消した。他にも姿を消した製品は実に沢山あるのですが、気に入ってたモノ、頼り にしていた商品がなくなるのはホントにガックリきます。途方に暮れます。で、やっぱり、ダイエットコカ・コーラ は偉大! そんな意味でも信頼度はナンバーワン! これからも頼りにしてます。

あと、炭酸は満腹感にも効果絶大。私はお腹が空くと、慌ててコンビニや自販機で買って飲むのです が、一本飲むとその瞬間は相当お腹が満たされます。チョット小腹に入れる感覚で、食事の前にでも飲ん でおくと、食べる量だって確実に減る気がします。そして、どんよりとしていた脳がスカッとする。コレが心地い いのです。

他に今、売られている炭酸飲料で私のおススメは、ダイエットペプシ、ダイエットスプライト、ダイエットジン ジャエール。全部カロリーはゼロです。

ペプシはコーラに比べてチョット甘ったるい感じがするので、ずっと飲んでいると飽きてきちゃったりするので すが、たまには! と、気分転換に飲んでみたり。コカ・コーラとペプシにはレモンテイストのものもあります。

スプライトはその味にクセがなく、とっても美味しいのですが、残念ながらどこでも買えるというほどには売ら れていない。前もって、ある場所を把握しておき、近くを通ったら買ってみようってな感じです。

ジンジャエールもそう。これは輸入製品ですが、私は広尾のナショナル麻布スーパーマーケットと渋谷の東 急本店の地下にある紀ノ国屋でしか今のところお見かけしない。

どこでもいつでも手軽に買える、飲めるという観点からすると、チト弱い。 炭酸でないゼロカロリー飲料ならば、アミノ酸カロリーゼロやフォションのストレートティーはコンビニ等で手 軽に買えて、とっても美味しい。おススメです。

けれど、どうしても飲み物ばかりでは満足出来ない。もうチョットお腹にガツンとこさせたい! こんな場合 にはカネボウフーズから出ている「プルジュレ」。カロリーは勿論ゼロです。実はガツンというほどでもないので すが、ウィダーinゼリーのような飲むゼリーで、チョット固形物を入れたぞっという満足感があるのです。コンニ ャクが主成分ですが、それを全く感じさせないようなライチ味が、飲んだ瞬間、「何コレ~、超美味し~ い!」。

私は買いあさり、周りのダイエッター達に配ったところ、こんなふうに喜びの声をあげ、感激してました。その 後、皆も買いあさったのか、コンビニでは売り切れ続出しましたが、カネボウは製造を、コンビニは仕入れを 増やしたのでしょう。今はもう大丈夫。新しくコエンザイムQ10入りのマスカット味も仲間入りしました。

それにプルジュレには食物繊維がたっぷり入っているので、お通じにも効果的。沢山飲んでいると、お腹 がギュルっ、ギュルっと言いだして、トイレ~っ。痩せそう感アリです。

ゼロカロリーの飲むゼリーは他にもカネボウ化粧品から「ヴィタロッソ」が出ています。ヴィタロッソはラズベリ ーの脂肪燃焼効果に着目して出来たダイエットサプリで有名ですが、その飲むゼリー版で、ビタミンが豊富 に含まれていることから、美肌効果もうたっています。しかしながらドラッグストア等にしか売られていないた め、購入がイマイチ不便。

「プルジュレ」のほうがコンビニ等でお手軽に購入しやすいのです。 とにかく、お腹が空いたら応急処置として口に入れる。たとえ他に食べたいものがあったとしても、気分は コーラじゃないとしても、ゼリーじゃないとしても、ひとまずお腹を満たして、脳を満たして、それから考えてみ る。ゼロカロリーの商品達はそんな安心で冷静な時間を私に与えてくれるのです。

〈ルール10〉 ゼロカロリー製品を積極的に活用しよう

脳の空腹を満たす方法2服

昔のジーンズ、入りますか? ディスコ全盛時代に着ていたボディコンの服、今着るとどうでしょう? 私は、太った、ヤバイ、ダイエットしようと思うと、まずは着てみて鏡の前に立ってみる。は、入らない。入っ たところで、うわあ~っ、何このボディライン! ってな具合で、まずは全身に稲妻が走り、落ち込み、食べ る気がなくなるワケです。

食べる気がなくなる、食べる気には到底なれやしない。そうだ! ダイエット中に食べたくてしょーがなくな ったら(じゃなくても)、アノ気持ちを利用しないテはない。

私がダイエット中、幾度となくする行為。それは自分が持っているお気に入りの服を片っ端から着まくると いうこと。

これは精神的に効果絶大だと私は思います。 私のお気に入りの服は、幸か不幸かほとんど痩せている時に買われている。そうですよね、スリムな体は 何でも着こなせてしまうから、やっぱり買う気にさせるもの。太っている時には、入らない、似合わないのに 買ってもなあ~、いつか着よう! と、とりあえず買っておけるほどのお金も勇気も私にはナイのだ。

そんなこんなで、最近着なくなっていた昔の服を引っ張り出して着てみる。入らなかったりキツかったりす ればその危機感によって食欲は減退ともなりますが(開き直らない限り)、順調なダイエット中に突然襲う 一時の食欲の危機も、コレで抑えることが出来る。

服をスッキリと着こなせるのは、やっぱり嬉しく、楽しく、幸せなこと。あ、こんな服あったナとか、昔のこの 服、コサージュつけたら今年イケそうとか、時間を忘れて、空腹も忘れてお洒落に没頭していたり。それに 服を着たり脱いだりって、結構イイ運動になっていると私は思います。

知らず知らずと汗をかいていたりなんかしちゃって。 それに鏡に映る自分を見つめるということは、姿勢を意識したり、後ろ姿もチェックしてみたり、と全身に 神経を行き届かせることになっているんじゃないかって。

一人ファッションショーの後はなんだか、体もスッキリ、楽しかったから脳もスッキリ! 終えた後も別にスグ に何か食べたい気分じゃなかったりする。

コレ、外出時も使えます。街中には探さなくてもブティックはいっぱい。しかも、これからのシーズンを意識し た新しいモノばかりが、「買ってくれ~、買ってくれ~」とたっくさん並んでいるではありませんか。私は片っ端 から着こみます。いかにも買うような顔をして。

コレ素敵、アレ入るかな? 五、六着に目をつけて試着室へ。入った、入った(服が)! 外(試着室 の)へ出て、大きな鏡で全身を眺める。キレイに着こなせている、OK! そーいえば、家ではこんなに大き な鏡で距離をおいて見ることは難しいんだよねえ。私の全身のバランスはこんなふうなのね。もっと、顔小さ くならないカナ、ふくらはぎ細くならないカナ。ボディチェックをするチャンス。

「いかがですか? とってもお似合いですよぉ~」 キタキタキターっ! ブティックのお姉さんが話しかけてくる。内心ギョギョっ、とする私。 「ええ、いいですねえ。他のも着てみます」 「どーぞ、どーぞ」 買わせようと試着をジャンジャン薦めるお姉さん。ダイエットが目的で試着し続ける私。コレを、幾度となく 繰り返す。だけど、本当に欲しい服、ワンピース等にブチ当たったとしよう。ど~しよう、いくらだろう。値札を チェック。じ、十ナン万ウン千円!? う~ん、やめとこ。さ、やっぱ逃げるとするか。

そう、この片っ端試着のダイエットには一つだけ難関があるのだ。この試着は基本的に新しい服を探すた めの行為ではないからにして、何も買わずして(買える人はいいけれど)、どうやってブティックのお姉さんをか わしてお店から出るか、ココが厄介。試着した数だけ緊張してしまい、私は何度やっても慣れない。

試着室には脱ぎ捨てた服がテンコ盛り。もう、どれ買いますか状態。さあ、この状態でどうやって……。 「チョット考えて、後でまた来ます」 はあ~っ!? ってな感じ。お姉さんの目が点になっているうちにそそくさと脱出! 成功。当分、この店には来ないようにしようってゆーか、来られない。冷たい視線か疑惑に満ちた眼差しを向けられるか、強烈に 薦められるか、どちらかだろう。

でも大丈夫っ。ブティックはいーっぱいあるもんねっ。と、思っているのも束の間、あそこに可愛い服が飾っ てあるのを発見!

よしっ、アノお店、入ってみよっ。 試着ダイエットは是非とも快く行いたい。

〈ルール11〉 ブティックで片っ端から試着しよう

脳の空腹を満たす方法3心がけ

各界で活躍している人々が集まる銀座のクラブは実に華やかで、日常とはかけ離れた世界。そんな夜を 毎日のように過ごしている私達ホステスにとって、恐ろしいのは〝慣れ〟というもの。

ある日のこと。ミーティングではないが、開店前に大ママ(オーナーママ)がほとんどのホステスを集めて話を したことがあった。

「最近、新しい女の子も増えたので、念のためお話ししておきます。まずね、お客様が座る位置を必ず意 識してくださいね。ご接待の場合が多いから、必ず上からグラスを配ること。よく来てくださる方だからと、そ の方ばかりに気を遣っているのではダメですよ。その方が誰を接待しているのか、そのお客様をちゃんと把握 して、おもてなしてすることがいちばんです」

うん、うん、ワカッテます、ワカッテます。前に私も一度注意されたことがあったからね。だけど、顔見知りの お客の方が話しやすくてスグに盛り上がりやすいから、ついついやっちゃうんだよねえ~。

「慣れ慣れしいお客様との会話も注意してください。必ず敬語を使うこと。お席に着いた時、女の子同 士で名前を呼び合う場合もナニナニ〝ちゃん〟、じゃなくて、〝さん〟」

うーむ。危うい……。 「あと、銀座のクラブでは政治、宗教の話題はダメ」 あ、なんかソレ聞いたことあるよ。だけど、それは私は守れてる。それは私がそもそもその話題にはウトイか ら。じゃ、イケナイらしい……。

「新聞、毎日しっかり読んでくださいね。世の中がどうなっているのか、今日、この会社ではこんな大変な ことがあった、その会社の方がいらして元気がないのをワケも分からず〝今日、ど~したんですかあ~、元 気ないじゃないですかぁ~〟、なんて無神経に言ってしまうようではいけません。さり気なく別の楽しい話題 をしてさしあげる。だけど、芸能のお話はお客様はあまりキョーミがありません」

そーか、そーか、そーだよね。すべてを知り尽くしていて、それを黙って状況に合ったおもてなしをするんだよ ね。そーだったんだが、新聞、最近読んでない。テレビのニュースやワイドショーで手っ取り早く大まかな情報 を見聞きしているだけになっていた。反省。

「それと、衣装、アクセサリー、気を抜かないでください。皆さんのギャランティはそれが乗せられて支払わ れているんです。それは自分を高める、自分のためにすることなんですよ。銀座のクラブは選ばれた女性達 だけがお仕事出来る場所なんです。一流と自負しているからには、それなりの意識とプライドを持つこと」

プ、プライドかあ。衣装、アクセサリーは頑張っているつもり、だけどタダ単に好きだからとも言える。 「自分の個性、自分の売り方は自分で決めるものです。口説かれて困った、困った、という人は口説か れないような可愛がられ方をしてもらえるように、ずっと長く、人として付き合っていきたいから大切にしよう、 と思われるような女性になればいい。口説かれたいなら、そのようにすればいい。あと、ここに来る前何をし ていたか、という話。嘘はつく必要はありませんが、正直に言う必要はないのよ。ミステリアスなほうがいい、 それによって夢を壊すような内容はお客様も聞きたくはナイと思います。お客様は〝銀座の女と飲む〟と いうことを楽しみにいらっしゃるんです。自分がどういう人と思われたいか、銀座にいる限りプロとしての意識 を持って、お仕事してください」

大ママは当たり前のことを言っているだけだ。だけど、ナンダロウ……すごくいい話だった! 気持ちが引き 締まる。私、知らないうちに銀座の生活に慣れてダラケていたかも。ちゃんと接客しよう! 新聞読もう! 気の利いた会話出来るようにしよう! 衣装やアクセサリー、髪型も、自分に似合うバリエーションを研究 しよう! 女性としての姿勢も理想をもって、長いお付き合いが出来るような人になりたいっ。

だけど、〝銀座の女と飲む〟ということを楽しみにいらしているのかあ。夢を壊してはイケナイのかあ。知 識も教養も大切だけど、美しくなければイケナイよねえ、ヤッパリ!

だから私はプロとして太っちゃイケナイんだ。コレは言うなれば義務だ。 どんな職業についていようと、〝女として生まれたからには、美しくいることは義務である〟。 脳は満たしてあげるばかりでなく、たまには緊張感を走らせて脳を鍛える、というのも大切なことだ、と私は思ったのであります。

〈ルール12〉 見られることの多い女性は、プロとしての意識を持と う

脳の空腹を満たす方法4憧れ

恋をすると痩せる。胸も頭(脳)もその人でイッパイ。食べるどころじゃない。それはそーかもしれませんが、 男との恋愛で痩せるのは一時的な場合が多い、と私は思います。だって、失恋してその男がいなくなったら どーなるの? スグに好きな人が現れればイイけど、いない間に太るんじゃん? とか、その恋人に慣れてき たら太るんじゃん? とか。銀座のホステスとして、仕事として男性に接していても慣れがきてダラケるという のに、プライベートとなったら……ムリっ。

でも、女性に恋をするということ。コレはアリだと私は思います。 私の働くクラブに三年ぶりに復帰したホステスがいる。優香さん。三年経って現在二十八歳。 彼女のホステス歴はかなり長いらしいが、ずうっとナンバーワンだったらしい。 優香さんの復帰一日目。私は初めて彼女を見た瞬間、恋に落ちてしまった。ナ、ナンテ可愛いんだろ う。か、顔ちっちゃい~、肩ほそーっ、しゅるんとまっすぐに伸びた二の腕、キュッとくびれたウエスト、そのライン からつながる円やかかつ締まったお尻。そして、目、鼻、口。整っているのに小作りで全くクセがなく、よくもま あ、こんなに上手く配置したもんだなあ~、とお人形を見るような感覚で思わずジッと見つめてしまう。私が 男なら毎晩通うっ。

優香さんになりたいっ。 しかしながら彼女は完全復帰したワケではなく、何かの資格を取るための勉強をしていて、お店には週に 一、二度しかこない。私は優香さんに会いたくて会いたくて(見たくて?)、彼女の出勤日が楽しみなので ある。

今日は優香さんの日だ! その小さく可愛い顔立ち、華奢な体を思い出す私。バクバク食べる気には ならない。優香さんってナンダカ座り方も可愛いんだよなぁ~。あ、姿勢がいいのか! 私も背筋を意識し てみる。丸まってる、伸ばそうっ。で、アゴを必ず引いている気がするっ。私もアゴ引こっ。鏡の前に座ってや ってみる。あ、このほうが顔が小さく見えるんだあ。ナルホド。

私は優香さんに近づきたいと、気がついたら彼女の研究を始めていた。毎週、毎週、彼女をジイ~っと 見つめ、その記憶を持ち帰りとにかく真似をしてみる。もちろん、真似ようにも真似られないこともある。あん なに細いドレス、私は着られない。だけど、着てみたいなあ~。

そんなことを考えていた私は、ふと気がついた。こんな憧れの気持ちは、ダイエットに自然に活用されるの ではないだろうか? ムリをしている意識もない。だって心からそうなりたいんだもの。脳にストレスが溜まるど ころか、脳が酔っているのか、夢を見ている感じだ。

ある日、優香さんを訪ねて数年ぶりにウチのお店に来たお客がいた。彼女が席に着くまでの間、私が接 客をすることになった。

「お、優香。ずいぶん落ち着いちゃって、太ったなあ~」 そのお客は私に向かってそう言った。 「あ、私は違います。優香さん後で、すぐにいらっしゃいます。私はれみです」 よろしく~、よろしく~。ゆ、優香さんと間違われた。な、内容はスゴかったけど、超ウレシイっ! よしっ。 今度はもう少しいい内容で言われるようにガンバロっ♪その時、私の脳は幸せで満たされていた。楽天的な 幸せ者と笑われるかもしれないけど、とにかく似てきたのかもっ。だって、間違われたんダヨ。あの、憧れの優 香さんに。

人間は、ああなりたいこうなりたいと強く望んでいれば必ずそうなれる、という言葉を耳にすることがタマに ある。もしかして、それは本当にそうなのかもしれないなあ、と私は思うのです。

そうであることを願っています。 容姿だけじゃない。大ママの強さと優しさや心から信頼出来る懐の広さ。ウチのお店には大ママの下に小 百合ママというとっても温厚な女性がいるのですが、小百合ママが醸しだす温かいムードは一緒にいるだけ で幸せな気持ちになったり、優香さんもその場を明るく華やかに盛り上げる会話をする。銀座のクラブには 実に素敵な女性がイッパイいる。初めは見様見真似でもいいじゃないか。

イイと思ったらまず真似をする。 そしてそういう人にいつかなる。必ず。そんな恋を沢山するのはとってもイイんじゃないか、と私は思うのであ ります。

〈ルール13〉 心から憧れる人をつくろう

脳の空腹を満たす方法5雑誌

憧れの女性、となると芸能人や著名人を浮かべる人も多いと思いますが、出来れば身近で探したほう がいいかと思います。それはやっぱり真近でよく研究出来るからなんですね。でも、そんな素敵な女性周り にいないって方は、有名人で構わない。それに有名人であるからこそイイこともあります。

毎月出される雑誌等では、もうずうっと昔からダイエット特集が絶え間なく組まれています。 それだけ、ダイエットって永遠のテーマなんですね。時代と共に、新しいダイエット法を提案して、いつの間 にか自然消滅。また新たな方法……とその繰り返しなワケです。

でも、そこには必ずと言ってイイホド、旬な有名人、芸能人、ハリウッドのセレブ達だって登場している。そ こで、自分がやっているスポーツや食事法、入浴法、おススメ化粧品等々、実にいろんなダイエット法をご 披露してくれている。

読んでみると、スゴイ、スゴイ。皆さん、かなり努力してます。 コレを是非ダイエットに活用してください。その有名人、芸能人がやっているダイエット法では決してありま せん。〝こんな人でもこんなにいろいろやってるんだあ~〟と知ること。そして、ずいぶん〝大変そうだなあ ~〟、と思うことが大切なのです。

そう、ダイエットにおける心の仲間を作るのです。 ツライとき、めげそうになったら、あの人もあんなに苦労して、それでも頑張ってるんだよねっ。私ナンテ楽な ほうだ。よしっ、ガンバロっ! またどこかでその人達がダイエットに挫折していることを知ったら、間違ってい たんだワあの人、と少し勝ち誇った気分で、ナラバ私は挫折しないっと、チョット嫌なヤツかもしれないけれ ど、ま、そんなふうに考えて、気持ち(脳)をリフレッシュさせる。また、どんな内容であろうとも皆がダイエット、 ダイエットってキレイになりたい一心で戦っている姿を知ると、私だけ取り残されるワケにはいかないっと思っ て、脳もピリッ。

それに、雑誌のダイエット特集は、常に新しいダイエットの情報が盛り込まれているワケです。 今、こんな製品あるんだあ~とか、このトレーニングウェア可愛いから、コレ着たら筋トレ楽しくなりそうっと か、タダ、新しいダイエット法に振り回されるのではなく、自分にプラスになるような情報を軽~く(←コレが 大切)取り入れてみる。

そんなこんなで、休日などダラケがきそうな時には雑誌のダイエット特集を読みまくってみる、ナンテのもい いのではないでしょうか。

〈ルール14〉 雑誌のダイエット特集を読みまくろう

 

男と女のダイエット物語

男の「チョット太ったんじゃない?」と女の「全然分からないけどね」の微妙な関係

最近、確実に太った。だって体重が増えているんだもの。その増えた体重とは二、三キロ。二、三日でち ゃらりと修正することの出来ない、かといって軌道修正を試みる気構えが失われるほどではない微妙な数値だ。

きっと、ジムをサボったからだ……。これじゃあ、本末転倒? 増えたのはアッという間の出来事。体重が二、三キロ増加してしまったという現実を目の前にして、心が 揺れる。まずはポンと乗った体重計の上で、乗り方のバランスでなるべく軽く体重を表示してくれる位置を 探す。

左足の親指あたりに力が入ってたりする。 五百グラム程度の体重の増加ならば本来の数値をはじき出すことが出来るが、二、三キロとなるとそう はいかない。最少値を狙うため全裸に近い状態で計測。

もう脱ぎ捨てるモノは何もない。 髪についたバレッタ、もう一回オシッコ出るカナ? もう奥のテはない。諦めに入る。ハア~確実に太った んだ私。次の行動は鏡の前に立つこと。ボディラインを確かめる。まだ、そんなに崩れた様子はない。チョッ ト膨らんだ気はするケド、まだ女のラインを保ってるわよねえ。このくらい丸みがあったほうが男にはウケるか も……。言い訳を考える。

だけど、自分自身は騙せない。 だま体重の増加は何が何でも許せない、暗い現実が目の前に立ちはだかる。次に顔立ちを確かめる。 正面から、むくんだかあ。顔を横にむける。フェイスラインのシャープさはこんなではなかったはず? 意味も なく両手で頬を覆い、あ~やっぱり太ったぁ。顔デカくなったぁ。痩せなきゃ。

次にどんな心理に陥るかとなると、周りにバレるかな、である。 知人が集まるような場に行くと、周りの反応がまず気になる。

「太った?」と言われるかどーか。体重が増えているのだから確実に太っているのだけれど、この期に及んで周りに気がつかれるほどにはなっていないことを祈る気持ちだ。そして人知れず軌道修正したいのだ。も っとも、修正に成功した暁には「チョット痩せたね」という言葉は是非ともいただきたいという矛盾した考えも あるのだが。

そんな状態の真っ只中、中学の同級生の結婚式の二次会が催された。三十という年齢もあって今年 は急激に結婚ラッシュ。隔月くらいで同級生に会う機会に恵まれる。

「最近どうよお~。この間言ってた彼女の話、あれからどうなったあ~?」 「仕事ハードなんだね、痩せたんじゃない?」 その他あれこれ。気心知れた無責任な会話が繰り広げられる。立食形式のパーティ料理を皿に盛りな がら私は言う。

「私、最近太っちゃって、こんなに食べたらヤバイんだけど」 と、言いながら皿にてんこ盛りする。男友達は言う。 「ああ、れみ、太ったよねえ」 ギク~っ。そのとおりなんだけど、やっぱ、ワカルんだっ。自分から言ったんだけど、他人に納得されるのは 大いにショック! と、すかさず女友達が言う。

「え~? 全然分からないけどね」 さすが持つべきは女友達! と思ってしまうアナタはすぐにその考えを改めよう。女のその心理はとっても 奥深い。まず、人の容姿にはあまり関心がナイか、さもなければ他人の不幸を喜んでいる場合があるの だ。しかも油断させてもっと太ってしまったほうがオモシロイ! というイジワル根性が隠れている場合だって 大いにあり得る。あ、スミマセン、もちろん傷つけまいという優しさの場合も大いにあります。

その点、男友達は率直。同級生の容姿がどうなろうと構わない。見たモノに対してそのままの感想を単刀直入に言う。そこには何の計算も気遣いもないのだ。それが男である。自分の彼女に言う場合ならばも う、太るなとか、逆にそれくらい太ってくれたほうがイイとか、いささか親身にはなるのだけれど、女友達が相 手の場合は計算や傷つけまいという心理は薄い。

「太ったんじゃない?」 イイ意味か悪い意味かは別として、それは見たまんま、正直な感想なのだ。女の「え~、全然分からな いけど」と天秤にかけるならば、間違いなく男の意見を〝正〟としよう。

次の瞬間、「そのくらいのほうがカワイイよ」と、もし女友達がのたもうたならば、それがイジワルなのは百二 十パーセント確実である。

そのくらい、とは前回からどのくらい変わった、ということなのですか? 嘘つかないでクダサイヨ。さっきアナ タ、全然分からないって言いましたよね。ホントは変わって見えてるんですか、私。

まさかこんな話題でそこまで突き詰めることは出来ない。みっともないじゃないの。それに真剣になりすぎて 言ったところで「コエ~ッ」、がオチだ。男も、「いや、ごめん。そんなコトないよ。ごめんね」と慌てて、女は、ほ らあ~っとばかりに男に目クバセを入れて、事実は迷宮に入る。

もっとも自ら迷宮入りさせた、という感じなのだが。 だけど、すみませんが実は今、そのことで頭がイッパイなんですヨ、私。とっても重要なコトなんです。 だけど、過ぎてみれば生死をさまようような事柄ではない。 けっして女友達を恨んではイケナイ。 世の中にはもっと大事なコトが沢山あるのだ。今はとてもじゃないけどワカラナイんだけど。 今はソレがすべてなんだけど。 タダ、ダイエットにおいて、まず現実をしっかりと見つめ受け入れることが軌道修正の第一歩。 それからどうするかは自分の勝手。だけどその評価は是非とも自分自身にとってプラスにしたいというも の。ダイエットの大切な一コマなのであります。

〈ルール15〉 現実をしっかりと見つめ、受け入れよう

浮気のススメ1ダイエットは男と女の恋愛と同じ

原稿を書くのをお休みして、三週間ジムに通った。ひとまず筋肉をつけることが出来た。 体重も四キロ落ちた。 周りの人も、「変わったネエ!」 って言ってくれる。 心地いい響き。無条件に嬉しい一言。私はまたもや体重を落とすことに成功した。だけど、今までの経 験からして〝成功は失敗のもと〟。

ここからがダイエットの本番。ダイエットと楽しく付き合い、ライフスタイルにしてしまうことが最大のテーマなの であります。それは限りなく異性との関係に似ている。結婚出来れば超ハッピーだろうけど、たとえ別れたと してもけっしてフリダシに戻ってはならない。マイナスに導かれるなんてもっての外。そんな付き合い方を肝に 銘じてGO!

まず、ここで大敵なのが〝ガマン〟です。 緻密な計算に基づいた一時のことであれば必要かもしれないけど、先々を考えない目先の我慢は大逆 効果。必ず続かないんだから。ストレスになっていずれ大爆発を招いてしまう無謀な行為だと思われます。 気がつくと今までの苦労が水の泡どころかリバウンドを通り越してダイエット前よりもおデブになってしまったり もする。この勢いは大荒れの海に船出をするようなもので、まーさーに自殺行為。一度航海にでてしまった ら、もう誰にも止められない。しかしながら我慢のレベルは人それぞれ。頭で考え、心に問い、自分の記憶 にストレスとして残るか、次の食事の時間には忘れてしまうことなのか判断してみることが大切です。

ダイエットをしているという意識を持っていればOK! 油や砂糖、炭水化物など潜在意識に〝太る〟 とインプットされている食品にこそ食べたいものが多い。だからといってそれらを一生我慢し続けるのか。し続 けられるのだろうか。その自信があるのであればすでにあなたは太ってはいないはず。

直ちにこの情報を周囲のおデブに捧げてほしい。そうでないのであれば、食べたいものは我慢しないほうが将 来的には身のため。食べたいものは食べて身も心も満たされよう。ある一つの意識を持ちながら。

それは〝私は美神、ダイエットしてるの〟という意識です。 ダイエット本に必ずといっていいほど提唱される「規則正しい食生活」。でもコレ、どのくらいの人が実践 出来ているんでしょうねえ。

「生活」というのだからこの場合はライフスタイルでしょ? マットウしていなければスタイルとは言えないんで しょ? 本当に体のことを考えて栄養素を取り入れるなら規則正しくムダを省くことはカンタン。甘いもの= 糖分を欲しているのならばにんじんや大根等の野菜にも含まれているし脂肪分がないからカロリーだって少 ない。ケーキや和菓子に手を出さなくても糖分は摂れることになる。だけど、きっとそうじゃない。

糖分摂らなきゃなあ~と思って甘いものを意識する健康な奴よりも、単純に〝ケーキが食べたいよお ~〟でしょ、ヤッパリ。ならば下手に我慢するよりも食べようじゃないのっ。明るい未来を考えて。我慢してリ バウンドしてしまう自分の姿を想像して。

だけど、その時〝ダイエットをしているのよ、私〟という意識を持つのです。そしてセコく食べるのはやめる。 一食分に相当する量をキッチリ食べるのです。中途半端は禁物。

女優の夏木マリさんがテレビに出ているのを見たことがある。 筋金入りの引き締まったボディでおよそデブとは無縁そうな女優、夏木マリ。実は彼女も相当ガマンして いるらしい。以前TBSのはなまるマーケットに登場した時のこと。チェキに撮った日常の写真を肴にトークが 展開されるはなまるカフェを何気なく見ていた私は途中から釘付けになった。

「今、筋トレにハマってるんです」 あ~やっぱり、こんな細い人でも努力してるんだなあ。と思ったらホスト役のヤッくんも言った。 「ええっ。夏木さん、全然細いじゃないですか。ムダな肉なんてどこにもないですよ」 「昔はそうだったのよお。だけど、年と共に………ある日突然太りだしたの。で、このままじゃヤバイと思っ てね。週に三回くらい頑張ってるのよ。でね、月に一回のご褒美がコレ」

次の写真。 「うわっ。コレなんですか!」 その写真にはゴディバ等のチョコレートの大箱が二十ケース以上。ダイニングテーブルが隠れるくらいに山 積みされている。

「私、チョコレート大好きなの。コレを月に一回、一日中テレビの前から離れずにソファに寝転びながら食 べるの。この日を楽しみに毎日ダイエットしてるってワケ」

「こ、コレ全部食べちゃうんですか!?」 「そう。余裕よ。だけどね、最近その回数が増えてきちゃって。三週間に一度、今では週に一回やっちゃ ってる」

あ、危険。 爆発してる。 夏木マリは女優だから意志も強固にまた別の方法を考えだして体型を維持していくんだろうけど、コレ、 一般人だったらそのうち挫折して途方に暮れちゃうよ。

そしてその時チョコの大食いナンテゆー異常な特技身についちゃってるんだよね。 だったら最初から明治の板チョコとか、ボリュームのワリに意外とカロリーは少ないから、二枚くらいを口にし て、派手に食べた気になっといて一食にしちゃっといたほうがいいんだよ。で、スタバのソイラテかなんかでトド メさしとけば激ウマ。お腹も満たされる。

今、甘いものが食べたいのだから肉やごはんは眼中にないはず。チョコ食べてから肉食いたいっ! とはナ カナカ思わないしね。頭も心も納得いってかなりハッピー。

次の食事の時にはきっと食事っぽいものを欲するから、一食で健康のバランスを考えるよりも一日、もしく は二、三日かけるくらいのゆとりが大切なのかもしれないなあ。

そう、そうやって食べたいものをキッチリハッキリさせて一食にしてゆく。タラタラと中途半端にいろんなものに 手を出すのは止めにする。

ココにダイエットの意識があるというわけ。 だけど、あの夏木マリですらそんな苦労をしているとは、ウン、どこかで嬉しい。心の友、いや、どこかで勝 ち誇ったような気持ちを精神安定剤にしてしまう私は性悪なのでしょうか?

〈ルール16〉 ルール付きで「遊び」を取り入れよう

浮気のススメ2女とちがって、パンはずっと待っていてくれる

好きなモノを食べるにあたってもダイエッターにはルールがある。〝私はダイエットをしているのよ〟という意識を常に持つからにはやはりダイエット前の自分と同じように着の身着の儘になってはイケナイ。 ままそこにはダイエッターが必ずといっていいほどブチ当たる壁がある。 それは一つのお気に入りのモノをひたすら食べたくなるといった気持ち。 例えば、女性にいちばん多いのがパン。 雑誌やテレビでパン屋特集が組まれるくらいだからもともとパン好きが多いのであろう。とにかくパンが食べ たくてしょーがナイという声をよく耳にする。実は私もそうだった。

まずは朝から始まる。必ずといっていいほどお気に入りのパンがあり、絶やさないように買い置きをしておい て食べたさのあまりに早起きしてしまう。

仕事を考えれば七時の起床でいいのに、六時にはムックリと起き上がる。 パンを思って五時に目が覚めてしまうという奴もいる。 そして悩むのだ。こんなに早くから一食目を開始してしまっていいのだろうか、と。 夜九時に床に就ける人はいいかもしれない。だけど、たとえば深夜十一時を回った頃に眠るとすれば、 それは果てしもない一日に感じるのではないでしょうか。

とりあえず一日を三食で考えるのであれば、朝食五時半、昼食十二時、夕食七時。食事の間が七時 間も空いてしまうことになる。間食は免れない。ダイエットコーラやゼロカロリーのゼリー、タバコ等で乗り越え られればいいけど、このサイクルにストレスを感じだしたら、朝食ヌキダイエットを試みて、食リズムを整えるこ とをおススメします。

ですが、ココでの本題は別。 本題は食のリズムと共に重要な食の〝傾向〟と体重の変動です。私はお気に入りのモノを食べている と不思議なくらいどんどんその量が増えていってしまうのです。筋トレの食事制限から解放されてありがたく いただいたパンの一個が見る見るうちに大きめサイズに変わっていった。

もう少し食べたい、もう少し~というとっても素直な気持ち。 どこかで安心感を求めて一個という数に執着すればそのサイズは見る見るデカくなる。私の場合は最初 食パン一枚に至福の喜びを感じていたのでありますが。一ヵ月後にはバンズパンサイズのくるみ入りロール パン。

不安を感じ、一個だけという数量にこだわり、さらに一ヵ月後にはワインと共にチーズ等をのせて食べれば 十五スライス(十五人分)くらいはイケちゃうようなビッグサイズに変わっちゃってました。

しかも、まだ食べたい気でいるんだからオ、恐ろしい……。 この時、私は体重計と相談しました。 体重が減少傾向にあるのであれば何も悩む必要はナシ。しかし、一日のトータル的な食事との加減で 微妙にでも上昇傾向にあるのであれば、直ちに他の美味しいモノに移行する。要はリセットするのです。ま た、この時カロリーが低く、あまり好みではないモノで我慢してはいけない、ココがポイント。

パンにハマっているのであれば米、米にハマっているのであればパスタ、といったふうに同格のものがおスス メです。

最初はあまり興味が湧かないかもしれないけど、とにかく食べてみてください。 同格のモノであれば必ず太刀打ち出来るハズ。 新しくセレクトしたもので一から始めるのです。 健康面でもずっと同じモノを摂り続けるよりも一定の期間でバランスを保つことにもなる気がする。一つの モノにこだわるのでなく、同格の新しい魅力にテをだしてみよう。まるで色オトコみたいなやり口だけど、一途 なアナタもそんな浮気心がゆとりをもたらし、意外なほどイイ関係を築いてくれるかもしれない。

また、戻りたくなったら戻ればいい。

その時、それが女だったらもう食べさせないかもしれないけど、パンはずっと待っていてくれる。 逃げないという保証があるのだから、なるべく長く待たせてやろうじゃないか。

〈ルール17〉 一つのモノにこだわるのでなく、同格の新しい魅力に テを出そう

 

ホステスに愛されるアイテム

飲むホステス

さて。銀座のお話をしたいと思います。 「ねえ、ねえっ。私さあ、ここ二ヵ月で二キロも太っちゃったんだけどお。皆は太らないの?」 まだお店が始まったばかりの早い時間だったので、顔馴染みのお客一人を、私を含めたホステス四人で 囲みながらのんびりと接客していた時のこと。色気のない話題とは分かっていながらも、私の頭は日毎にデ ブりゆく自分に対する不安でイッパイイッパイ。解決法が見つからないかと思い、一見すましながらも実は 同じ不安におののいている仲間(ホステス)探しを始めることにした。

すると皆がその話題に乗ってきた。 「太って、太って、もお~タイヘンよお~」 えっ? ヤッパリそおなの? 「そ~よ。だって当たり前じゃない。美味しいモノいっぱいご馳走してもらって、お酒もいただいて、帰って寝 るだけだものお」

わっ! ヤッパリそおだよね。お仲間がイッパイいるみたいでウレシイ~っ。 「まずね、酒は絶対に焼酎にしたほうがいいよ」 ぎゃっ! 今度はお客であるその男性も乗ってきた。あなた(お客)もこの話題に入っちゃうの! 「俺なんかさ、接待とかで毎日飲むじゃん。本来ビールや日本酒が好きなんだけど、お腹が出ちゃってどう しようもない。糖尿だってあるワケだよ。そしたら、なるべく蒸留酒がいいって医者から言われて、その中でも カロリーが低い焼酎に切り替えたんだ。そしたらさ、ナント、二、三キロアッという間に減ったヨ。焼酎は太ら ないよ。次の日ラクだしねえ~」

と語りを入れながら焼酎をガブガブ。 そっか、この人それで焼酎飲んでるんだあ……。 どうやらダイエットに関心があるのは私達ホステスだけじゃなくお客も、のようだ。そうよね。 私達の食の贅沢、肥満の根源はアナタ方お客にあるのよね。そ~だった、そ~だった。 「うんうん。焼酎は体にいいのよねえ。確かに次の日がラクなのよお~」 ホステスも全員一致発言。ナニ? 皆、知ってたの? 今、日本は空前の焼酎ブーム。そして、焼酎を 愛飲する人は「オイシイ!」という言葉と共に必ず健康面に引っかけて焼酎を褒め称える。

銀座の高級クラブにおいては一人で何種類ものお酒をキープしているお客は多いが、その中に焼酎はか なりの確率で顔を並べている。そしてホステスはその中から好きなお酒を飲むことが出来るのだけれど、必 ずといっていいほど、「焼酎いただきまあす」

皆、自分の健康を気遣ってたからなのかあ。飲みやすいというのもあるけどねえ。 また、コレはホステス同士の裏話なのだけど、焼酎の色を想像してみてほしい。そう、限りなく透明。お酒 を作るところさえジロリと見られなければどんな濃さの水割りを飲んでいるのか分からない。ウイスキーやブラ ンデーみたいな茶褐色じゃどの程度の濃さで飲んでいるのか一目瞭然だもんね。

さらにもっとスゴ腕は、焼酎だったら、「チョット、濃かったわ~」 って可愛い程度に顔をしかめ(あまり派手にしかめると、どらどら? っとグラスを奪われチェックされてしま う)、どんどこどんどこ水と氷だけ足していけば、今度は蒸留から浄化がすすみ、「実はワタクシずっとお水を 飲んでましたのお~、オホホ……。だから全くシラフですう~」

なんて深夜の一時頃に自分だけ楽しいマジックショーも出来ちゃうワケで。 だけど、私達しぶとい根性を持つホステスも、本来はみ~んなか弱い女性。元来飲めない、また体調が 優れず敢えて飲みたくないっと思っているホステスは実のところとても多かったりして。

そんなワケでも焼酎はイザとなったら飲まなくても誤魔化せちゃう魔法のお酒。ま、だけどコレは銀座法 (律)に確実に引っかかります。ママに知られたら命の保障は出来ません。基本的にお酒は正々堂々、あ りがたく美味しくいただきましょう。

ということで焼酎ブームには、蒸留酒であるからにして、次の日に体に残らないからラク、ということとカロリーが少なめであるという理由が正当に? 一役買っている気がするのであります。

だけど、銀座のクラブには、〝まず、もうすぐ空きそうなボトルから飲む〟というまた別の法律が存在したり もする。シャンパンやワイン等その日限りの飲み切りボトルは大歓迎だから、いつもいつも「焼酎で、焼酎 で」とはいかないのが現実。

焼酎飲んだから痩せる、健康になるってワケじゃないんだけど、肥満予防的な発想で焼酎党に切り替え ておき、なるべく焼酎にありつけるように「焼酎好き」を日頃からアピールしておくのもテかもしれない……と 対策を練る今日この頃の私達ホステス。

またコソコソしないで一度腹を割って話してみると、ダイエットや健康はお客とホステス、共通の趣味にな ったりもする。スタイルがどーのこーのもさることながら、お客は太る、痩せるがどうやら健康に直結するらしい のだ。

不摂生しがちな人ホド、〝健康〟という二文字に敏感に反応し、だけど、この不健康な生活からは抜 けられなさそーだっ、と自分に腹をくくって他力本願に走る。

あらゆるチョットよさそう、というものにはまるで敗者復活戦かのように片っ端からとっ組んで、崖っぷちなの だろうか? それが結構しつこかったりしちゃうワケだ。 ここでも銀座には不思議な絆が生まれたりする。 普段、思わず相手の腹を探り合ってしまいがちなお客とホステス、ホステス同士だが、この件に関しては 「アレがイイらしいヨ。アレやってみたけどよかった」と、自分の持っている知識と経験を惜しみなく出し合う。

「こないだ話してたのコレコレ」。親切に、自慢げに持ってきちゃったりもする。 お客もホステスも昔、少年。昔、お嬢。 可愛い一面がまだ残っていたのであります。

〈ルール18〉 酒を飲むなら焼酎にしよう

シークァーサー――沖縄に自生するみかんがブレイク

そんなこんなでまず、焼酎と共に一大ブームを巻き起こしているのがシークァーサー。 シークァーサーとは、長寿の人が多い県として知られる沖縄に自生するみかん(ヒラミレモン)のことで、そ の果汁を焼酎の水割りに入れる焼酎のシークァーサー割りというのが今、ウチの店ではとっても人気。

知らないお客には、「体に凄くいいのお~。一度試してみて! (黒服に向かって)シークァーサーくださあ ~い」

お客のOK! を聞くまでもなくオーダー。シークァーサーを待つ時間は、どう体にイイのかを説明する時 間、となっている。

平成十四年、慶応大学医学部の吉水助手(消化器外科)らがこうしたデータを発表した。 ・血圧・血糖値降下、動脈硬化の予防、コレステロール降下作用→糖尿病を防止、シークァーサーに 含まれる「ノビレチン」→ガン抑制作用。

・クエン酸により新陳代謝を活発にする→疲労回復効果、美肌、老化防止作用・ビタミンC、B1、カ ロテン、各種ミネラルを豊富に含む等々。

コレを聞いたらお客は最後。ホステスと一緒に、「シークァーサー! シークァーサー! ハヨクレ、ハヨクレ」 と餌を求める鯉のように黒服に向かって口をパクパクさせるのであります。

その味は、超酸っぱいみかん。どちらかといえば女性好みで、お酒が苦手な人にはなお◎。太陽をと浴びたようなヘルシーな味が、太陽とは無縁な私達ホステスにはたまらない。アフター等で、行きつけのバ ーに(自分が飲みたいから)おみやにすると、そこのマダムは明くる日、有楽町のわしたショップ(沖縄の物産 を扱う店)に買いに走る。丸ごと圧搾した百パーセント果汁がそのままペットボトルに詰められているという お手軽さもあって、たちまち品切れ。

アタマの利くホステスはさらにバーでの品切れを危惧して、自分のお店からこっそり二、三本ギッて、ボンっ とバーキンに忍ばせて、「コラア~っ!」

黒服の叫び声を背中にかぶりながら、「逃げろお~!」 アフターヘGO! 大人気のシークァーサーですが、調子に乗ってはいけません。割っていいのは焼酎のみ、とこのたび、銀座 法で定められました。

ある日の話。ドンペリのミモザ(シャンパンにオレンジジュースを入れたカクテル)が好きなお客の席で、二十 歳のホステス、満里奈が、「健康にいいからシークァーサーで割りましょうヨ」と、オレンジジュースをシークァーサーにすり替えたことがあった。 お酒は何でもいい状態に陥っているホステス。小首を傾げながらも優しいお客。何事もなくその場は過ぎ た。

が、二、三日後にお店のミーティングで大ママがビシッと一言。 「健康にイイからって、何でもシークァーサー、シークァーサーって。高級なドンペリをそんなドギツイ柑橘系 のモノで割ったらせっかくのお酒の味が台無しでしょう。一流のお客様の前で居酒屋のようなマネをしないでください。あとね、シャンパンの泡を抜く(マドラーでシャカシャカと

掻き混ぜて炭酸を抜く、シャンパンを喜んて飲んでいるとはとても思えない、が、飲むツラサに思わずホステスがやっちまう行為)のもナシよ」

両手の人差し指を重ねて××ポーズ。 サスガ大ママ! 仰るとおり! だけど、その瞬間、ホステスの焼酎好きにますます拍車がかかるような気がしたのは私だけでしょうか? 焼酎はボトルの中ではいちばん安いお酒ときている。ここでお店思い、売り上げ命のホステスは心を入れ替 えるのです。

オッケイ、大ママ! 銀座の品格を落とさないように、売り上げも落ちないように、銀座法に引っかからな いように、頑張りますわヨ、私達。

厳しい銀座法の目をくぐって

何かとお酒を割りがちなクラブにおいては、水で割っては損とばかりに、その割るモノに対して〝健康〟と いう願いを込めるのが今時の銀座の風潮。

その効能にはコレステロールを下げたり、お通じをよくしたり、ダイエットを連想する単語がチャッカリ含まれ ていたりする。

シークァーサーが焼酎だけのモノと判決が下されたからといって、ココでションボリしていてはホステス稼業は 務まらない。

厳しい銀座法の目をくぐるかのごとくウイスキーやブランデー等にもマッチするモノを探さなければ! っと、 私達ホステスはその日(ミーティング)を境にウロウロ、キョロキョロ。

何かと出張の多いお客にも共通の課題を与えて旅立たせ、お客もお客でやり終えた課題を早く提出し たいのか、出張帰りのその足で意気揚々と銀座に登場。即座に皆で添削。その結果、合格ラインを超え るのは、大体にして「お茶」だった。

お茶の世界が深いのは、何も「茶道」の世界だけではありません。健康食品のお店等に行けば即座に 分かることでしょう。いろんな効能を持つお茶、ザッと何十種類かには即座に巡り逢えてしまう。 「お茶禁止令」が下されないように大ママの顔を浮かべながら、目を血走らせながらセレクト。 ネーミング(聞こえ)がイイやつ、どんな味すんのカナあ、成分は、効能はあ~等とお茶の箱を手にとって 裏書きチェック。ブランデーはなあ……アッ! 紅茶、紅茶! 紅茶系。だって紅茶にブランデー落としたり するじゃん。それの逆パタよ。品いいんじゃん。一流! 一流!

こうして、自ら足を運び、目を利かせ、アタマを働かせ、お客まで働かせ、トドメはホステスお得意のトーク で、見事にお店の仕入れに漕ぎ着けたらめっけもの。

もちろん、お客命の銀座のクラブ。お客が気にいっている! となれば大ママだって大目にみてくれる。 あずき茶、あしたば茶、ウコン茶。コーヒー。紅茶いろいろ。中国茶いろいろ。前述したように、家ではコン ビニのお茶しか飲まない私も、銀座ではいろいろ試しているのであります。

〈ルール19〉 お茶はダイエットにテキメンに効く

男の手と言葉――パンツをはかないホステス、ストッキングをズリ下ろすホステス

このタイトルを目にして、ピン! とくる女性はどのくらいいるのでしょう? 悲しいカナ、ウチのホステスはか なりの確率でピン! とくる。

パンツをはかないホステス? ストッキングをズリ下ろすホステス? セクシーさを売りにしているワケではけ っしてありません。むしろその逆。

まず、ホステスにとっていちばん長く続けている体勢を想像してみてください。そう! 私達ホステスは座っ ている時間がいちばん長い。それもクラブに多いソファで、お客の真横に座るというシチュエーションがいちば ん多いのであります。

その時、どんな危険が待ち受けているかといえば、サワラレルこと。 コレは何もお客がホステスの胸やお尻を触る、というイヤらしい意味では決してなく、話が盛り上がった際 に腕をポンポンっと叩いたり、肩に手をまわしてポンポンっと叩いたり、銀座のクラブのスキンシップにはこのよ うなポンポン叩きがとっても多かったりする。お客のそのポンポン叩きがホステスのウエストや腰のあたりに来 た時、油断していたホステスはいきなり訪れるアクシデントに思わず、ギョッ!

「キャア~っ!」 雄叫びをあげる。 はた 傍から見たら、エッ! 何かイヤらしいことされたの? ってな感じで、ポンポン叩きしたお客はナンダヨ! ナンダヨ! 何が起こったんだよっ、と逆に驚いてしまう。

お客のほうが迷惑をこうむってしまうような場面が多々あるのです。 コレはホント~に申し訳ないこと。では、どーして申し訳ないのでしょう? その時、一体ホステスに何が起 こっているのでしょう? 私達ホステスは、実はあ~、ドレスの下で、ウエストにパンツやストッキングのゴムが 食い込んじゃってるんですう~。きゃあ~。

「ナンダヨ! オマエ、デブダナ!」 何、今の! 英語? まるで蝿タタキにかかった蝿のように、状況があまりよく理解出来ないままホステスは一瞬気絶。ところ が、私達ホステスは神経だけはとってもズ太いの。息も絶え絶え、ヨロヨロっとしながら、すぐ近くに座るお仲 間ホステスに「助けてくれ~っ」と手を伸ばす。

「お腹や背中の肉にパンツやストッキングのゴムが食い込んじゃわない~っ? 肉が波打っちゃって段々に なっちゃうのお。ソコ触るんだもーん」

何とか息を吹き返した二十五歳のホステス、菜々子がたまたま隣に座った私に同意を求めた。 「ワカル! ワカル~! ヤダよね、困るよねえ~」 一瞬遠くを見つめたかと思うと、「チョットさ、持ち上げてくるワ」 トイレに逃げ込む菜々子。彼女は百七十センチの長身で、目鼻立ちはクッキリ。豊満な胸を持ち、ガタ イはいいがデブには全然見えない。女優にたとえるなら浅野ゆう子か。ロングドレスが超似合う美女だ。そ んな菜々子のドレスの下がそんなコトになっていたとは……。

トイレから戻った菜々子。ニコッと私に微笑んだ。うぉ~っ、その顔は美しい。 「お腹周りの贅肉をぜーんぶストッキングの中にキッチリしまってきたワ」 うぉ~っ、正直モノ。 「とした? 菜々子」 お客が聞く。 「もお~、いきなり腰触るんだもん。ビックリしちゃうわよお~」 「ビックリしたのはコッチだよ!」 容赦ないお客。仰るとおーりっ! 信じられないモノ触っちゃって、叫ばれて、ねえ。 私、アナタ(菜々子をポンポン叩きしたお客)の隣じゃなくてヨカッタワ。

十五分経過。 銀座の夜はますます盛り上がる。話に花が咲き、大爆笑と共にまたまたお客がすっかり忘れて菜々子の 腰裏あたりをポンポン叩いた。

「ぎゃあ~っ!」 菜々子がまた叫ぶ。私、ホント~にアナタ(菜々子をポンポン叩きしたお客)の隣じゃなくてヨカッタワ。 菜々子はいそいそと再びトイレに消えてった。 「俺、またやっちゃった」 素直に反省している可愛いお客。菜々子が意外と爽やかな笑顔で戻ってきた。 「今度はズリ降ろしてきたあ~。コレでだいじょ~ぶっ」 ナント、菜々子はパンツとストッキングを腰骨以下までズリ降ろしてきたという。 ひえ~っ。ワカル~! さすがに腰骨だったら波打つホドの肉はついてないもんねっ。 座り姿勢の多いホステスは基本的に背筋をピンとするように心掛けてはいるものの、長時間となってくる と、ついつい背中を丸くしたり、ソファの背にもたれかかってしまうのだ。その拍子に動く背中からウエストライ ンに従ってストッキングのウエストゴムがズリ落ちて、中にしまわれていた贅肉が飛び出したり、はたまたクル ックルッと巻き込みを始め、お腹に食い込んで停止したり。

いずれにしろ肉は波打つことになる。 少しの波打ちも阻止するのであればパンツのゴムもないほうがイイ。 余談であるが、一般的にはブラジャーのゴムも波打ち現象を招くもの。だが、幸か不幸か胸も背中も大 っきくあいたドレスを着がちなホステスが身につけるブラジャーはヌーブラ(乳房だけを包み込み固定するシリ コン素材のブラジャー)ときているため、ブラジャーによって肉波を生んでしまうことは少ない。タダしてないか ら生まれないだけの話ダケド。

ってなワケで、私達銀座のホステスのおデブな苦労は下着にまで及んでいるのであります。コレ、放ったら かしにしておくと、立った時も波打つ体にスグになる。

お客と一緒に立つ、といったらお見送り。 お客がエレベーターや車に乗り込むまでの間こそ、気軽に腰に手を回されがち。これヤバイ! 座ってい るうちにナントカしなければ! 一念発起。まさにダイエット神経中枢を刺激する一場面デス。

キツイ一言を無責任に投げかけるお客だけれど、男性のコトバは鶴の一声。真摯に受け止めるのは身 のためというもの。だけど、そんな危険な状態にいつも身をさらしておく緊張感こそがダイエットにはいちばん 効果的なのであります。

ダイエットサプリに頼るホステス――ヴィタロッソ

一見、美しいホステスにもドレスや着物で誤魔化している隠れデブは非常に多い。衣装で誤魔化せなく ならないように、お酒を焼酎に替えたりしてはみるものの、「ナンダヨオマエ、デブダナ!」

菜々子のように触られたらおしまい。 だけど、コレはみーんな順繰りに言われている。と、同様によく言われてしまう言葉がある。 それは、「チョット、太ったんじゃないか?」だ。 言われた瞬間からドボンと暗くなってしまうので、なるべく言われないように黒い服を着たり、着物を着た り、そんなことしながら数日間で調整を試みる。

とはいえ、銀座以外のことにかけては何かと怠慢になりがちなホステスに(一般の女性もかな?)何が出 来るのだろうか。前にも述べたように、食事の調整はナカナカしにくい。と、なるとまずお手軽に取っつくのが ダイエット薬である。

ある日、二人の男性がアフターにて、大ママをはじめとする売れっ娘ホステス八名ほどを高級な和食ダイ ニングバーに連れていった時の話。

こんなにごっそりとホステスを持ち去るということはかなりの超上客。 さらに大ママも付き合う、ということはいつにも増して粗相をしないことはもちろん、言われたことには誰も 逆らえないという状態。そして私達ホステス一同、そんなことはよお~っく分かっている。ナンダカ、凄そう?

「おいっ! オマエ、今晩オレと寝ろ!」 上客は、このような悪代官みたいなことは決して言わない。 「どんどん食べなさい。全部残さず食べなさい」 まるで、お母さんのようなことを言うのだ。 逆らわなきゃいいじゃん、とお思いでしょう? ところがどっこい、料理を注文したのは全部お客なのであ る。こんなに豪華にホステスを目の前に並べてしてしまったからには、お客はお客で見栄の張り方も豪華。 その和食ダイニングバーのメニューは全部頼んでしまったようなオーダーの入れっぷり。 ホステス一同、誰も何も言わない、言えない。だって大ママが黙っているんだもん。 お金持ち(お客が)ならば残したってイイでしょ~う? 勿体ないなんて思わないでしょ~う? と私はフシ ギでならないのですが、銀座では(ドコでもそうか)そんなこと言ったらナンダカ嫌われるみたいっ。ご馳走にな るものは極力全部いただく、ありがたく、美味しそ~に、が鉄則! と、どうやら銀座法にはそう定められて いるらしい。

その時、私の隣にはドンペリをシークァーサーで割っちまった二十歳のホステス満里奈が座っていた。無言 で自分のバッグの中をまさぐっている。酔っぱらっていて、目当てのモノをナカナカ探せないらしい。二、三分 経ってやっとこさ何かを取り出した。

あ! ヴィタロッソだ。 ヴィタロッソとは前にも述べたようにカネボウ化粧品が出したラズベリーが主成分のダイエットサポート食品 である。カネボウが、脂肪を分解する効果があることで知られる唐辛子の辛味成分「カプサイシン」に着目 し研究してたら、ラズベリーの香り成分であるラズベリーケトンにはその作用がカプサイシンの約三倍もあるこ

とを発見し、二〇〇二年に日本薬学会にて発表。すぐさま商品化。一時世間を

賑わしたので、私もその にぎ

存在は知っていた。

「ねえ、ソレ効くの?」 こっそり満里奈に聞く私。 「う~ん。気休めだね」 と言いながら、喫茶店によくある砂糖のようなスティックに入った顆粒のヴィタロッソを口元に運び、思いっ きり顔を天井に向けながら一気に飲み干す満里奈。エッ、お客の前でそんな豪快な飲みっぷりして平気 かよお。思わずお客の顔をチラリと見る私。どうやら気づかれなかったみたい……。

一瞬ヒヤッとした気分を取り直して、やっぱ、そーか。そのテのやつは、さんざん試してきたことがあるからナ カナカ信用出来ないんだよね、私。だけど、とってもスレンダーな満里奈がこんなモノに頼っていると は……。

二十歳という年齢だけあって正真正銘、ドレスの下にも肉はなさそうな。だけど、ココ最近チョットだけふっ くらしたカナ……? ご馳走がジャンジャン運びこまれてきた。 アッという間に、テーブルに乗り切らないほどの料理が並ぶ。 私に向かって満里奈はヒソヒソ話を続ける。 「実はさ、私、銀座に来て三ヵ月半で七キロも太ったんだあ」 ゲエーっゴホゴホッ。あまりの驚きに、口に入れたお刺身がノドに詰まった。 「マ、マジっ!?」 「そうだよお。だってこんなコト毎晩やってんだもん。太るに決まってんじゃん」 「そ、そうだよねえ」 返すのがやっとの私。 「どんどん食べなさい」

そこでお客がのたまう。 「はいよ。はいよ。わかってるヨ」 心の中でお返事するホステス達。 「やだっ。やだっ。絶対にヤダッ」 心の中で叫ぶ満里奈と私。 その瞬間、ナントまた満里奈がバッグからヴィタロッソを取り出した。またまた豪快に一気飲み。お客に気 づかれるよお。満里奈はど~やらそれどころじゃないらしい。私もそれどころじゃなくなってきたっ。オイ、チョッ トそれ私にもおくれヨ。私の気も休めておくれ~っ。

その後、そのアフターの食事中に満里奈はヴィタロッソをもう二本飲んだ。もちろん、食事もキッチリ食べ た。

明くる日、その時いたメンバーのホステス達は私を含め全員同じ発言をした。 「昨日、まいったねーっ。食べろ食べろ言うんだもん。もうヤケになって、食べてやるう~って、全部食べちゃ ったわよお。やっばい」

二ヵ月後、そんなホステスの中でナント、満里奈だけが痩せた。元の体重を取り戻したという。 以前にも増して痩せたような……。 「なるべく食べないようにはしたけどね。だけどやっぱヴィタロッソだね。効くよアレ」 かといって、今、ウチの店でヴィタロッソが大流行しているワケではない。満里奈のあの時の飲みっぷりとき たら、「カネがいくらあっても足りなさそうだ」という話に、実はかなりケチな私達ホステスはとりあえずのところ オチをつけたのである。

だけど、日毎にデブりゆく現実に、やっぱ、やってみようかなあーと、私達ホステスの心はユラユラ。いつも 揺れ動いているのであります。

 

ビューティフル・デイズ

出す1下剤

食べたくないのに食べなきゃならない状況におかれて食べちゃった、太るから食べてはいけないと思いつつ お腹が空いている時にご馳走を目にしたら結構な量を食べちゃった、全部食べろと言われてヤケクソになり 食べちゃった、美味しいからついつい勿体なくてお腹が苦しくなるまで食べちゃった、食べたいから食べちゃっ た、等々。

では、いずれにしろ〝食べちゃった〟場合どうすればいいのか? 「出しちゃえばいいじゃん」 二十歳のホステス満里奈がポツリ言った。 「そおだよね」 私は答えた。だけど、やっぱり言ったか、銀座のホステスも。 食べた物を単純に出す、はイコール下剤を服用して、とにかくウンチを出しまくる、ということ。食べた物を 出してしまうのだから、ハッキリ言ってコレは効果絶大。是非お試しください。

試してみれば分かります。ハイ、コレでダイエットは成功です。おしまい。 とは、いきません。確かに下剤を飲めば、食べてしまった翌日の体重は増えないどころか減ることだって珍 しくない。ダケド、そこで問題は生じます。気がつくと下剤とは切っても切れない深~い縁を築いてしまう。 そして頻繁に飲んでいると、下剤を飲まなきゃウンチが出ないっナンテことになり、しまいには下剤を飲ん でもウンチの出が悪いっナンテ事態に行き着く、お~っ、大丈夫かよお~っ、となるワケです。

でもチョット待てヨ。 そもそも下剤とは便秘が伴う症状(頭重、のぼせ、肌荒れ、吹き出物、食欲不振、腹部膨満、腸内異 常発酵、痔)の緩和のために服用するものであり、単なる自発的な食べすぎによる体重増加を緩和する ものではなかったハズ。食べすぎが日常化している私達ホステスが毎日のように飲んでいいのかと聞けば、 医者じゃなくても薬局に働くオジサン、オバサンの段階で、「ダメです。ダメです。超危険! 取り返しのつか ないことになりますからスグにお止めくださいっ」

と確実に恐怖に顔を強張らせながら答えてくれます。 実際に私は友達に付き合って薬局で聞き、一緒に顔を強張らせたことが何度もあった。そして怖くなっ てしばらく止めたことも確かにあった。だけど、女って本来便秘症。ウンチが出ないと体重は露骨に増える。 その上、食べれば体重はもっと増える。私はやっぱり顔を強張らせながら、真夜中なのに下剤を買いに走 ったこともあったっけなあ~。

私の下剤愛用歴はナント十五年。飲み始めたきっかけはもちろんダイエット。遡ればとってもカワイイ中学 生になります。ま、マジっ!? 私の世代では(今もそうだと思いますが)、ダイエットは中学時代から関心が持 たれていた。三食をバッチリ食べて、休み時間にお菓子を広げてぺラぺラおしゃべり。放課後にはファースト フードやコンビニに寄ってハンバーガーやフライトポテト、スナック菓子やジュースをいっぱい買って、誰かのお 家に皆で押しかけファミコン等々。

運動量にアッサリと打ち勝てるカロリーを摂取して、「イヤ~ン、体重が増えたあ~」 高校生になれば、俄然オトコを意識する年代に突入。初めてエッチを経験するのもこの頃。じゃなくて も、学校内にはタレントやモデルを目指したりするコがいたりして、ファッションにも興味が傾くお年頃。乙女 の関心は一気にダイエットヘと向けられるのであります。

花の女子高生達はあらゆるダイエット法を試みて、効いた、効かないの情報交換。ある日突然、誰かの 囁きによってダイエットの傍らに顔を出したのが「下剤」。そして、飲んで出すだけ~のお手軽さに頼りだした ら最後。チョット食べすぎてしまったなあ~と思った日には必ず下剤。そのうち、別に食べすぎてはいないん ダケドどうせなら出しちゃおうっと毎晩下剤。

就寝前の洗顔、歯磨き、最後に一日の食べたものをすべて排出してやろうってな気持ちで下剤をゴクリ と飲んで、「コレでやっと寝られるよ~」

布団に入る。

もし布団に入って、ウトウトしだした頃に下剤を飲んでないことに気づいたら、オーッとイケナイ! まるで

出掛け際に財布や携帯電話を忘れたかのように、ハッと目が開き、布団をバサーッと払い除け、洗面台にズカズカと早足で(ナンデそんなに急ぐのかは分からない)向かい、下剤を飲む。

こうして、いつしか絶対忘れてはならないマストアイテムになってしまっていた、というワケです。 だから、二十歳のホステス満里奈の、「出しちゃえばいいじゃん」に、「そおだよね」 と仮に答えたとしても、私の心は、「そんなこと十五年くらい前からやってるのヨ私。で、その上で太ってん のっ」ってな感じであったのではあります。

が、しかし、下剤なくしては今日の体重でさえ維持してはいられなかったとも言える。そして今日も飲まな ければ明日の体重は保証出来ない、とも思っている。そう、何を隠そう私はいまだに下剤愛用者。そして お恥ずかしながらコレは当分続けられることでありましょう。

では、何故下剤を飲み続けてはイケナイのか。薬局のオジサン、オバサンは何故そんなに恐ろしがるので しょう?

「下剤がなくてはウンチが出なくなるからです」 「内臓にそれだけの刺激を与え続けるとビョーキになります」 と、大まかにはそういうことです。 私も表立っては下剤は決しておススメしません。ハズカシイからそんなモノ飲んだことないって顔して暮らし ています。まして、男の前なんかじゃ決して決して言いません、今までも、これからも。ダケドお、ホントはワタ シ、下剤ダイスキナンデス。下剤のトリコナンデス。下剤なくしては生きていけません、今までも、これからも (心の叫び)。

こういう人、イッパイいますヨ。 ちょっと腹を割ってダイエット話すると飲んでいないダイエッターはいないくらい。女優、モデル、レースクィー ン、ホステス等のデブ命取り系の職に就く者はもちろん、OLから小洒落た小マダムまでとその層は幅広く、 頑なにデブを拒む人はかなりの確率でやっている。そしてついついやり続けてしまう。それはやっぱり、その驚 異的な効き目に魅了されてしまうからなのです。

では一体どうしてゆくのがイイでしょう。今、「下剤かあ~。下剤ねえ~」と余計なヒントを 得てしまったソコのアナタ。丁度「下剤を試そっかなあ~」と思っていた、まだ下剤に手を染めていないソコ のアナタ。

「下剤って効くわね」とすでにその効果に酔いしれているソコのアナタ。「もう下剤は手離せない」と意思を 固めたソコのアナタ。「いつまで飲み続けるのだろう。下剤、ヤメタイ」と、既にかなりやってしまっていて恐怖 におののいているソコのアナタ。

そう、ダイエットにおいては下剤愛用者にもレベルがある。 私はそのキャリア上、前に述べた様々な心情をくぐり抜け、下剤にまつわる様々な悩みと戦い、私なりの 最善を尽くしてきた今日、おこがましくも上級者を名乗るコトをお許しください。そしてやっぱり上級者の私 も、「私はいつまで飲み続けるのだろうか。下剤、ヤメタイ」と思っている。

だけどやっぱり「下剤がなくては生きていけない」とも思っている。 で、下剤を上手いこと使いこなして心と体の拠り所にしてしまおう、と下剤の攻略に燃えていたら、下剤 と手を切る方法にまで行き着いた。そして、イザとなったらあのテがある、からと安心して? 下剤に甘ん じ、身を委ねている今日この頃なのデス。

それでは、皆さんが安心して下剤とうま~く付き合っていけるように、人間の体のしくみと下剤の作用、ダ イエットにおける下剤の取り入れ方を初級、中級、上級に分けてご説明いたしましょう。そして切り札の下 剤とテを切る方法を最後にお教えいたします。

まず、食べたモノは胃でドロドロにされ、その栄養分はあらかた小腸で吸収されますが、食物繊維や果 物の皮や種等の残りカスはそのまま残る。この食ベカスがウンチの素。コレらは盲腸に送られ、大腸部に当 たる上行結腸→横行結腸→下行結腸→S字結腸→直腸を通過して肛門にて排泄というルートを辿り、その間に水分が吸収されつくして、その量は約四分の一の体積になるのです。

ところが、そこに大腸菌の細菌が加わってウンチの量は再び増加。ウンチの三分の二は食べカスだけど、 三分の一は腸内細菌の塊といった比率でちょっとした重量になる。立派に育ったウンチはS字結腸、直腸 部分に溜まり、ゴハンを食べる等の刺激によって結腸反射なるアクションを起こし便通がもよおされる、と、 まあ、まず、コレが正常なウンチの出し方です。

では、そこで下剤を飲むとどうなるのか。 市販されている下剤の多くは大黄、センナ、アロエ等のアントラキノン系が主流の成分で作られており、 その成分が大腸を大いに刺激。食ベカスであるウンチを一気に、強引に、ぜ~んぶ出しちゃうのです。自 然の力に任せておけばココまでは出ない。体は俄然軽くなる。コレが二十歳のホステス満里奈が言う、「出 しちゃえばいいじゃん」

と、いうことになるのです。 では本来、便秘がちな女性が食ベカスをそのまま体に溜めておくとどうなるのでしょう。ガンになりやすいと 呼び声の高いS字結腸は老廃物に侵されっ放し。ガン等の病気にかかることが危惧されるワケです。コレ はもう、体重が増えちゃって~なんてレベルの問題ではありません。

そのためにも下剤は存在し、堂々と薬局薬店で売られているワケで、それを私達はダイエットに利用して いるんだ! ということをまずアタマの片隅に入れておきましょう。

だから、便秘に悩む女性がウンチの出が悪くて体重が増えちゃったあ~、とかチョット食べすぎちゃったか らこの際下剤で一気に腸をお掃除しようっという調子で下剤をたまに飲むなんてゆ~のは全然OK。逆に したほうがいいのかもしれない。これが初級です。

中級になると、そのウンチの出のよさに魅了され、頻繁に下剤を服用するようになります。先にも述べた ようにアッという間に毎日飲んでるってなことにはスグになりかねない。大変長らくお待たせいたしました。ここ からが下剤の問題の始まりです。

下剤を長期間常用するとどうなるか。 激しい刺激に慣らされた大腸は、もはや自力で結腸反射を起こすことを忘れてしまって、自然にはもよ おすことが出来なくなってしまう。つまり、一生、下剤を飲み続けないとウンチが出ない体になってしまうか も、なのです。

さらにウンチを出す時って結構、踏ん張ったりしてますよね? 下剤が作用した時って、あ! キタキタキ タ~っ。早くしないとウンチ出ちゃう! ダダダダダーッ。トイレに駆け込んだりしちゃうんです。

そこに踏ん張りなんつーものは皆無。ドドドドドーッと出てしまう。 効きすぎた時なんて、えっ? 肛門からオシッコ? なんて思うほどに下痢みたいにウンチがピーピー と……ってウンチ話はコレくらいにしといて、何が言いたいかというと、本来ウンチは多かれ少なかれ踏ん張 って出すため、その時筋肉を使っているハズなのです。下剤によって出す場合、その筋肉は使われる間も なく、ウンチは出てしまう。要は、ウンチを出す筋肉は衰える一方。

こうして、下剤を飲まないと糞ともスンとも言わない強靭な体は作られていくワケです。ビビっていただけた ウンでしょうか? ダケド、ナント、コレはまだ中級。そして、私は恐ろしくも上級者を名乗る者です。

上級はハッキリ言って自分でウンチを出すことを諦めています。そして、おデブになるくらいなら死んでやる っ、と肝も据わっているのです。

だけど、中級から上級へは肝を据わらせたくらいではなれません。 恐ろしいことに、体がすっかり慣れて、切り札の下剤がとうとうついに効かなくなってしまって困ったあ~、だ けど、ホントにイイか分かんないケド、とりあえず解決策を見つけたぜぃっ。

コレが上級です。 下剤が効かない。この末恐ろしい事態は肝が据わった上級者のみが受け止められる現実。そして、かな りヤバイとこまで来てしまったなあ~、あの薬局のオジサン、オバサンど~してっかなあ~、こんな私見たらオ イオイ泣くんだろうかあ~、泣かせちゃいけないから、もう会えないねえ~、と引き返すことの出来ない過ぎた日をふと懐かしんでみたりする。

だけど、上級者には〝下剤を愛してきた意地〟というものがあるのです。 死ぬなら下剤で死にたいぜっとばかりに下剤と添い遂げようと、睡眠薬を多量に飲むかのように、下剤を 多量に飲んでしまう。一錠が二錠、二錠が三錠、三錠が四錠、四錠が五錠、五錠が六錠、アレ! 死 ねねえじゃねーかっ。ならば生きなきゃ。ダ、誰か止めてくれえ~っ。

来るところまで来てしまった上級者は考えるのです。そして、新たな手段を見つけ出す。その手段とは、 常用していた下剤とは別の下剤に移行してみるというもの。

一言に下剤と言ってもその種類は豊富。成分は類似しているものの微妙に配合が違ったり、新成分が プラスされていたり。新たな下剤は新鮮に体に反応。幸運にも、下剤の量が減らせた、ラッキー! なんて コトも。

だけど、コレに甘んじてはなりません。一度上手くいったからといって、コレ(新たな下剤に切り替える)を 繰り返してはイケナイ。下剤の種類にも限りはある。たとえ下剤と縁が切れなくて、円を描くようにグルグル してしまうにしても、どうせ描くなら大きく。本来の体のしくみをちょこっと省みて、再びビビる日を遠ざけてゆ く。それが出来てこそ上級者。いや、上級も卒業間近のようですから、そろそろ殿堂入りの準備をしてはい かがでしょうか。

ここからは下剤の種類を切り替えることによって再びウンチの出がよくなった方、または初級からどんどん 下剤レベルがアップしていることを自覚している方、下剤にはいまだ頼ってないけど便秘症の方、ウンチをす る方ならばどなたにでも当てはまるお話です。

自力でド~ンとウンチを出すことを目標に、今一度、本来の腸の働きを活性化させるように便秘の謎を 紐解いてみましょう。

大腸に溜まったウンチはある程度の大きさに成長したら、ゴハンを食べたりすることによって結腸反射が 起こり排出されます。ということは、ウンチは小さいままでは大腸に停滞してしまいがち。はたまた現代人は その多忙さゆえ、生活のあらゆる場面でトイレをガマンすることを強いられ、すると、もよおし感が鈍感にな り気がついたら溜め込んでしまっている、コレが便秘という症状なのです。

では、快便をするにはどうすればいいのか。

なるべくガマンしない、ウンチを出すタイミングを逸さないようにするのは絶対。

それでは、ウンチを立派に育てるには? ココで、お通じをよくするとすでに有名な「食物繊維」の登場です。 「食物繊維」とは消化されない、されにくい食物中の成分の総体であり、水溶性(果物のペクチン、もず くや寒天等の海草類、コンニャクのマンナン等)と不溶性(セルロースやヘミセルロースで野菜の葉や茎、イ モ、豆、穀類、果物の皮等にいっぱい含まれる)に分けられます。

この二種類の食物繊維はスポンジのように水分を吸収して保持し、不要な物質を吸着しながら数十倍にも膨らむ。ウンチ成長の功労者なワケで、コレが食物繊維がお通じにいいとされる所以なのです。

そこに腸内の滑りをよくするオリーブオイル、腸内細菌のエサとなるオリゴ糖、硬度の高いミネラルウォータ ー等の飲食を心掛ける、とまあ、ザッとこれが自力で快便をするためのマニュアル。

かといって、下剤に慣れきった上級者がスパっと下剤とおサラバしてマニュアルどおりにいくかというと、そう はいかないのが現実。

「ウンチまったく顔出さないよお~。まいったな、こりゃ」 コレは、今までさんざんお世話になっておきながら冷たく身を翻してしまった下剤のタタリみたいなもので す。男が付き合った女をバッサリ捨てると(逆の場合もある)ミョ~に厄介になったりするのと同様、そうと決 まったら一刻も早く逃げ出したいぜっ、サッサと水に流しちまお~ぜっ、と本音はそんなトコでしょうが、そんな 手荒なマネはしないでください。

下剤も女(男)も「ワタシ(オレ)がいなけりゃダメなんだから」と戻ってこさせよう、そして捨てた男(女)は 「やっぱ戻っちゃおうかな」と、コレじゃ元のモクアミ。ここは一つ冷静に、大人になってください。逆撫でしないように徐々に徐々に離れてゆく〝ゆとり〟ある行動こそが上手~くテを切る最良策。

ところで、たとえば、捨てられるのが女とするならば別れ際に何を求めるのでしょう。もはや、悲しいけど男 の愛情はナイとして。チョット怨み心が芽生えてたりもして。

「やっぱおカネでしょう~」 キタキタキタ~っ。コエーッ! ご安心ください。相手は下剤デス。ウンチです。冥土の土産に食物繊維を た~っぷり与えてやってください。オリーブオイルやミネラルウォーターも出ましたが、ここで露骨におカネのよう な簡単明瞭な物質は「寒天」がおススメです。何故、おススメなのかと言うと、手がかからないからデス。チ ャチャッと料理してパパッと食べられて効果的。

超低カロリーでナカナカ美味しい寒天メニュー、結構あります。 アッ! チョット待った。だけど、おカネの場合そんなにまとまった金額、一気には払えないですよねえ。お 付き合いしてしまった年月の分だけお高くつきますしい、知ったこっちゃないケド、次の女にもまたおカネかか ることでしょうしねえ。

実は、分割やってるんですヨ。話がついたからってキッチリ払い終えてもらうマデは、無縁とはいきません ヨ。そんな感じで寒天も一気にそんなに懐には入らないんですヨ。その間はやっぱり下剤とも無縁とはいき ません。そうそう、ドンドン与え続けて、ドンドン疎遠にしていってください。努力が実って、きっと無縁になれ る日を夢見ながら。

そんなの身が持たナイ、やってらんねえ! と思っているソコのアナタ。努力の日々に痺れを切らしたソコ しびのアナタ。別れるヤツには何もやらねえ~と逃げるコトだけを考える情のかけらもないソコのアナタ。ご安心く ださい。実はワタシも努力苦手デス。手荒な奥のテ、ご用意しました。

腸内洗浄。腸内洗浄とはお尻の穴に管を通して、ぬるま湯を腸内に注ぎ込み、ザ~ッと腸を洗浄して しまうという方法です。腸内にこびりついた垢やカス(ウンチも)が一掃されるのはもちろん、本来の腸の働き を一気に取り戻せるというからビックリ。長年の下剤との腐れ縁も記憶の彼方にしてしまうというんだからオッ カナビックリ。故ダイアナ元妃やスーパーモデル、ハリウッド女優、皆がやっていて今、日本でもメジャーになっ てきました。だけど、やっぱり奥のテだけあって、お尻の穴から腸にぬるま湯をジュワジュワ注ぎ込まれるの は、かなりの不快感。

最後の手段と覚悟を決めて、

みそぎ 禊のつもりで試みてください。 ソレと同じく、もひとつ奥のテ。それはやっぱり病院です。体が正常に機能しない、それはやっぱビョーキな んです。医者は結腸反射を起こし、もよおす感覚を取り戻すいい薬を持っている。

専門医に永年の下剤との付き合いを赤裸々に告りましょう。かなりハズカシイ、勇気ある行動とは思いま すが、ココは一つ、懺悔の気持ちで。

ふう~っ。殿堂入りの準備が完了しました。 下剤と歩む人生、お分かりいただけたでしょうか? すべてを知り尽くしていただけたら後はご自由に。ど のレベルでどのようにダイエットに取り入れていくかはアナタ次第。と、言いながら、腸内洗浄のクリニックをネ ット検索し、目を血走らせている今日この頃の私なのデス。と、今宵も下剤をゴクリと飲んでから床に就く 私は相も変らず(下剤)上級者を名乗る者です。

出す2吐く

二十三歳のホステス、桜子がポツリ言った。 「食べすぎたと思ったら、出しちゃえばいいじゃん」 ん? また下剤かよっ。 「私、しょっちゅう吐いてるヨ」 へっ!? 小顔で華奢な桜子はもともと細く、顔立ちは女優の三田佳子。

もっとも桜子は二十三歳だから、若い頃の三田佳子、と言われていたのはいつのことだったか。 ナント私も恐れるホドの超大酒呑みときていて、毎晩のように泥酔。酔っぱらうと顔の筋肉が全く緩み、 その顔立ちは中村玉緒に変貌すると一人のお客がある日突然言って以来、シラフでも中村玉緒が定 着。店を変えなければ三田佳子にたとえられる日は二度と訪れないような……。ケド、そんなことを言わ れても明るく笑いながら酔っぱらう天真爛漫さが、お客からも大ママからもお仲間ホステスからも愛されてい るマスコット的存在。

「は、吐いてるの?」 「うん、そうだよ。だってそうしないと太っちゃうもん」 とっても可愛い桜子は皆の人気者にもかかわらず、色気に乏しいことから同伴のお誘いは少ないが、キャ ピキャピと元気なキャラなので、パアーッと騒ごうぜっ系のアフターにはよく誘われる。

だから、出勤前の豪華ディナーは幸か不幸か免れるため、ずっと華奢でスレンダーな体型を保ち続けていた。が、長年の超上客がココ最近、桜子を

贔屓にし始めたことで、桜子は戦略を練り始めた。

その超上客は大ママとも超仲良しで、お店のすべてを把握していたいらしく、新人のホステスが入ると興 味津々席に呼び寄せ、面接をするかのように根掘り葉掘りチェック。そして、大ママに「あのコはねえ~」と 得意げに報告するのだ。実際大ママもかなり参考にしているらしい。なかなかイイ子だ、となると、ずっと贔 屓にしてくれることを約束するかのように○○ファミリー(○○にはそのお客の名前が入る)の屋号をいただく。

私も入ってすぐにファミリーに加えてもらえた。以来、「パパあ~」(ファミリーのホステスは皆こう呼ぶのが決 まり)と懐きながら、まだ右も左も分からない新人時代を過ごしたっけ。

ファミリーは現在五名。 桜子以外のホステスは同伴、指名共に多くなり、いつもパパに引っついているワケにはいかない状態にま で成長。ところが、桜子はそうでもナイことから同伴からアフターまで今もずうっとパパと行動を共にしている のである。

アフターのツラサは先にも述べたが、星の数ホドあるアフターの中でもパパのアフターはいちばん過酷。とに かく時間が長く、とっても豊酒豊食。

「昨日なんて、六時からアムルーズ(人気の高級ワインレストラン)で食事して、アフターでヨボセヨクラブ (ヨボセヨとは韓国語で〝もしもし〟の意味。韓国クラブを意味している)、その後水曜日の朝(女優の内 田有紀のパパが経営する六本木のカラオケラウンジ)に行って、朝の七時すぎになったんだよお。パパと十 三時間以上一緒にいたんだよお~」

「じゅ、十三時間!? ひえ~っ」 聞いて驚いてしまうが、私も前に何度かやったことがある。 ヨボセヨクラブはビジネスグラス(ショットグラス)でウイスキー等のお酒をストレートでヒョイヒョイと飲んで一気 にボトルを空けさせるという飲み方がお得意。私達銀座のホステスも連れていかれるとビジネスグラスに酒 を注がれてしまい、「コンベ~(かんぱ~い)」

一気を強いられる。一気せずにはいられない雰囲気で、エイヤッと一気。 「チョアヨー。(イイね!)」 アレ!? 褒められたのも束の間、う、うそっ! 飲み干したハズのビジネスグラスが満タン!? 再び、三度、「コンベ~」 ってな調子で、「ニューボトル、チュセヨ(ください)」と黒服に向かってヨボセヨのホステスはのたまう。 尋常じゃなく飲まされるのと、またまた尋常じゃない摂取カロリーで、とにかくたまらないっつー感じなのだ。 夜はまだ終わらない。 六本木にある水曜日の朝へと向かう。この店は、その昔銀座にあったことから、銀座のホステスの間では 有名。カラオケラウンジにもかかわらず、イイお客や高級クラブのママやホステスがアフターで使うため、中国 飯店のシェフを深夜のバイトで雇い、深夜でも豪華な中華料理を紹興酒と共にジャンスカジャンスカ出し てくれ、しかもとっても美味しいときている、誠にありがた迷惑な店なのだ。

パパのお開きは朝の七時、八時当たり前。 最後は担々麺のミニサイズで締めくくられる。一人一個。頼んでもいないのに必ず出てくるのだが、朝方 は疲労も困憑。前もってキャンセルしておくことをついつい忘れてしまって、出てきてから、アチャ~っと気が つく。ミニサイズって、朝の七時、八時でっせ。下剤も飲めずに翌朝になっちゃったじゃんかあ。私はこんな感 じでパパと一日付き合うと次の日軽く一・五キロは体重が増えた。

ある程度、お客を持つようになった現在、パパのアフターは極力遠慮するように心掛けている。 しかし、ホステスには同伴やお客確保のノルマが課せられているため、ワガママを聞いてくれるパパはやっ ぱりとっても大切な存在。桜子の場合はなおさらのこと。パパに言われるがまま付き合っていたら、細身の 桜子もとうとう太りだしたというワケだ。それは毎日顔を合わせている私から見てもワカルほどで、いろいろな お客が桜子の二の腕をプヨプヨ掴み、「きゃあ、きゃあ」

からかわれるまでに成長を遂げている。 明るく笑ってかわしているものの、桜子は真剣に悩みだしていた。 「そんなに吐ける?」 「慣れだよ、慣れ」 「私、吐けない性質なんだよねえ」 そう、私はどんなに痩せたくたって〝吐く〟という行為だけは出来ずに今日まできた。 「ハンパに食べたり、飲んだりするからダヨ」 「ハ、ハンパ?」 「そう! まずヨボセヨですごい飲まされるじゃん? ならば気持ちが悪くなるくらいまで、ハンパじゃないくら い飲む」

「そ、それでえ?」 おののきながら聞く私。 「ヨボセヨのトイレで吐く」 ゲゲエーっ! 桜子っ、あ、アンタってコは! 「す、スゴイね、ソレ。でもツラクないの?」 「最初ツラかったけど、慣れダヨ、慣れ。太るほうがツライ」 うん。激しく同意。 「でえ~」 マ、まだあんの? 「水曜日(水曜日の朝)で、気持ち悪くなるくらい、ハンパなく食べる。紹興酒もガンガ ン飲むでえ~」

ワカッタ! ワカッタ! 桜子と声を揃えて、「水曜日のトイレで吐く」 当ったり~! って、ゲゲゲゲゲエーっ! 桜子お、あ、アンタってコはあ……。 「だけどね、私前から吐いてんだあ……」 「へっ? そうなの? 痩せてた時代から?」 「そうそう。お水を一リットルくらい一気飲みするのお。すると一瞬気持ち悪くなって、勢いで全部吐き出し ちゃう。今も、ソレやらなかったらもっと太ってると思うヨ。だけどね、胃液みたいなのが一緒に出ちゃうのカ ナ。肌が荒れちゃってあんまりやっちゃいけないカナって」

そうだね。そうだよ。私は桜子みたいに故意に吐いたことはないケド、確かに飲みすぎて気持ち悪くなった り、軽く食あたりなんかになったりしてゲロンパしちゃうと次の日体重激減してて、気持ち悪いながらもソレだ けは結構嬉しかったりするんだよねっ。だけど、胃液のようなモノが出ている感覚ワカル! 胃が荒れる~っ て感じするヨ。しかも桜子の場合、しょっちゅうじゃ肌に悪いかもねえ。

だけど、桜子は今後も吐き続けるらしい。痩せてた頃もソレで体型を維持してきたというのだから今後は もっと吐き出すのだろうか。

ウ~ン。三田佳子→中村玉緒? 可愛い桜子はドンナ顔してトイレでやってんのカナ。

華やかな銀座を離れた時に襲ってくる孤独感

ある日のアフターは午前三時ラストオーダーという西麻布のふぐ屋。銀座の帝王と呼ばれる不動産会社 の社長に二十二歳のホステス美希と私は連れられる。小柄なのにGカップの巨乳持ち。

愛くるしい顔立ちの美希は夜の帝王の本命。 閻魔大王のような風貌の帝王は、「二人きりになると緊張しちゃうから、れみちゃんも来て」 オイオイ、似合わないコト言うなよお。ダケド、か、可愛いなあ。そのギャップ気に入った! 「あい」 深夜二時にもかかわらず、ふぐのフルコースにとっかかるハメに陥る。 お疲れ気味の深夜。私達ホステスの傲慢ぶりが顔を出す。帝王がトイレに立った時の美希と私の会話 ときたら、「この冬、何回ふぐ食べたあ」

美希が私に聞く。 「この時期はふぐ多いよねえ。もう飽きたよね」 「チョット、このコース何品出てくんの」 「メニュー、メニュー、そこのメニュー取って」 美希の向こう側に置いてあるメニューを二人でチェック。 「ヒエーッ!」 お通し、てっさ。唐揚げ、白子焼き、ふぐ焼き、ふぐちり(雑炊付き)、香の物、サラダ、水菓子。コレ、品 数もスゴイけど、時間もスゴそう。一気に不機嫌になる美希と私。

だが、この時、何も言わずとも、私達の心は一つに結ばれていたのだった。 帝王が席に戻り、深夜のふぐコースが始まった。 ふぐって不思議。何度も食べて飽きた感があっても、てっさなんかはあっさりしてるから食べられちゃう。 五、六枚ずつヒョイッとすくって、ポン酢にポチャンとつけて口に入れるとアレヨアレヨという間にスルリと喉を通 る。一丁上がりっ。

「お鍋を美味しく食べたいから、唐揚げとふぐ焼き、お家に持って帰って、明日の楽しみにしたいなあ」 お土産を許してもらう。私のお手柄。一気に二丁上がりっ。 「白子焼きは最後の雑炊に乗っけて食べたいっ! (帝王に向かって)やったことありませんかあ。スゴク 美味しいから試してみてくださいよお(ホントに美味い)」

白子焼きをふぐちりの雑炊に合わせて出すようにお店の人に指示する美希。ハイ、お手柄。もう一丁上 がりっ。

フルコースをものスゴイ勢いでハショる美希と私。 「聞いて、聞いて。今日ねえ~」 楽しそうにキャピキャピ、キャッキャッ。ハショッた感を紛らわす。 一気にふぐちりに突入。ふぐってやっぱり美味しい食べ物。ココではマジで食べだす私達。肉厚のふぐがゴ ロゴロ、プカプカと鍋に浮かぶ。三人なのに五人前くらいあるように見える。ココまできたら、タップリのふぐから 出たダシで作られる雑炊は是非とも食べたい。だって、お鍋の後の雑炊って、鍋の集大成みたいなもの。 ジックリ鍋に付き合った者だけが味わえるからして、お腹がいっぱいでも、こんな深夜でも〝食べなきゃ 損〟みたいな心境で、「じゃ、一口だけえ」 と言いながら、茶碗の半分以上盛る。 「おかわりしちゃおっ」 今度はタップリ一膳盛る。時折、お漬物に箸を向けながら雑炊を食べ続ける私。 「あ~大変。美希美希い~(私は美希をこう呼んでいる)美味しくて止まらないよお」 半ベソをかく私。 「れみれみ(美希は私をこう呼ぶ)、泣きながら食べないでよお。私もおかわりしちゃう~」 白子焼きを割り、トロリと崩しながら無言で二膳くらい食べる。食った、食った。 帝王が再びトイレヘ。

「食べちゃったねえ。ヤバイねえ」 独り言のように呟く私。 「あ~ん。結構やったね」 「ねえ。美希美希は何かやってんの? 私、太って困るヨ」 「私ね、家に帰ってから半身浴してる」 「半身浴? お風呂に下半身つけてジッとするアレ」 「そうそう。二十分くらいでスゴイ汗出るよ」 「冷や汗ならいつもかいてるケド。だけど、今何時だと思ってるの? 四時近いヨ。家に帰ってから寝ない でそんなことやるの? じゃ、今日もやるっつーの」

「やる」 「…………」 私にはデキナイ。話にならん。聞いてるだけでツライ。 「れみれみい、じゃ、さっ。イイトコ連れていってあげるよ」 「どこ?」 「赤坂のティアラ」 「何ソコ」 「今から行こっ」 「今から!?」 帝王が戻ってきた。話中断。水菓子を無視してお茶をススル私達。 「美味しかったですう。ご馳走様でしたあ」 タクシー代をもらって素早く退散。 私の腕を掴みながらタクシーに乗り込む美希。 「赤坂の一ツ木通り。TBS会館の近くまでお願いします」 「ねえ。美希美希。どこ行くの?」 「だからティアラ。サウナだよ」 「サ、サウナあ? 私苦手ダヨ」 「ティアラは大丈夫ダヨ。低温サウナだから。汗出せば痩せるよ。それに露天風呂もあって、超快適だヨ」 赤坂のど真ん中に露天風呂? サウナ駄目だけど温泉好きの私。疲れているけど、露天風呂なら癒さ れるかもっ。どんなとこだか行ってみるか。

ティアラは赤坂の一ツ木通り、TBS会館を青山方面に向かってビル三、四軒隣に位置するタイル貼り の白いビルがそれ。女性専用の宿泊施設付きサウナで韓国式、男性専用も隣接して存在する。曇りガ ラスの自動ドアの入り口を入り、フロントヘ向かう美希。キョロキョロしながらついて行く私。謳い文句にもな っている〝安心、清潔、気分爽快の充実した設備完備〟はまさにそのとおりといった感じ。

普段ズボラな私は、こういう場所に来るといきなり天下一品の潔癖性と化す。 たとえば脱衣室等に髪の毛でも落ちていたらすぐさま爪先立ちになり、すべてが不潔なんじゃないかと疑 いながら、目を皿のようにしてチェックを入れだす私なのだが、どうやらココは完璧そう。しかも二十四時間 営業ときている。イイトコ見つけたかもっ。

「二人」 浴衣とタオルを手渡される。 設備は大まかに分けて、サウナ、風呂、休憩室、宿泊(カプセル)ルーム、レストラン(韓国家庭料理)と なっているがサウナは三種類。

まず高温サウナは九十五度。十七度の水風呂が併設されており、交互に入りながら汗を流すというベ ーシックな方式で、コレが私の苦手ないわゆる普通のサウナだ。無視無視。次、次。

お次は麦飯石サウナ。韓国より直輸入した麦飯石をサウナルーム全体に使用している。高温で素早く 発汗を促すらしく、血行障害、消臭効果等の効能があるのだそう。素早いとはいえ、高温サウナの息苦しさに耐えることに変わりはナイ。ダメダメ。私、苦手。次、次。

三つ目。美希が言っていた、私にも平気そうな低温サウナに辿り着く。今、韓国で大ブームのゲルマニウ ムオンドル(ゲルマニウム保温室)だ。約五十度に保たれた室内でジワジワっと汗を出し続けるというスタイ ルはサウナというよりは温室みたいな感じ。床にコロリと寝転びながら読書するのもよし、寝ててもよし。

「私、いつもコレ。サウナ駄目なれみれみもコレなら平気でしょ」

タダだだっ広い床に枕が数個置いてある。二人並んで仰向けに寝転び目を

瞑る。

「ココはハワイ。ハワイだよ。れみれみ」 気温は五十度。ハワイ? 美希、ウマイこと言うね。素直にハワイに行く私。アッという間に夢の中に引き ずり込まれた。

スヤスヤ眠ること二時間。ハワイのビーチで太陽にジリジリと照らされて、その暑さにお水を欲して目が覚 めた。あ、アレ、ココどこ? あ、そっか。着替えた浴衣(のようなユニフォーム)には絞れるほどの汗。素肌が 透けて見えるくらいだ。

「れみれみ、おはよう」 寝たせいか頭がスッキリしている。大量の汗に老廃物が流されたかのように体もスッキリ。意識があったら ココまで汗をかくのは難しいだろうなあ。やり~っ。

「れみれみ、次はさ、箱根の温泉に行くよ」 バーチャル好きな美希。ダケド、ホントにその気にさせてくれる。風呂は先にも言ったように小ぢんまりとは しているものの露天風呂なのだ。赤坂のド真ん中で露天風呂。温泉ではないけれど、風呂の内側全体 に麦飯石を埋め込むことによって、お湯が弱アルカリ性に保たれているらしい。この柔らかなお湯に浸かって いるとお肌はツルツル。美人湯の効果があることで人気なのだとか。ナラバとアゴ先まで浸る意地汚い私。

ふと、手足を伸ばせることに気づき伸ばしてみる。 グーンと伸ばす。気持ちいいーっ。家のお風呂じゃこうはいかない。思いついたように平泳ぎしてみる。二 かきくらいしか出来ない広さダケド楽しいーっ。 「キャハーっ。れみれみ何泳いでんのおっ」 「なんかさ、広いお風呂に入ると泳ぎたくなるんだよねえ」 「ワカル、ワカル」 「ねえ。私さあ、こういうの久しぶりダヨ」 「うん。毎日銀座と自宅の往復のようなもんだからね」 「…………」 黙りこくる私達。 私達ホステスの生活ときたら、食事だって、買い物だってぜ~んぶ銀座ときている。イイものばかりが集ま る銀座で何でもコトが済んでしまうから、他に行く必要もない。アフター等で銀座を離れたとしても、お客と 共に一点を目指して移動するため、すぐに目的地であるお店の中に潜り込んでしまう。

銀座の街に関しては自分んちの庭のように詳しいけど、一歩外(他の街)に出ると、一体どこに何がある のか、最近、ど~変わってきているのか、サッパリ分からなくなっちゃっている。

人間もそう。私達ホステスの人間関係ときたら銀座のクラブに集まる人々のみで構築されている。そんな ドップリ銀座生活が当然すぎて、他の人達がどんなことして過ごしているのかナンテ、考えてみることすらし てなかったよなあ。

そーいえば、プライベートの友達は皆どうしているんだろうか。 学生時代からの友達はOLしてたり、結婚してたり、相変わらずなのだろうか。時間帯が違うことから全く と言っていいほど疎遠になっているけど、今さら会ってみたとこで、悩みだって関心事だって全く噛み合わな いんだろうなあ。

その点、やっぱり毎晩同じ土俵に生きるホステスの美希は悩み事や関心事、金銭感覚、どれをとっても ほぼ一緒。明け方四時に、太りたくないからと低温サウナや露天風呂に浸かりにきて、グッタリしたりキャピキャピしたり。

そんな小さなことが、心から楽しいと思える唯一の時間になってしまっている〝自分〟に気づくのもまた 一緒なのだろうか。

解放された時間は私に余計なコトを考えさせた。 私は今、一体どうなっちゃっているのカナ? 私は寂しい人間なのか、そうでないのか。 贅沢なのか、貧しいのか。 強いのか、弱いのか。 幸せなのか、不幸なのか。 よくワカンナイ。 私のアタマとココロは知らない間に硬い角質で覆われて、鈍くなっていたのかな。 明け方の露天風呂にふやかされて、思わずポツンとなる私。 果たしてこれでいいのかな? 「れみれみ、ダイジョウビ? ……私ね、よくココに一人で来てるの。銀座にいるとさ、やっぱいろんなことあ るじゃない?(銀座の)街を離れてリフレッシュするのって大事なコトだよ。また一緒に来よっ」

華やかな銀座を離れた時に襲ってくる孤独感。それもまた一緒なのだろうか。 「れみれみい」 目の前で話しかける美希の声が遠くに聞こえた。 「うん。また連れてきて」 我にかえって露天風呂を後にする。 脱衣室には体重計。 「れみれみ、乗りなよ」 「う~んっ。乗るっ」 勇気を出して、ピョコンと体重計に乗っかる私。昨日の朝と同じ体重。 「美希美希やったあ! 太ってないよお。太らなかったよお~」 小躍りする私。 「どれどれ、私も」 ピョコンと体重計に乗っかる美希。 「私も!」 「ヨカッタネ、ヨカッタネ」 一緒に喜ぶ私達。 午前七時。着替えを済ませてティアラを出る。朝になり、すっかり明るくなった赤坂の街。アフター帰りに 太陽に照らされたことは何度もあるが、今朝はなんだかいつもと違う。私にとっては一日の終わりを告げる かのように顔を出す太陽が、今朝はちゃんと一日の始まりを告げている。

こんな感覚を私は久しぶりに味わった。 「じゃ、また後で」 脂肪を燃やし、疲れを溶かし、心を洗った私達は別々の方向に向かって一人で帰る。 そういえば、美希はとこに住んでたんだっけカナ。 本名なんていうんだろ。 今まで考えたことなかったけど、私は美希のことを何も知らない。 お互いのことを詮索しない、という銀座のルールの中で、銀座の街が私達を結びつけているだけなのだ。 今、毎晩のように顔を合わせ、一瞬一瞬の気持ちが通じ合う美希と、その昔、すべてを知っていたのにす っかり疎遠になってしまった同級生達。

結局、昔も今も私のことをずっと知る人は親しかいなくなっている。親だっていつまで元気でいてくれるんだ ろう。いつか私は一人になるのカナ。

いつもなら、すかさずタクシーを拾う私だけど、すれ違うビジネスマン、OL、昼間の人間達がふと目に入 る。私もライターしてた時は、こんなふうに朝っぱらから働いてたっけ。ついこの前のことなのに、ずいぶん昔の ことのように思えてしまう。銀座のクラブに遊びに来るビジネスマンも、昼間はきっとこんなふうに別の顔して るんだよネ。

私はもう、昼の人間に戻ることはないのカナ。 美希のお陰でふぐはチャラ。体重はめでたくリセット出来た。だけど私はココヘ来ることはもうないたろう。リ セットさせたココロやアタマはいろいろな思いを拾い上げてしまって、ナンダカ重い。

明日からは自分の家で半身浴をすることにしよう。たとえ、それが明け方であったとしても。

〈ルール20〉 どんなに遅くなってもいいから、半身浴をしよう

踊るホステス――皆が男に目もくれないなら、私もそうしよう

〝ホステス〟といってもいろいろな人がいる。オーナーママや売り掛け、ヘルプと立場はそれぞれ。年齢だ って十代から五十、六十とその幅はとても広い。だが、それに対してお客であるオトコの年齢層は若めで四 十代。脂のノッた五十代、子供にかえってしまう六十代でまとまっている。

社会的地位もあり、お金もあるが、家庭もある。そんな彼らがいちばんターゲットにするホステスの世代は 俄然二十代。だからクラブには二十代のホステスがいちばん多く在籍している。

二十三歳のホステス、沙耶が言う。 「れみちゃん、今度のお休み、ライブ行かない」 「ライブ?」 「渋谷のNHKホールの前あたりでやるらしいの」 「前あたりって、外? 誰がやるの」 「ウチのお店の近くにラ・ボエム(レストランカフェ)あるじゃん。そこでバイトしてる男のコなんだけど、すんごい カッコイイの。そのコがやるんダヨ」

「えっ? そのコいくつ」 「二十歳ソコソコだと思う」 「付き合ってんの」 「まさかあ。見るだけでいいの。それに彼女いるらしい。同伴がない時お茶しに行くんだあ。その時会うだ け」

「それで、楽しいの? それで、ライブ見に行っちゃうの」 「ウン。顔見るだけで最高に幸せ」 是非ともお客に言ってほしい一言だ。 しかし、赤坂の露天風呂で平泳ぎをしたことがココ最近のいちばん楽しい出来事、の私に言われたくは ないと思うが、沙耶の幸せもかなりキテいる。

ラ・ボエム。二十歳のバイトオトコ、渋谷、路上ライブ。 三十代に突入して、銀座にどっぷりきている私には全く無縁の話。しかも同じホステスの沙耶がそんなこ と言いだすとは思わなかった。

「さやや(私は沙耶をこう呼ぶ)、彼いないの」 「いない。出会わないし、あまり欲しいとも思わない」 「(ウチのお店に来る)お客さんは?」 「前のお店で付き合ったことある。狂った。まず、妻子は標準装備でしょ。それは仕方ないとしても、夜、 他のクラブに行ってんじゃないかとか、いろいろ勘繰って、会うとしょっちゅうイヤミばかり言うようになってさあ」

「あ~あ、ね」 「それにプライベートで探したところで、時間が合わないでしょう。銀座にいる間は無理だね」 当たり前のことにゲッソリくる私。 私達がホステスをするのにはそれなりの理由がある。 水商売をしなければ食べていけないような、借金やそれなりの事情持ち。それで本腰を入れなければな らないというコもいれば、ただ単に、将来に何かの目的があってお金を早く貯めたいと、アルバイト感覚のコ もいる。

沙耶は九州の出身。何かの資格をとりたいと上京し、自分で家賃を払って暮らしている。昼間はその資 格のための学校に通っていて、授業料が結構高いのだとか。母親が父親に内緒で仕送りをしてくれている らしいが、微々たるもので、基本的に自立することで東京へ行くことを許されたという。それで、ホステスをし ているというワケだ。

だからこの先もずっとこの仕事を続けていこうなんて沙耶は全然思っていないのではないか。 もちろん親にも内緒らしい。そうだなあ。二十ソコソコだったらこの先人生長いし、まだまだいくらでもチャンスがありそうっ。

そんなに若くして賞味期限のある銀座にどっぷり浸ってしまうのは、すでに三十代に突入している私から 見たら、いかがなものか、と思ってしまう。だけど、沙耶はしっかりしている。人生にハッキリとした目標を掲 げ、それに向かってまっしぐらなのだ。

それに比べて私ときたら、賞味期限もギリギリだというのに、沙耶と私は八つも年が違う。 図々しくも私は日頃あまり年齢差を感じずに働いているのだが。 それに銀座法では、銀座のクラブのホステスは五つマデ年齢をサバよんでいいことになっている。私は酔っ ぱらうと、干支や年号の計算がややこしくなるので自分の口から敢えて年齢は言わないように心掛けてい るが、お客から「二十六、七か」と聞かれれば、「ま、そんなもんです」。

明かりを落としたクラブの照明とお酒の力を借りて、気がつくとホントに五つくらいはアッサリとサバをよんで いる自分に驚いてしまう。

私のホントの年齢はお客はもちろんのこと、ナントお仲間ホステスも知らない。三十代なんて言ったら、 「ババア、ババア。ババアじゃーん」とお客が大喜びしそうで。

気がついたら酔った勢いでボトルで殴り殺してそうで、コワイ。 「れみれみい(沙耶も私をこう呼ぶ)。まだ若いんだから、老け込んじゃダメだよ。親父とばかり付き合って ても面白くないでしょ」

エッ、面白いヨ。だって私、実はババアなんだもん。 「れみれみ、まだ二十六でしょ? もっと若いコの遊びもしたほうがイイよ」

二十六? どっから仕入れた

誤情報だろ。ま、いいや、沙耶の前では二十六ね。っつーことは来年は二十七ね。覚えとこっ。

「だって、時間ないもん。アフターだって行くし、休日は倒れてるし」 「アフターなんてホドホドにしなよ。毎日お客の相手してたら倒れちゃうよ。れみれみい、今度さ、お店の 後にクラブ(踊るほう)行こうっ」

ホステスをそのうち辞められそうな沙耶と違って、私は銀座にまだまだいる気。アフターは大切なんだよ。た とえ時間があったとしてもクラブ(踊るほう)行くくらいならお家に帰って体力を温存しておきたいんだよ。だっ て、だって、アナタと私は八つも年が違うのよお~。

とは言えない。 「クラブねえ~。こんな格好じゃ浮くヨ」 しつこい沙耶から逃げる理由を探す。 「れみれみ、着替え持ってきてないの」 「うん、荷物嫌だからこのまま来る」 「電車、ハズカシくない? よく平気だね」 今時の若手ホステスは銀座の地まで電車に乗って、セーターにジーンズ姿で出勤する。まるで普通の女 の子。美容室を終えて、お店の更衣室で着替える。と、まるでホステス。私は、そんなトコだけ昔ながらの ホステスを貫いているらしい。お家から戦闘服(お店の中で着る服)。体力をなるべく消耗しないように、タク シーを利用することも必要経費として割り切っている。

驚いたことに、若手(ホステス)は、ジーンズ姿で朝までクラブ(踊るほう)で踊り、始発で家まで帰るんだと か。

「さややこそ、お店の後でよく疲れないね。朝までそんなトコにいるって、次の日に影響しない」 「若いから」 スンマセーン。 「それに痩せるよ」 「痩せるっていうか、ゲッソリきそうだね」 「そうでもないよ。踊りまくって、ストレス発散して、楽しく痩せられる。最高だよ。この間、みどりちゃんとも行ったし、満里奈とも行ったよ。皆で行くと楽しいよ」

「皆、行ってんだあ。そんなトコ」 銀座に入る前、ライターしてた頃は実は結構クラブ通いしてた私。 その当時付き合っていた友達はファッション関係者や売れないモデル。結構ヒマな連中は、約束せずとも 夜な夜なクラブに集まって、皆で朝までよく遊んだよなあ。そんな忘れ去っていた記憶が甦り、私は久しぶ りに覗いてみたい気になった。

週末の金曜日。アフターを断り、沙耶と私、みどり、満里奈の四人で青山にあるクラブ「オービエント」を 目指す。今日は最初からその予定だったから、美容室でもヘアはカールのダウンスタイル。ヘアスプレーもお 店で崩れない程度の最小限にとどめてくれ、と注文をつけながら、ふと思った。

コレ、今日終わってからオトコとどこかに泊まるのかなって感じだろうなあ。 実際、私達ホステスのヘアときたら、雨が降ろうが槍が降ろうが崩れない級にピンやスプレーでガッチガチ に固められている。それは、とっても素敵な男性がお店に現れ、魔がさしてホテルに行ってもかまわない~ ナンテ気になったとしても、このアタマがよお~、エッチしたら、ど~なっちまうのか心配で心配でえ。

銀座のホステスが「身が堅い」と称されるのは意外とこのアタマのお陰だったりして。と、そんなこんなでクラ ブ(踊るほう)に行ったら、さぞかし浮きそうなこのアタマ。危惧して最初から注文をつけておいた。

仕事が終わり、アフターをスルリとかわし、持ってきた服に着替える。 ジーンズにタンクトップ、ファーのジャケットを羽織り、ヘアのカールに手櫛を入れる。濃いめに塗っていた口 紅を落とし、グロスを塗る。

ふう~。遊びに行くのも一苦労だぜいっ。 姉妹みたいに同じようないでたちの私達。だけど、このほうがウンとナチュラルで若くなる。 銀座のホステスとして作り上げる姿よりもカワイイんじゃないかと思うけどな。勘違いかね? 久々のオービエントは何も変わっていなかった。懐かしいっ。それは逆に環境の変わった自分を浮き彫り にしてしまう感じだ。

黒服が沙耶に気づくと親しげに近寄ってきた。 「沙耶ちゃん、今晩はあ~。上(VIPルーム)、空けといたから」 「ありがと~」 沙耶はカオなのか……。女四人でVIPルームのソファに座る。クラブに女だけで来たことはいまだかつてな かった。なんだか男を求めにきたみたいで、恥ずかしい。

「ねえ、君達どこから来たの? 一緒に飲まない」 隣の席に座っていたスーツ姿の中年男が近寄ってきた。うおっ! 金持ちそうっ。だけど、金持ちがどうし て、クラブ(踊るほう)に? しかもスーツ姿で。怪しい。アナタ、お金持ちですか?

「私達、今夜は女同士の会なんです。だから、残念ですけど」 みどりが言った。す、スゴイよ。みどり。スーツ男を一蹴してしまった。 「ねえ、VIPなんてつまらないよ。普通の席で飲もうよ。フロア(ダンスフロア)も近いしさあ」 満里奈が言う。 「そうだねっ」 沙耶が答えた。え~っ。私、普通の席ヤダ。だけど、皆が言うなら仕方ない。一人だけババア風を吹かし てはならない。立つとするか。全員移動。

下のフロアではもっと頻繁にナンパが繰り返される。男も女も皆若い。いや、年齢だけではなく、まず、つく りがナチュラル。肩の力が抜けたようなファッション、柔らかなヘア。くだけた会話。カウンターにもたれかかって 色っぽく話をする男女。ハイタッチをして肩を抱き合う人々。 音楽に合わせて揺れる人達。子宮に響くような振動音。 ココは宇宙か? そういえば銀座に入った時、別世界だと思った。だけど、今はついこの前まで毎日のよ うに訪れていた場所、当然のように出会っていた人々が別世界のことのように思える。

私は銀座に染まってんだなあ。

「チョット踊ってくるね!」 みどりと満里奈が人ごみに消えていった。 「おっ。れみ」 旧友である電通マンの寺西氏にバッタリ会った。四十歳の彼は、普段お洒落にスーツを着こなしている が、こういう場所に来る時には必ずと言ってイイほど着替えてくる。Tシャツにジーンズ、日焼けした肌にシル バーのアクセサリー。

「寺ちゃん!」 「オマエど~してたんダヨ。電話もこないし、携帯つながらないし。冷たいヤツだなあ」 「ごめん、ごめん。いろいろあって、環境変わっちゃったんだ」 「ライターの仕事してないの? あんなに頑張ってたじゃん。そーいえば、雰囲気変わったなオマエ」 「…………」 「アレ? 友達」 寺西氏は沙耶に気づいて私に聞いた。 「オレも友達と来てるんだ。一緒に飲もうぜっ」 「うん。だけどね、私達四人で来てるんだ」 「OK! じゃ、上で待ってるヨ」 寺西氏もVIPルームに陣取っているらしい。 「れみれみ、あの人カッコイイね」 沙耶が私に向かって言う。 「うん、そうだね。仲良しになれば」 「ええ~っ。ナンダカ緊張するよ。いい、いいっ」 首を横に振る沙耶。 「ドシテ? タイプなんでしょう」 「だけど、いいっ。何話していいのかワカンナイし」 日頃、沢山のお客の相手をしている沙耶が緊張するだと? 何話していいのかワカンナイだと? みどりと満里奈が戻ってきた。 「さやや、れみれみ踊んないのお~。サイコーだよっ」 私は寺西氏のコトを二人に話した。 「あ~。せっかくダケド、今日はいいよ。知り合ったトコでしょーがナイし、逆に気イ遣っちゃうから。今夜は 何も気にせずパアーッと思いっきりやりたいっ」

そうなんだあ。 でも、実は私もホッとしていた。だって、私の銀座仲間とソレを知らない昔の仲間が席を共にしたら、私の いろんなコトがバレてしまいそう。寺西氏に一から説明するのもメンドくさい。そんなこと、したところで意味が ナイ気もする。

今の私を取り巻く環境が銀座であるならば、やっぱり私は潔く銀座のホステスに腰を落ち着けるとしよう。 皆が男に目もくれないなら、私もそうしよう。

「踊ろうかな」 銀座仲間と寺西氏の間で途方に暮れた自分に不安をおぼえ、自らホステス仲間に加わろうとする私。 「踊ろっ」 沙耶、みどり、満里奈が声を揃えて言った。余計なコトを考えず、男に目もくれず、体を動かし、朝まで 踊る。

「なんだか元気になってきたあ~」 私は音楽に負けないような大声で叫んだ。人間関係を何も気にしないで酒場で遊ぶのは久しぶりだ。と っても楽しいっ。

朝五時。結局、寺西氏は私を探しに来ることはなかった。多分、私の変化を彼も察知していたんじゃないか、と思うのは自惚れかもしれないが。 「そろそろ帰ろうか」 沙耶が私に向かって言う。 「そだね」 みどりと満里奈は始発を待つという。 沙耶と私は家が近いことから、同じタクシーに乗った。 「れみれみ、楽しかった?」 「うん、楽しかった! 体動かしたから痩せてる、きっと!」 「うん、絶対痩せてるよ。れみれみ、最近仕事どお」 「まあまあ、カナ。でも、今日は久しぶりに遊んだって感じ」 「ムフフフフ。たまにはこういう遊びしたほうがいいヨ。そのほうが、逆に銀座のよさも分かったりするヨ。だか らさ、また来よっ」

そうか。そうなのか。人間、慣れがくると、そのよさをすっかり忘れ嫌なコトばかりが浮き彫りになってくるもん だ。

「私ね、銀座にずっといたいと思ってるよ。だけど、それには銀座を嫌いにならないコトが大切。ちゃんと目 的を持って、しっかり働いていれば、イイトコだよ、銀座は」

その時、私は本当にそうだ、と思った。 「れみれみはどっぷり銀座でやってる感じがする。毎日同伴して、アフターも行ってスゴイと思うよ。ダケド、 余計なことかもしれないけど、れみれみもいろんなコトしたほうがいいと私は思うよ。たまにはお客さんから離 れる時間も大切ダヨ。それでこそ、銀座のお客さんやお店のよさがワカルってもんだよ。改めてね」

沙耶はしっかりしている。自分で自分をコントロールする術を心得ている。 私は、この先オービエントを訪れて、昔の記憶を辿ることはしないだろう。今、いる世界が好きだということ が、改めてワカッタから。またしばらくしたら、ソレを確認するためにココに来よう。アタマとココロ、体に蓄積さ れた余計な脂肪を元気に跳ね飛ばしにココヘ来よう。

朝五時、二十三歳の沙耶は私にそんなことを教えてくれた。

落ち込むホステス――痩せても喜べないこと

食事がノドを通らないほど落ち込む時ってありますよね? ホステスやってるといろいろなことありそうでし ょ? やっぱいろんなことあるんですよ。

まず、入店してから三ヵ月が過ぎるとヘルプ(売り掛けを持たないホステス)でも月に最低六回は決めら れた日にキッチリ同伴をしなくてはならないというノルマがつきまとったり、季節ごとに催されるパーティにはそ の数日間で「ノルマ○組(来店するお客の組数)」と、ハッキリ宣告されたり。そして、その○の数字には「オオ ッチョット無理じゃないかい?」とかなり動揺させられる。

売り掛けホステスになればその数字はもっと露骨。その数字は、売り上げ金額に変わることから、ヘルプ のように来店してもらってホッ! お役目ご苦労さんというワケにはいかず、いかに新しいボトルを開けさせる か、勘定をハネあげさせるかに全力投球。

さらに! 高額になったヨ。沢山飲んでくれてありがと~! ほな、サイナラあ~とはまたまたいかない。お 客がその会計をきっちり払い終えるところまでが売り掛けホステスのお仕事なのデス。

現金やカードで支払ってくれればその日決済ってことでヒャッホ~! なのデスが、ココで避けて通れない のが〝ツケ〟とゆーやつ。こんな余計なコト、誰が始めたの? 止めようよって私は思うのですが、私のよう な一ホステスが銀座のど真ん中で声をあげて叫んだって、追い出されるが関の山。

月末締めで翌月払い、翌々月払いというパターンはザラなのでありますが、バブルが弾けてから今日まで、大手の会社だって倒産してしまう世の中。決済日までに消息を絶たれてしまうなんてコトもまたザラな のであります。

と、どーなるかといえば、その莫大に膨れ上がった飲み代はすべて係りのホステスに責任アリ。 と、どーするかといえば、ホステスもまた消息を絶つ。と、取り立て屋に探されて……。 「どこどこのソープランドに入るとこ見たぜっ」 どっからともなく寒~いウワサが流れてきたり。 このように一見華やかに、ワガママに、傲慢に見られがちなホステスの明日は何が起こるか分からない。ヒ エ~ッ。だけどコレは、この仕事で身を立てているホステスならば誰にでも例外なく降りかかっているキビシイ 現実。

「ホステスはクラブの一つのテーブルを借りて商談をしているようなもんなんだ。だから、個人事業主として 〝自分〟という商店をしっかりと繁盛させていかなきゃいけないヨ」

私がホステス稼業を始めたばかりの頃、とある有名百貨店の社長が私に向かってこう言った。 テーブルを借りてる? 商談?? 個人事業主?? ずいぶんおカタイこと言うじゃ~ん、ナンテその時はあま りピンとはこなかったケド、それはまさに名言! さすが老舗の百貨店は言うことが違うぜっ。〝自分〟とい う商店で、〝自分〟という商品を売る。もちろん、お代もキッチリ回収する。

気に入ってもらってまたご贔屓にあずかる。 カワイクお饅頭にたとえてみましょう。 一度でマズかったら二度は買ってくれません。二、三度買って飽きられてしまったり、定期的に買ってもら っている間に食あたりさせてしまった~なんてなったら一巻の終わり。一時的に超ハマったぜいっとブレイクさ せても、毎日毎月毎年、発売される新しいお饅頭の波に、昔はアレが美味しかったんだよ~とか、そんな のあったっけか? なんて忘れ去られてしまうこともザラ。

とにかく人の心だけは縛ることがデキナイ。 また経済的な理由でお饅頭買えなくなっちゃった~ってゆう人もこの不況においてはウヨウヨしてます。 とにかく無理強いが利かなくなるということが、この仕事の難しいトコ。 そんなこんなで自分の商店に危機感を覚え、ショックを受けて痩せる饅頭(=ホステス)、結構います。ま ともに考えてたら自律神経失調症気味にだってスグになれちゃいそうっ。

でも、それでも食事がノドを通り続けるホステスも結構いるんですね。その図太い神経は一体どーなって んだか解剖して見てみたいってな感じでありますが、ナント実は私もその図太い神経持ってます。 精神的なショックで気がついたら三キロ痩せちゃった、ってことは生まれてこの方一度もない。 もしあったら、超ラッキー! 一瞬にして何にショックを受けていたのかさえも忘れ去るほどに小躍りして食 欲増進。痩せたことに油断して気づいたら「五キロ増えちまった」。コレが私です。

だけど、そんな私も、ついにとうとう、精神的なショックで痩せられました。と、いうか同じ店で働く者全員が 痩せた。私達の愛すべきお店にタイヘンなことが起きてしまったのデス。

ナント、オーナーである大ママがある日突然倒れてしまったのデス。大丈夫~大ママあ~。 銀座に生きて「目も肥え、舌も肥え、体もコエ(体も肥え)」と高級料亭やレストランばかりで立派に(ヨコ に)育てあげた上質のその体は、実は一月くらい前からかなり小さくなってきていたのです。

「アレ? 大ママ痩せたなあ。やっぱ、痩せるとキレイじゃん。なんだか昔、小悪魔タイプっつーの分かるワ」 ナンテ気楽に大ママを眺めながら過ごしてしまった無神経な自分を心から反省しました。 大ママが痩せた理由、倒れた理由、それはまさに心労過労ではナイか? 後になって私はふと思いまし た。

そう、ウチのお店、一年ほど前からトラブルが勃発。その内容は、大ママが十年以上にわたって育て上げ てきたホステスが不義理を働き続けていたというもの。そして、そのことがバレたらナント、謝るどころか開き 直った。そのホステスは他のお店に移るしかないため、ナラバと立つ鳥後を濁しまくったのです。

人の心、信頼関係の大切さを日々実感している私達ホステスにとっても、それは一緒に働いてきた 日々に泥を塗られた心境。あのテこのテで売掛金を蹴飛ばそうとした(実際、銀座にいる限り無理)のみならず、あることないこといろいろな悪い噂を振り撒かれてしまったため、大ママにとってはお店を揺るがす大 問題にまで発展。

お給料日の日、事務所(お店の近くに事務局がある)で、私達ホステスのお給料を数えながら封入して いた時に突然パッタリ倒れ(高額な給料にめまいがしたワケではないらしい)、救急車で病院に運ばれてそ のまま意識不明。それから約一ヵ月間の入院を余儀なくされてしまったのでありますが、大ママが倒れて 二、三日の間、私達は大ママのお休みのホントの理由を聞かされていなかった。

日頃、私達ホステスほかスタッフに厳しく意見する大ママ。髪型から服装、メイク、立ち居振る舞いまで 細かく意見する大ママ。ドキドキするようなノルマを設定するのもそういえば大ママ。

目の上のタンコブの大ママ。 「大ママ風邪ですかねえ?」 先輩ホステスに聞く私。 「う~ん。珍しいねえ」 ま、いない間は伸び伸びやっちゃおっ。 大ママの顔が見えないとあって、いつも来るお客は皆、「どーした、どーした、ど~したんだっ、大ママは」と 聞く。

「お風邪でチョット体調崩されたみたいで……」 「そっか。年だからな。仕方ないなあ。心配だなあ」 「そうですねえ」 また久しぶりに来店するお客もいる。 「大ママいないの?」 「お風邪でチョット体調崩されたみたいで……」 「ナンダヨ。せっかく大ママに会いに来たのに、ツマンナイなあ。残念だなあ」 ツ、ツマンナイ? あの~私じゃツマンナイですか? カワイクないですか? 「すみません。でも、お久しぶりにいらしてくれたこと、大ママが聞いたら喜びます。お伝えしておきますの で」

「帰るわ。チェックして」 「!? エッ? も、もうお帰りになるんですか?」 「うん。大ママいないんじゃ話になんないよ。来る前に電話いれりゃよかった」 は、話になんないの? 「す、スミマセン」 「いいから、早くチェックして」 ワ、私、そんなにイケてないんですね。お酒の一杯も、一緒に飲んでもらえないほどに。 ヘンな客っ。開き直る(しかない)私。 が、チト不安になって、トイレに駆け込む私。鏡で自分の顔、上半身をチェック。ニッコリ笑ってみる。そん なにイケてないのかよお。

しかしながらその後、そんなコワイことがずっと続いたのだった。 最悪なのはお客が接待で大切なお客を連れてきた場合。やっぱ、大ママの挨拶がないとなるとねえ。 ウチの店には大ママの下に〝ママ〟がいる。小百合ママ。四十五歳。いつも和服で、こんなに温厚な人 がいるのだろうか、と思うほど優しく、大ママとは二十年以上一緒にやってきた。やってこれたというんだか ら、その温厚ぶりも筋金入り(?)。きゃあ、ごめんなさい。大ママ、ママ。

大ママ代理を小百合ママが務める。恐縮ですが、ウチのお店、このご時勢なのにいつも、常に超満席な んです。小百合ママが大ママの代理をするっていったって、挨拶に回りきれなかったりしてしまう。それに加 えて見送りだってあるワケです。そこへきてお恥ずかしい話なんてすが、ウチの黒服、よくお客の預けた荷物 間違えるんですよネ。それ、いつも大ママが鋭くチェックして、「違うじゃない」と、ゲキを飛ばしてたみたいなん です。

大ママがいない間、よ、よくぞ、そこまで間違えられる! 当てズッポに渡したほうがマダまぐれ当たりする ぜ級に間違えた。間違えるから今度は渡さないのか、手ぶらで返すなんてこともあったりして。渡し忘れな らまだしも、来店したお客(超上客)にいきなり、「どちら様でしたっけ?」ナンテ。 超上客の顔、忘れるヤツもいるんですヨ。もちろん、そのまま帰っちまいます。 大ママがいなくなったことで、皆の仕事のアマアマさが大アラワ。お店は一気に傾き始めたのであります。き ゃあ~。

大ママがお休みして一週間も経つと、どうやら休んでいるらしいとか、長引くかもナンテ噂も広がって、客 足は遠のくばかり。いつもなら満卓で、隣のバーで席が空くのを待っていてもらったり、お帰りいただいたりし ているのに、三分の二埋まっているのがやっとの状況。

私のことをご贔屓にしてくださっているお客も私だけではやはり物足りないらしく、盛り上がり損ねて帰った りしてしまう。

「また来てくれっカナあ~」落ち込む私。 「大ママ、いつ戻られるんですかあ」とママに聞く私。 目の上にタンコブ欲しいよお。 ある金曜日の夜十一時四十五分。ウチの店には一人のお客もいなくなった。こんなことはいまだかつて 一度も経験がナイ。十一時四十五分といえばいつも満卓で、しかも金曜日でっせえ。まだまだ飲むぜっ。 帰りたくないぜっ。もう一軒いこうぜっ。かなり盛り上がっている状態。

「アフターが何件も重なっちゃってえ~」とモテてるフリ、もコレじゃ出来ないじゃん。 週明けの月曜日、小百合ママの次に頼りになる存在のお姉さんホステス、美里さんが休んだ。 十一時四十五分に閑古鳥が鳴いたことで寝込んでしまったらしい。自分のイケてなさぶりに落胆。 気を取り直すのに三日かかった。ワカル~。私もダヨ。 有名百貨店の社長さんっ、借りてるのテーブルだけじゃありませんでしたヨ。私達、ナントお客マデお借り していたみたいです。おハズカシながら。

小百合ママと美里さんと、私は美容室が一緒。 美容室で美里さんと、「ヤバイね。ヤバイね。私達イケてないみたいだね」とカーラー頭で傷を舐めあって いたところに小百合ママがやってきた。 きっと大ママの具合知っているはず。 「小百合ママ、おはようございます」 「おはようございます」 「あのお、大ママのお加減どうなんでしょうかね?」 「ああ、それがねえ……まだ、当分かかるみたいなの。いろいろお疲れが溜まったらしくてね。私もなんだか いろいろ考えちゃって、眠れなくなっちゃったわ。美里ちゃん、れみちゃん、危機感を持って頑張りましょうネ。 宜しくお願いします」

「ハ、ハイっ! こちらこそ宜しくお願い致します」 カーラー頭を深々と下げる美里さんと私。 小百合ママはここ数日間でガクッと痩せた。もともと細い美里さんの頬もゲッソリきた。ほんの数日間で。 毎日会っていてもワカルほどに。

当分かかるか。大ママ、一流のお客とワガママで出来の悪いホステスやスタッフに囲まれて大変だったんだ ろうなあ。大ママ、入院中どんな心境なんだろう。すんごく心配してんだろうなあ。

退院してきて、「売り上げ落ちました。おカネありません」じゃ、また倒れちゃうよ。 と思っていたところに事務局のオバサンから電話。 「れみちゃん、今日のご予定(同伴、来店する客の予定)は?」 「…………」 「大ママにね、毎日の報告だけはしているんですヨ。大ママとっても心配されていてね。で、あまりお客様 がいらしてないって言いにくいんですヨ。いい報告してあげたいので、れみちゃん、スミマセンがいつにも増して誘客のほう、お願いしますね」

いい報告したいか……。私は心を入れ替えた。大ママ、目の上のタンコブ呼ばわりしてごめんなさい。お 客サマ(これからはサマをつけることにしました)、ご来店のみならず同伴やアフターのお誘いいつもありがとう ございます。太るから食べたくない、早く帰って眠りたい、アレが欲しい、こんなもんいらないetc………私は 一体何様のつもりだったんでしょうかね。超勘違い女でした。ド生意気でした。だけど、このたびまんまとバ チが当たりましたのでお許しください。ホントに、ホントにごめんなさい。

その日から私は私なりに大ママ不在をいかに穴埋め出来るか試行錯誤。 まず、服装は着物でいこうっ。もともと、週に一度は着物を着るように言われていて、それすらもかなり億 劫なことなのでありますが、やっぱ着物はお客サマから喜ばれたり、貫禄もそれなりに出るからして、私は結 局大ママが休んだ約一ヵ月、ぜーんぶ着物。でもコレ、着物いっぱい持ってなきゃやってられないデスよね え。

そんな時には日本の不景気がお役にたちます。銀座の呉服屋バッタバッタと潰れてるんです。持ってけド ロボーみたいな価格で叩き売ってて、我々ホステスはさらにそれを叩きのめして買う。だけど、花柳界は絶 滅寸前。若者達の着物離れが著しいご時世とあっては着物を買うのは俄然銀座のホステス。京都の呉 服屋も銀座に出稼ぎに来てたりなんかして。掘っ立て小屋建てて、ゴザ敷いて売ってマス。かなり良い 品、久保田一竹等の作家モノなんかまでもが、太巻き状態に丸められて積みあがってるんですヨ。是非、 銀座の西五番街、金春通りあたりを攻めてみてください。

と、着物をとっかえひっかえしながら、同伴をこちらからお願いして、自然に来店したお客サマには背筋を 一瞬伸ばさせるような大ママ風の礼儀正しい挨拶。こ、こんな感じだっけかなあ。

来てくれたことへの感謝の気持ちをマジに、だけど重たくならないようなサックリ感を持つのがポイント。コ レ、結構ムズカシイんです。

スグにワア~っと場を盛り上げるような笑い話を一発。あまり時間をかけていられないから、花火みたいに 派手にやって、余韻を残して、「ごゆっくりしていってくださいね」

他の席へ。 帰りがけに舞い戻り、また一発ドカンと花火(笑い話)を上げて、華やかな印象を持って帰ってもらう。コ レもまたムズカシイんです。が、このパターンがいちばん効率が良い。

アフターも気を抜かない。家に着いたらバタンキュ~。のハズが、眠れない。小百合ママとおんなじ。ミョ~ に考え事しちゃって眠れない。

同伴からアフターまで、一瞬も気を抜くことなく過ごした一ヵ月。スタッフの粗相に平然とイヤミを投げかけ た一ヵ月。大ママ不在の一ヵ月。私は四キロ痩せた。他のホステスも黒服も事務局の人達もスタッフ全員 の頬がコケた。

ある日、突然大ママから電話。 「ママ? ママ!? 大ママですか!?」 「れみちゃん、今日退院しました」 「ママ、ママ、ママあ~」 「大丈夫よ、大丈夫よ。もう元気になったから」 「グスン。グスン。ママあ~」 「落ち着いて、落ち着いて。もう大丈夫だから。れみちゃん、ホントに頑張ってくれてたの、聞いてるわ。あ りがとうね。病院は携帯がダメでしょ。どこに入院しているか言うとお見舞いとかいろいろいただいて逆にスト レスになったりするから誰にも言わなかったの。一日に一回事務局の人間とだけ話をするのだけは許しても らってたという状態で、連絡出来なくてごめんなさいね。でもちゃんとあなたが頑張ってくれていたこと、聞い てますよ」

ウエ~ン。ママあ~。 それから間もなく大ママが復帰された。お客サマは皆お祝いに駆けつける。お客サマが皆、ウチの店に戻 ってきた。超満員。

大ママが復帰して初めて一つのテーブルを皆で囲んだ。お客サマと私達ホステス、そして大ママがやってき てお客サマの横に座った。

「ママ! さびしかったよ! もう、大丈夫なのかい?」 お客サマがチョット小さくなった大ママの手を両手で握り揺さぶりながら、嬉しそうに話しかける。 「すみませ~ん。ホントにご心配おかけしました。もう大丈夫デス」 「うん、うん、よかった、よかった。お給料日に倒れたって聞いたから、ママ資金繰りが大変なんじゃないか って。俺の貢献度が足りないんじゃないかって反省してたんダヨ。これからは苦労させないからネ。(黒服に 向かって)ドンペリ抜いて」

黒服がグラスにシャンパンを注ぐ。 「君達も飲みなさい」 「ありがとうございます」 お客サマが黒服の他、スタッフも呼び寄せ祝い酒を振る舞った。 「カンパ~イ」 大ママがチラッと私の目を見て、軽く頷く。ホステス、スタッフ全員の目が潤む。感慨無量。 私はいつまで銀座にいるのか分からない。 ホステスの明日は何が起こるか分からないから。 だけど、この一瞬に立ち会うことが出来てホントに良かった。 こんな気持ちを知ることが出来て本当によかった。 銀座にきてホントによかった。 大ママの下で、お仲間ホステス達スタッフ達とお客サマと共に過ごす。銀座のクラブに毎日いると、いろい ろな贅沢についつい鈍感になってしまいがちだけど、こうやって皆で揃って元気に酒を飲むって、ナンテ贅沢 な時間なんだろう。

名言撤回。一つのテーブルが商談の場ナンテ、今の私には思えないけどなあ。 大ママがいない間、みんな痩せたけど、痩せても喜べないことってあるんだなと思いました。

 

新鮮な、たとえば青い空

クリスマスを乗り切るためには

大ママが復帰して一ヵ月が経った。年末の銀座は忘年会にクリスマスと華やいたムードでいっぱいで、お 店は常に満席状態でホステスは大忙し。スタッフは大パ二ック。大ママは何事もなかったかのように、「いら っしゃいませ。まあ~○○さん、今晩はあ~……」とニコやかに挨拶したかと思えば、顔の向きを百八十度 変えギロリ。

スタッフに向かって、「ちょっと、アナタっそうじゃないでしょお~っ!!」とゲキを飛ばす。 おいおい、大ママお客サマに聞こえてまっせ。 ダケド、大ママ本当に元気になられた。以前よりも増してコワくなってるっ。でも、それはホントにいいコト。

素晴らしいコト。大ママの叱咤がいかに私達を育ててくれているか。そんな大ママは入院中、自分の大切な城を何も言わずに私達に全部預けてくれたんだよねっ。自分の未熟さや能天気さと引き換えに、大マ マの存在、お客サマのありがたみ、いろんなコトを肌で感じた貴重な一ヵ月だった。

私は、成長できた、とは言えないかもしれないけれど、一瞬一瞬を大切に出来るようになったのではない カナ。

お店の中で楽しく会話を交わす時間が心から嬉しい。 同伴の時も、アフターの時も、大ママがお店でどっしり構えて待っていてくれると思うと以前より十倍も百 倍も楽しめるようになった。同伴の時に腕時計を頻繁にチェックしてしまうのは相変わらずなのダケド。

でも、お客サマとの会話に加え、お酒も食事も堪能するようになった私。年末の銀座。クリスマスパーティ を開催する銀座のクラブ。だけど、パーティ! パーティ! とお気楽に喜んでいられないのも相変わらずな のだ。

と、いうのはやっぱりパーティ、期間中には〝ノルマ〟があるから。 クリスマスパーティ、12月20日、21日、22日、24日、ノルマ○組。この○にはヤッパリ、おい、チョット無理で ないかい? と思える数字が入っているのであります。

はいよ、はいよ。やりまっせえ~。銀座好き、大ママに感謝しちゃったもんねえ、私。やっぱチョット早まった カナ、私。悩む間もなく、「クリスマス、お食事したいなあ~」

気がつくと、お客サマにクリスマスディナーをねだっている私。コレ、同伴の勧誘です。 「いいよ。何日にする?」 「うわあ、嬉ぴい。えっとお~、いつでもいいんですけど、21日い」 「いつでもよくねえじゃねえか。他、埋まってんだろ。計算機働いてるナ」 ギクッ。そのとおり! ノルマに従って、効率よく埋めてます。そんな私は、今ではドレミ(れみ)計算機の愛 称で親しまれております。

そんな私は、「キャハハハハあ~」と開き直ってマス。 だけど、そんな分かりきった銀座のホステスの生き様に笑いながら付き合ってくれるお客サマの優しさ。本 当に本当に感謝してマス。

十二月のノルマは厳しい。いつもの月六回の同伴日に加え、クリスマスパーティ期間中はそのノルマ達成 に保険をかけるかのごとく毎日同伴。何も言わずともお客サマからお誘いを受ける棚ボタ同伴。自慢してい いですか? 十二月に私に同伴が入ってない日はナント一日だけ。キャア~努力のタマモノ。なんだか売 れっ娘みたいっ。

今日は十二月十日。同伴八日目。五十二キロ。キャア~体重増えたみたいっ。大ママが復活してホス テスも皆元気になったのかな。

「あ~ん、太ったあ~」 いいコトか悪いコトか。でも、まだクリスマスパーティ前ダヨ。そう、銀座のホステスはパーティ期間中暴飲暴 食。一気に太る。一週間で三キロ太るはザラ。しかも、元に戻すまではベリーベリースローリー。今年の年 末はかなりヤバそうだ。

そんなことを考えていた時、大ママが私に言った。 「れみちゃん。先日、○○さん(お客サマ)が、れみちゃん、腰のあたりが太ってきたって言ってたわよ。痩せ てる女の子が魅力的だとはちいっとも思わないケド、アナタ太って見えがちなゆったりとしたドレスが多いか もしれない。それは損だから、体のラインがちゃんと分かるようなドレス着たほうがいいわよ」

サスガ大ママっ、タイムリーっ! 今朝、体重計に乗って太ったこと確認したばかりですう。 だけど、体のライン出すとおデブバレますヨっ。ストッキング食い込んでるのが分かっちゃいますケド、それで もいいんですかあ。って、よくないよ。自分のコトですよ。

いろいろなホステスのダイエットのやり口も知った。下剤(あ、コレ私でした)、吐く(あ、コレ私出来ませ ん)、半身浴、クラブ(踊るほう)、落ち込み(大ママがまた病気になったら困ります)。

私にはコレだ! というものが結局ないんだよなあ。でも、人から耳が痛いこと言われるって実はありがた いことなんだよね。自分のためになるんダヨね。あ~何とかしなきゃ。

筋トレして、痩せてた頃が懐かしいっ。 筋トレかあ。銀座に入って、飲んだくれて、大分サボってたなあ。だからやっぱ太ったよ。そういえば、私は 筋トレに励んでいた頃、ダイエット日記をつけていたっけ。その日のトレーニング内容。食事、精神状態と、 事細かに書き留めたやつ。半年以上書き続けて三冊分くらいになったアレ、どこいったカナ。

あった、あった。手帳をめくる。な、懐かしい。 「十一月……五十六キロ」とある。五十六かあ、あの時相当デブだったけど、今と四キロしか変わらない の? まだ、筋肉少しは残っているのかな。あの時と同じ体型じゃないよね? パラパラとページをめくる。 一月、五十キロ。エッ二カ月で六キロ減かあ。

またまたパラパラとページをめくる。 三月、四十七キロ。四月、四十五キロ。五月、四十三・五キロ。体重最低値。よ、四十三・五キ ロ……。うわあ~少ないっ。っつーことは、エッ? あれから八・五キロも太ったの? 信じられない。

ジム代返せっ、オラアっ。 行かなかったのは自分ダロ。コラアっ。 だけど、四十三・五キロの頃、評判的にはよくなかった。痩せすぎダヨ。頬に線入って見える=年に見え る(年がバレる、だったかも)etc………。ダケド、あの時減らし続けることに命を懸けていたっけ。キレイにな ったねえ~と賞賛を得てたのは確か三月頃。四十七キロくらいだったのか……。

筋トレ始めて最初の三週間は筋肉によしとされるタンパク質中心、低カロリーの食事制限したけど、その 後はアバウトだったよなあ。それにしてもスゴイ勢いで体作りしたんだなあ。体重がみるみる落ちてってるも んねえ。羨ましい。やっぱ、私にはコレが効果的だったんだなあ。筋トレやってれば今も太っていなかったの では? よしっ。このまま太り続けては私のホステス生命もホントにホントに危ういというもの。一念発起。も う一度やってみることにするかっ。

で、いつから行こうか? 十二月十日、大ママからデブ宣告を受けてアフターでヤケ酒。ションボリ帰宅した私は、昔懐かしいダイエ

ット日記を

捲りながら考えた。今日はもうかなり飲んじまった。明日は土曜日。休みでよかった。ベッドの上で帰らぬ人となるだろう。平日の私はこのように飲んじまうから、再スタートの初日は休日の二日目がイイか もしれない。

休日二日目、日曜日。明後日は日曜日。 そうと決まったら早いほうが良いね。明日ジムに予約を入れよう。明後日ね、明後日……ZZZZZ。

再び筋トレジム、トータル・ワークアウトに通う

こうして再び筋トレジム、トータル・ワークアウトに通うことになった私。勇気ある行動。

だってさ、五十六キロから四十三・五キロまで落ちてゆく経過をある時は厳しく、ある時は励ましながら、 見守り指導し続けてくれたトレーナー達に、ある日突然八・五キロの贅肉ぶら提げて、ど~やって顔出せ るってゆーのヨ。そんな霜降り肉、お歳暮だって言ったって冗談にもならないよ。そもそもプロのトレーナー達 は肉と言ったら鶏のササミしか食わないんだから。

でも、もういいや。だってもう太っちゃったんだから仕方ない。そんなことをウジウジと考えてたら、アッという 間にジムまで着いた。

再び、トータル・ワークアウトのフロントの前に立った私。 今日は十二月十二日、日曜日。オフの私はロングのダウンジャケットに深々と帽子をかぶる。 「うわあ~っ。お久しぶりデス」 たまたまフロント近くにいたトレーナーが私に気づき声をかけた。 「お久しぶりです」 トレーナーは小首を傾げながら私の深々とかぶった帽子の中を覗き込み、顔を確認したい様子。 「?」 不思議な様子。 「!」 デブになった私に気づいた様子。 その瞬間、私は全身から湯気がたつような感覚をおぼえた。 うわあ~ヤダよおっ。リバウンドしちゃって恥ずかしい。またまたおデブになるなんてダラシなあ~い。 素早くチェックインを済まし、ロッカールームヘと逃げ込む私。ど、どうしよ~。予約は入れてある。チェックイ ンも済ませた。来ていることはバレている。トレーナーにおデブな姿もチラリと見せてしまった。ココで逃げ帰っ たところで、「太ったハズカシさゆえ、逃げたんダ」と言われそう。

も~やるしかない。トレーニングウェアに着替えて、「私、このようにデブに戻りました」と醜態をさらすしかナ イ。それに、ココでやらなきゃ、今度は銀座で醜態をさらすハメになる。

イジイジしながら着替え始める私。懐かしのトレーニングウェア。スリムな体にフィットするコギャルが着るよ うなヴォンダッチのチビTに足のラインが出るアバクロの細身のスウェットパンツ。

ココに来始めた頃のモノはブカブカになったことに有頂天になってすべて捨てた。今、コレを着るとど~ゆ ~ことになるんだろうか。それでも締まって見えるようにとりあえず、濃紺のモノを持ってはきたのだが。

うわあっ。ピッチピチ。二の腕がTシャツの半袖口を広げてしまっているっ。このボリュームのある胸は贅肉に 違いない。だってブラジャーが背中の肉に食い込んでいる。太ももはパンパン。

お尻も大きく緩みパンツのデザインを壊しているっ。 ここまでとは、こんなヒドイことになっていたとは……。 だけど、現実から目を逸らしてはイケナイ。今日、ココヘ来てよかったんだ。そう思うことにする。 トレーニングの時間になった。午後一時。このジムは決められたメニューに従ってのパーソナルトレーニング システムできっちり一時間。だからトレーニングは全員一斉に始められる。私はトレーニングフロアの真ん中 に立ち、担当のトレーナーを待った。

パーソナルトレーナーが続々と出てきた。 「うわあ~っお久しぶりです」 私に向かってトレーナー達が次々に声をかけてきた。 「お久しぶりデス。サボっちゃってえ~」 恥ずかしさを隠せない私。 「お忙しかったんですね。じゃ、また頑張りましょう」 ニコやかにその場を立ち去るトレーナー達。 見て見ぬフリ。気がつかないフリしてくれたんだあ。でも、コレはコトが深刻だからだ。チョット太りましたねえ ~とか軽く言えるような状態じゃないからナンダ。プロのトレーナー達はリバウンドしちゃった人を目の前にす ること日常茶飯事だろうからね、きっと。だから、傷口に塩をすり込むような態度をしないように教育受けてるだろうね。

担当のトレーナーがやってきた。小柄で元気な女性トレーナーの岡野さん。 「お久しぶりです。スゴイ久しぶりですよお。忙しかったんですか?」 「それもそうだけど、基本的には怠けてたダケです」 「体重は?」 「五十二キロ。太りました。ごめんなさい」 「分かりました。だけど、基本が分かってるから、スグに取り戻せますよ。リバウンドしたからって、ここに入ら れた時みたくゼロからのスタートじゃありませんから、頑張りましょう!」

そう? そうなの? 不幸中の幸い。ナンダカ光が射した感じ。 トレーニングメニューは基本的にAパターンとBパターンの二つ。すべてダンベル等の重りを上げる筋力トレ ーニングになっている。

Aが上半身を中心に鍛えるのに対してBは下半身中心となっていて、両メニューの最後は違う方式の 腹筋運動で締めくくられる。

一つのメニューは八種目で構成されており、一種目は十八回と十五回の二セットくくり。二セット目は回 数を減らす分、若干重さをプラスするためさらに瞬間的にフンバリを利かせなければならない。

久々の私はAパターンからの再スタート。

冬の冷たく澄んだ空気――トレーニング・パターン

〈トレーニングAパターン〉 1、スクワット

両端に重りをつけた一本の長いダンベルを両肩に担ぎ、太腿が床と平行になるまでゆっくりとしゃがみ、 再び立つ。膝が爪先よりも前に出ないように注意しながら十八回。

自分の限界値に設定された重りを肩にのせてのトレーニングは、一度やり始めたら何も考えずにひたす ら十八回やり終えることだけが目標といった感じ。途中でヨロケたりしたら危ないし、口惜しいし。本当に無 理そうな時にはトレーナーがすかさず手を貸してくれる。だから、安心して出来る限りの力を出す。

十八回やり終えた。ふう~っ。やっている間は呼吸が止まっていた。でも、コレそういえばよくなかったんだ。 そう、呼吸は止めてはイケナイ。頭に酸素が回らなくなり、それが理由で倒れる人もいるのだ。証拠に、ト レーニング中はよくアクビが出る。コレはトレーニングが退屈だあ、とか昨日寝てないっ、とゆーのではなくて、 筋トレは無酸素運動。集中的に筋力を高めるからして、そもそも酸素不足になりがちなのダ。ふう~っ。ま だ、一種目の一セット目を終えただけなのに一気に体が熱くなる。燃焼している感じ。

「大丈夫ですか? 前と同じ重さでやってみましたが」 トレーナーが聞く。 「うん。なんとか出来た。ダケド、前は楽にやってたのにい」 「大丈夫。すぐに慣れますよ。多分、二週間もすれば、元どおりに軽々と上げられますヨ」 トレーナーはいつでもどんな時でも励ましてくれる。前向きで明るく、健康的。爽やかだなあ。 雑談を入れながら一分程の休憩。瞬時に筋肉を休ませた後は、僅かに重りをプラスしてもう一セット。 今度は十五回。もう一セットかよお。

私、ホステスしながらも根性だけは鍛えてましたの。 辛い時、ピンチにはネバリを利かす。 ココでやらなくてはっ。 トレーニングはフォームが肝心。露骨な手抜きはすぐにトレーナーから注意を受けるが、微妙な手抜きは 私が許さないっ。だって、誰のためでもない。自分のためにやってるんだもの。ツラサが極限に達しそうな時、私は敢えて太腿がしっかり床と平行になるように、お尻を深々と下げてみる。

下げたはイイケド、立ち上がれるかが問題。 最大の踏ん張りを利かす瞬間。気を引き締めて、腹筋に力を入れる。お尻と太腿前が鍛えられる種目 とはいっても、体のありとあらゆるところに神経を走らせる。どんな種目であろうが多かれ少なかれ全身が鍛 えられているんだよね。

ほえ~っ。立ち上がれました。

ハイ、十五回終わったヨ。全身の肉に緊張が走ったせいか、あらゆるところから汗が

滲み出るのを感じ にじ

る。使った筋肉がワナワナと震えるのを感じる。あ~、久しぶりに筋トレしてるんだダア、私。

そんな感じでトレーニングは続けられた。

2、レッグプレス

マシンに座り、両足を肩幅に広げてフットプレートに置き、斜め上に向かって押し上げる。膝を柔軟に保 ちながら、90度まで戻す。コレを繰り返す。

3、ロウイング

背筋を伸ばしてマシンに座り、重りをつけたロープを引いたり、戻したりするトレーニング。 腕は常に床と平行で、お腹にグっと力を入れて背中の肩甲骨を意識しながら一気に引き上げる。 戻す時にも負荷を意識しながらゆっくりと、反動でお尻が浮き上がらないように注意する。

4、ラットプルダウン

マシンに座り、頭上に吊るされた重みをつけたロープバーを両肩に乗る位置まで、背筋を使いながら両 腕で引く運動。肘に負担がかからないように注意しながら元の位置に戻し、繰り返す。

5、ペンチプレス

マシンにセットされたバーベルが胸の上の位置にくるようにベンチに仰向けになり、両腕でバーベルを持ち 上げる。地面に足裏をしっかりとつけて、同時に腹筋も使いながら胸の筋肉を鍛える。持ち上がったバー ベルは胸の頂点に当たるまで下ろし、また一気に持ち上げる。

6、ペクトラルフライ

マシンに座り、両腕を真横に伸ばしたあたりにグリップがセットされている重りのついたロープを胸の前まで 引き寄せる運動。両腕を伸ばした状態で、床と平行の高さに保ちながら握ったグリップを胸の前で合わ せ、また戻す。

7、ワンハンドアームカール

片手にダンベルを持ち、肘を固定しながら肩の位置まで振り上げたり下ろしたりする運動。弧を描くよう に繰り返す。

8、スタンディングアームカール

立った状態でバーベルを胸の前に持ち構える。両腕で膝の位置まで振り下げ、アゴの位置まで振り上げ る。腕の筋肉、腹筋を意識しながら繰り返す。

9、腹筋

足のつかない高さにあるマシンに肘をかけ、体を宙に浮かせる。腹筋を使って両膝と胸がつくように勢いを つけて背中を丸め、また元に戻す。コレを繰り返す。

「お疲れ様でしたあ~」 「あ、あんがとぅございましたあ~」

ヨロヨロっ。ボロボロっ。ぜいぜい。し、しんどい。全身の筋肉がプルプル震えてイタ

痒い。 かゆ

「次回の予約を取りましょう」 トレーナーにくっついてフロントに向かう私。 「明日、明日空いてる?」 歩きながらトレーナーの背中に言葉を投げかける。 「おおっ。ヤル気ですねえ」 「だって、こんなにツラクなってるなんて口惜しいっ。早く取り戻したい。ダケド、久しぶりに運動した感じっ。 なんだか気持ちイイっ」

「ええっとお」 予約表を眺めるトレーナー。まだ息の荒い私はフロントのカウンターに片手をつきもたれかかった。が、上 半身がそのカウンターに打ちつけられた。アレ~っそう、いきなり筋肉を使いすぎたせいなのか、腕に力が全 く入らなかったのダ。

「アハハ~大丈夫ですか?」 「ワケないでしょ~お。ヤだな、まったく。おハズカシイ」 思いがけない現象。ダケド、やっぱコレだ。たった一度のトレーニングは怠惰にしていた筋肉に電流を走ら せた。私の背筋はぴんっと張り、体も軽く、過去の記憶を体に思い出させた感じであった。この爽やかさを 味わいたくて、このツラサに再び打ち勝ちたくて、私はせっせと予約を入れた。

「プロテイン。プロテイン飲んでってください」 「あ、そうね。そうだったね」 筋トレ後は二十分以内にタンパク質を摂取することを薦められている。傷ついた筋肉に栄養を与えて、 柔らかくしなやかな筋肉を大きく育て上げようというワケなのである。食物から摂るのが最もいいのだが、ハ ードなトレーニングの後すぐに食事を摂れるのは食いしん坊の私くらいらしい。だが、そんな私も久々のこと とあって、まだ呼吸も整わない状態。プロテインジュースを飲むとしよう。

トータル・ワークアウトにはプロテインバーがある。プロテインジュース他、低カロリー、高タンパク質のフードメ ニューが数種類用意されており、トレーニングを終えた人達はヨロヨロっとしながらプロテインを求めてそのカ ウンターバーに集まり休息をする。 私もヨロけながら寄っていった。 会社員やOL、主婦、プロ野球選手や格闘家、モデルに女優、俳優、何をしているのかワカラナイ人 達。トータル・ワークアウトは一般的なジムだが、ホントにいろんな人達が来ている。それぞれの目的に応じ て、確かな手応えを得られる場所。他人を気にせず自分のため訪れる場所。

そんなストイックなムードがイイのだ。 ルームそのものが透明な水で満たされたように、空気が澄んでいる。 気圧が高い気がする。 きっとここは、特別な場所なのだ。 私は久しぶりに特別な場所に来て、いろいろな人を見た。ここ最近、気がつくと銀座にいて、目的が銀 座にある人達ばかりに囲まれていた。そんな銀座の空気は研ぎ澄まされている。だけど、それは敢えて創ら れた空気なのかな。それはそれで、素敵なのだけれど。美しいのだけど。流れる空気の違いが新鮮に感じ た休日の一瞬だった。

十二月十三日、トレーニング二日目。 今日は月曜日。平日だ。銀座だ。同伴だ。夜の長いホステスにとって、早起きは三文の損。逆算してギ リギリの時間に予約を入れてある。

同伴の待ち合わせは日比谷の帝国ホテルに六時半。 年末は道が混む。自宅から銀座まで四十分はみておこう。新橋にある美容室には五時四十五分に入 ったほうがいい。今日は着物。一度家に帰ってから仕度をしよう。ホステス御用達の美容室はセットのみだ からして、髪も洗っていかなければならない。シャワー、メイク、着付け、一時間半はみておかなければ。大 体三時半には一度帰宅かあ。

家からジムまではタクシーで十五分程度。 私の銀座生活に筋トレジムを入れるとすると、平日は二時から、ということになる。 一度家に戻ることから、セーターにジーンズ、ダウンのロングコートを羽織り、ノーメイクに帽子を深々とか ぶり、ま、昨日と同じか。

違うのは、病気かと思うようなウルトラ筋肉痛を抱えているということ。 朝、起きた時は体が動かせなくて、「あ、コレがかの有名な金縛りとゆーヤツかっ」と思ったが、違った。 イテテテッ、イテテテッ。アッ、痛っ。オ~痛っ。何をするのにもこんな感じでトータル・ワークアウトに辿り着い た。

〈トレーニングBパターン〉 1、リアランジ

マシンにセットされたバーベルに寄っかかりながら、両足を前方に出し、体を斜めに固定する。 この姿勢で、片足ずつ膝から前に蹴り上げ、また元の位置に戻す。

2、スティッフデッドリフト

膝の位置にセットされたバーベルを前傾姿勢で両手で握り構える。そこから背中を反らせるように、両腕 は伸ばしたままで持ち上げる。お尻を突き出すようにしながら元の位置に戻す。

3、レッグカール

マシンにうつぶせで寝転び、前方に備えつけられているグリップを両手で握る。両足首辺りにセットされて

いる重りのついたバーを足首の後ろ側に固定し、腿裏とお尻の筋肉を使って、両

かかと 踵がお尻につくまで引き 上げ、ゆっくりと元の位置に戻す。

4、リアレイズ

両手にダンベルを持ち、両足を伸ばしたまま前傾姿勢になる。両肘が肩と平行になるように勢いをつけ て垂直に曲げる。

5、サイドレイズ

立った姿勢で体の前で腕を伸ばした状態でダンベルを持つ。前から見て、握られたダンベルによって両肩 が隠れるように、床と平行になることを意識しながら肘から持ち上げ、また戻す。

6、シュラッグ

両手を肩の広さくらいに保ち、マシンにセットされたバーベルを握る。腕は伸ばしたまま、立った姿勢で両 肩のみを引き上げるようにしてバーベルを持ち上げ、ゆっくりと元の位置まで下ろす。

7、プレスダウン

立った姿勢で、目の前に吊るされた重りをつけたロープの先端にあるグリップを両手で握る。 勢いをつけて、両腕が体の前で真っ直ぐになるまで引き下げ、またゆっくりと戻す。

8、ワンハンドプレスダウン

プレスダウンのトレーニングを片手ずつ行うもの。

9、腹筋

重りがつけられたマシンのロープの前に膝をつき、両手で握る。ロープを抱え込むように背中を丸め、また 背中を真っ直ぐになるまで戻す。

筋肉痛を背負ってのトレーニングが終わる。 トレーナーのカツ入れの勢いにノッて最後までやり果たせたといった感じ。体はど~なっちゃったんだろう。 もう、感覚がないヨ。だけど、こんな思いをしたら……食べてなるもんかっ。酒も筋肉に悪いのでしょーっ。飲 んでなるもんかっ。この苦労を水の泡にしてしまうなんて、勿体ない。ジョーダンじゃない。

でも、私、飲むのが仕事なんだよね。 私の仕事は女優じゃないのヨ。ホステスなのヨ。困ったわねえ。プロテインジュースを飲みながら、じと~っと 考える私。

おっ、いけない。早く帰らなきゃ。今日は銀座だ。同伴だ。ジムのあるビルを後にし、道路に出てタクシー を拾おうとする私。

ほて 火照った頬を引き締めるような、冬の冷たく澄んだ空気が心地よく感じた時、私は何気なく空を見上げ た。ビルの谷間から晴れやかな太陽が顔を出す。

あ、明るい。久しぶりダナ、こんな健康的な陽の光と青い空は。 鼻に抜ける風を意識してみる。清々しい。 昨日も今日来る時も、あれやこれやビクビクすることが多くて、気づかなかったなあ。今度の休日はゆっく り昼間の街を歩いてみたいナ。

カミング・アウト――言いたい放題に言えるようになった

昼から筋トレをして体力を使ったその夜、私はいつもより元気だった。運動をして、細胞の一つ一つが芯 から叩き起こされたのだろうか。冬眠から目が覚めて私の体は春を迎えた感じ。頭もスッキリしている。よお ~っし、やるゾ! という気になってる。

夜六時半、帝国ホテル「なだ万」。私は予定どおり同伴に滑り込んだ。 「今日ねえ、久しぶりに筋トレ行ったんですよお~」 「れみちゃんが筋トレ? エライなあ~、似合わないなあ~」 「以前ね、すごいやってた時期があるんですよ。ずっとご無沙汰してたら太っちゃって。で、また行き始めた んです」

「どこ行ってるの?」 「渋谷にあるトータル・ワークアウトです」 「ああ。有名だよね。ケビン山崎だろ?」 「うん、そうそう」 「すごいツライんだろう?」 「うん、まあ。だけどね、パーソナルトレーナーがその人それぞれに合わせて重さを調整してくれるから、出 来ないってことはないんですよ。何も考えずに必死でやっちゃう。でね、終わった後すごく気持ちいいの。元 気になるんです。体力もつきますしね。だからまた行こうって思います」

「じゃ、食事ヤバイじゃん。酒もよくないよ」 「あら、よくご存知ですね」

「筋トレはちょっとしたブームだからね。それくらいのことは知ってるよ。鶏のササミと野菜しか食わないんだ ろ?」

「ソコまでじゃないですよ。脂と糖分がダメなんですけど、魚の脂はよかったり。でも最初の三週間は食事 制限もキッチリすることを薦められるので、私もやりましたけど、その後は出来なかった。あんまりガマンしちゃ うとストレスになるんですよね。でもその後もちゃんと痩せ続けましたヨ。それに比べたら最近は暴飲暴食し ちゃってダイエットのダの字もなかった。それ、健康にも悪いですよね。でも、前みたく三週間の食事制限を するつもり、今はないんです。人生長いから、ずっと続けていかれないと意味がナイ気がして。筋トレも今は 再開したばかりだから週に三回行きますけど、しばらくしたら、二回か一回でもイイカナって。とにかくやり続 けることが大切なんだって」

「うん。それはそうかもしれないね。じゃ、何を食べようか? ササミあるカナ」 「まあ、やだ。気にしないでください。何でもいただきますから」 「いや、ササミは冗談だけど、僕も日頃、暴飲暴食だから気をつけたほうがいいんだよね」 メニューを広げる私達。 「しゃぶしゃぶにしようか? で、野菜を沢山食べるってどう?」 「いいですね。そうしましょう」 「酒は?」 「いただきます。最初の一杯くらいいいですよね」 「焼酎か?」 「うん。だけどね、トレーナーに聞いたんですけど〝筋肉〟という意味ではお酒は何を飲んでも同じなんで すって。お酒は脳を錯乱させるから、筋肉を維持しようとする神経をお休みさせてしまうって言ってたわ。だ からお好きなモノをほどほどにいただくのがいいと思います。だけど、焼酎は蒸留酒で低カロリーだから、私は そうしようカナ。いつもどこかで〝私はダイエットしてるの〟っていう意識が大切なんだと思うの。私、気がつく とそれをパッタリ止めて暴飲暴食しちゃってる。結局極端すぎて水の泡にしてしまうのよね。だから、ガマンも ほどほど。楽しくなくっちゃね」

「僕は一杯目はビール。本当はいつも二、三杯はビールなんだけど、今日はその後は焼酎にする。(お店 の人に向かって)太らないビールと筋肉を強化する焼酎お願いします」

「きゃあ~やだあ~」 お店の人も私達の会話の想像がつくらしく、笑顔でオーダーを受ける。 「あとさ、しゃぶしゃぶ、ヘルシーだよね」 「ハイ。ヘルシーですっ」 お店の人が答える。 なんだか私達って無邪気でカワイイっ。筋トレを再開した私は、開口いちばん、自分の興味の赴くままダ イエットの話をしたけど、結構この話題、相手も興味があったのカナ。話しちゃってよかったナ。

「せっかくのお食事なのに気を遣わせちゃってごめんなさいね」 「そんなことないよ。楽しいよ。でも、今は皆多かれ少なかれ、自分の健康のコト、気にしてると思うよ。だ からそういう情報、皆興味あると思うよ。知った上でするもしないも自由なんだからね」

私は無言でうなずいたのだった。ダイエットの話をしてよかった、と思った。 十二月十四日、朝。体重計に乗る。一キロ減。やった! 嬉しい。でも、そんな気がしていた。 筋トレ二回。夕食はしゃぶしゃぶ。お酒もダイエットをしている意識からお店でもホドホドにした。お腹が空 くアフターではおでんをつまんだけど、大根とこんにゃくにした。それだけで背中とウエストあたりがすでにスッキ リしていた。ちょっとした心掛けなんだよなあ。

次の筋トレは二日後。行くのが楽しみっ。早く行きたいくらい。どうして今までこんなにサボッちゃってたんだ ろう。やっぱり、ダイエットって意識だよなあ。それも前向きな意識。楽しむ意識。

夜の銀座。私はお客サマに向かって話す。 「コンバンハ~。いらっしゃいませ~。ねえ聞いて、聞いて。私ね、筋トレやり始めたんです。前にやってたんですけど、お休みしてたら太っちゃってまた。でね、まだ二回なんだけど、今日体重計に乗ったら一キロ減 ってたのお~! きゃあ~、嬉しい~っ」

「マジ、マジ? ドンペリ開けたげようか?」 「うれしい~っ。お願いしまあす」 ガマンは禁物。皆で飲めば一本もアッという間。私が飲むのは実質一、二杯。隣に座っていた大ママもド ンペリが開いて喜んでいる。

「あら~、れみちゃんエライじゃない。朝、行ってるの? 週に何回行くの?」 大ママが私に聞く。 「今は週に二、三回行こうと思ってマス。無理すると続かないから、そのうち一、二回。だけどね、なんだ かリフレッシュされて、とても気持ちいいんですよ」

「私も行こうカナ。それどこにあるの?」 お仲間ホステスが興味ありげに聞いてくる。 「俺も行ってるよ。スポーツジム。この体じゃ説得力ないけど、行くと行かないとじゃ全然違うと思う」 皆、話にノッてきた。この話題やっぱりイケる。 十二月十五日。朝、といっても昼近く。体重変わらず。昨夜のアフターは食事をガマンして早めに切り 上げた。お腹が減っている。なんだか白いごはんが食べたいよお。ごはんは糖分だからよくないんだよなあ。 でも、うん、食べよう。ガマンは禁物。朝食だし、夜の同伴でパンや米等の炭水化物をキッパリ断ろう。ダイ エットしてるって言えばいいんだ。

焼き魚にお味噌汁、お漬物に納豆、そして白いごはんをたっぷり一膳。一食を満足いくように食べて、同 伴の夕食までは何も食べないでいこう。お腹が空いたらダイエットコーラだ。

その日の同伴はとある一部上場会社の会長を含むお客サマ四名に私達ホステス二名。銀座の料亭に てふぐ懐石が最初から用意されていた。ふぐか。ヤッタ。魚じゃん。でも懐石かあ。危険。

唐揚げ出てくるな、きっと。だけど、この会長に、「私、筋トレしててえ~、ダイエット中でえ~……」という のはど~かね。

お品書きが配られる。てっさ、煮こごり、白子の茶碗蒸し、白子焼き、ふぐ焼き、ふぐの唐揚げ、締めくく りがふぐ雑炊。相変わらずスンゴイ品数ダネ、懐石とゆーやつは。

てっさが出てきた。すんごい量。 「コ、コレ一人前ですか?」 思わず聞いてしまうほどの量なのだ。三人前か? 「ハイ。お一人様分でございます」 仲居さんが答える。 「うわあ~(あちゃ~)、贅沢ですねえ。いただきまあす。美味し~い。美味し~い。(確かに美味しい)」 「ちょっと量多いな。れみ、私の分も食べるか?」 「あ、け、結構です。会長。あまり欲張ると、続きが食べられなくなっちゃうかもしれませんのでえ」 「おお、そうだな。(仲居さんに向かって)下げてくれ」 ず、ずるい~。 何だかんだ言いながら、てっさは全部平らげた。 煮こごりは完食せずに端に寄せておこう。 お次は白子の茶碗蒸し。 「何コレ~。すごく美味しいっ(ホント)」 ふぐの身がゴロゴロと入った茶碗蒸しの上にはふっくらと蒸された白子、さらにその上にふぐのダシで作られ

た醤油風味の餡ダレがかかっている。炊き合わせを入れるような大きなお茶碗サイズの茶碗蒸しを私はア あんッという間に全部平らげてしまった。と、気づいたらお腹がいっぱい。

着物の帯がくるしいよお~。

でも、ダイエット三日目にして、すでに以前より食べる量が落ちてるみたいだ。心構えか、気のせいか。ホ ントに満腹、満足。

だが、困ったことに白子焼きから、私はどうにもこうにも箸が進まなくなってしまった。 「れみ、どうした? 今日はヤケに少食じゃないか?」 「え、ええ。あのお~。実は私、こないだの日曜日から筋トレ始めたんです。前にもやってたんですけど、お 休みしてたら太ってしまって。お客サマにも言われたものですから。で、お食事も少しばかり気をつけるように してたら、なんだかその気になってるのカナ。ちょっとお腹がいっぱいにい……」

「今、何キロだ?」 「えっ。言いたくないんですけどお。一キロ落ちて五十一キロです」 「女性はあまり痩せすぎないほうがいいぞ。で、何キロ落とすつもり?」 「四十八か、九くらいまで」 「うん、そのくらいがいいヨ。じゃあ、あと、二キロ。クリスマスまでに落とせたら、お祝いにクリスマスプレゼント をあげよう」

「うわあ~本当ですかあ」 曇っていた私の表情は一気に明るくなった(だろう)。 「れみちゃん、スゴイじゃない。頑張ってヨ」 お仲間ホステスが言う。 「おう、じゃ、その白子焼き俺が食べてやるヨ」 会長の横に座っていたお客サマが私の白子を引き受けてくれた。 「じゃ、れみちゃんは、ワインやめて焼酎にしなさい」 もう一人のお客サマも言う。皆、ナンテ優しいのっ。涙がチョチョギレるよお。 「で、何が欲しい? 何でもいいよ。言いなさい」 会長が私に聞く。 「じゃ、ね。クリスマスイブ、二十四日の日、同じメンバーでお食事に行きたいです」 一同シ~ン、と静まり返る。 「あ、すみません。そんな大切な日、無理ですよね」 焦って言い直す私。 「分かった。約束だからな。空けよう。皆はどうだ?」 「私は大丈夫デス」 お仲間ホステスが言う。そりゃ、そうだ。その日の同伴は難しい。そんな日に同伴してくるなんて、ホステス の鑑ダヨ。

「仕方ないなあ。空けときますヨ」 他のお客サマも全員OKしてくれた。 この話は、お店中ですぐに有名になった。 「れみちゃん、ダイエットしてるんだって? 何キロ落とすの?」 あるお客サマが他の席に向かう私に声をかけた。 「やだあ。ナンデ知ってるの? クリスマスまでに二キロです」 「えっ。そうなの? どうやって?」 その隣の席のお客サマが連鎖反応のように私に聞いた。 「筋トレっ」 「れみちゃん、大丈夫かよお~」 「出来んのかい?」 「頑張って~!」 周囲のお客サマが、ホステスと一緒になって私に声をかけてくる。 「カンバリまあ~す」

こうして、私のダイエットは周知の事実となった。 十二月十六日。 ジムの日。 夜の銀座に余裕をもって、午後一時の予約。午前十一時、私は体重計に乗った。五十・五キロ。 五百グラム減った。ヤッタ。トレーナーに体重を報告。 「順調ですね。その調子ですヨ。頑張りましょう」 「クリスマスイブまでに四十九キロを切るって賭けをしてるの。何とかして」 「クリスマスイブ? あと、一週間ですね。約二キロかあ。筋トレの後に、トレッドミルで少し走ったらどうで すか?」

「走るの苦手。長く続けられないことはしたくナイ。やらなくなったら太っちゃうでしょ?」 「じゃあ、帰り道、少し早足で散歩してみてくださいよ。れみさんご自宅目黒でしょ? 代官山あたりだっ たら、気分よく歩けたりするんじゃないですか?」

故意に歩くのは苦手だけど、買い物好きな私。 お店をウロウロして、気がつくと結構歩いたあ~ってことよくある。 「ああ、いいかもしれない。やってみる」 午後二時、ジムを後にし、私は渋谷から代官山方面に向かって歩き始めた。 この間もチラッと思ったけど、昼間の街の空気、やわらかな陽射し、気持ちいい。国道二四六をまたぎ旧 山手通りに入る。教会、大使館、お洒落な家具屋、閑静に整えられた景観。私はボンヤリと眺めなが ら、少しばかり早足で散歩する。

しばらく行くと代官山のカフェ、レストラン、ブティック等が現れて賑わってくる。 花屋の外にはポインセチア。 ああ、クリスマスだなあ。 花屋から一人の女店員が出てきた。二十三、四歳か。髪の毛を無造作に後ろで束ねて、ジーンズに古 着のようなトレーナーを腕まで捲りエプロンをしている。ナチュラルな女。片手にはシャベル。外に置いてあっ た売り物の植木の土を柔らかくほぐし始めた。ナチュラルな動き。私は立ち止まり、その姿をぼんやり眺め た。

「今日は。いいお天気ですね。ポインセチア、ですか? これ、とてもバランスがいいんですよ。昨日入った ばかりです」

ナチュラルな会話。 「キレイですねえ。でも、家近いのでチョット考えてからまた来ます」 「お待ちしてます」 ナチュラルな笑顔。ほとんどノーメイクだけど、それがヤケに美しい。 ハリウッドランチマーケット。懐かしい。中に入ってみよう。 山積みにされたTシャツにジーンズ。天井から吊るされた古着。アンティーク調のウッドのショーケースには ごついシルバーのアクセサリー。銀座のホステスには無縁の品々。お店の商品をそのまま身につけたような 男の従業員達は何も話さず、無言で服を畳んでいる。お客に対して無愛想というワケでもなく、無関心。 好きなモノが見つかったら声をかけてね、という気楽さがいい。ナチュラルなスタイル。

旧山手通りを歩き終えた私。 そういえば左に曲がるとシェ・リュイ(パン屋)があったな。以前、私はパン党だった。でも、今は別にパンが 食べたいわけでない。ナチュラルな行動を起こしてみたくなったのだ。

シェ・リュイに入る。目の前には沢山の種類のパンが並ぶ。プライスカードには一つ一つパンの説明が書か れている。どれにしよう? いつ食べるの? うちの母は食べるカナ。十分くらいかけてパンを三つ、四つ選ん だ。

「八百三十円です」 パンの袋を持ち、おつりをもらった。レジの後ろの鏡に映っている自分の姿に気づいた。深々とかぶった帽子に黒いダウンのロングコート姿、片腕に抱えたパンの袋。コレはナチュラルな女、だろうか?

何気ない日常がとても新鮮に感じた帰り道。私はそんな小さなことに幸せを感じながらタクシーを拾っ た。ワンメーター。ずいぶん歩いたからダナ。一石二鳥。これもまた小さな幸せ。

家のテーブルにパンをパサッと置くと、母がいた。 「あ、コレ食べて」 「あら、パン? 嬉しいわ。シェ・リュイは美味しいんだけど中途半端な位置にあるから、ナカナカ行けない のよね。明日の朝楽しみに食べるわ。ありがとう」

母が思いのほか喜んだ。不規則生活を送る私とは対照的に規則正しい生活を送る母。そういえば、親 孝行してないなあ。私は自分勝手に生きているからね。でも、こんなに喜んでくれるナンテ、なんだか嬉し い。また買ってこよう。

銀座の仕度に取りかかる私。散歩してたらいつもより時間がなくなってしまった。 洗いざらしの髪、薄暗い夜の光に映えるメイク、携帯電話で今日の来店するお客サマの報告をお店に 入れながら着物を着る。帯を結ぶ。手帳、財布、名刺、扇子に香水、化粧ポーチ、銀座で必要なアイテ ムをバッグにドサッと押し込んで、迎えのタクシーに飛び乗る私。

生乾きの髪に指を入れながら、営業の電話をかける。こうして銀座の女に変身していくんだなあ、と私は 上の空で感じていた。

私の〝ダイエットの賭け〟が周知されたことにより、同伴、店内、アフターは俄然ラクになった。 「食べるな、飲むな」 皆、協力的。 「ええっ。チョットは食べさせてよ。シャンパン飲ませてよ」 お客サマと私は言うことが逆転。他のホステスとの間で賭けをするお客サマまで出てきた。 私の顔を見るなり開口いちばん、挨拶は、「今、何キロ?」 ダイエットの話で盛り上がる。今日アレ食べた。でも、今日はもう食べないで寝る、お腹が空いたからまっ すぐ帰って寝る、私は言いたい放題に言えるようになった。

「明日はジムか? 寝ろ寝ろ。そのほうがいい」 おつまみでピーナッツが出てくると、「れみが食べちゃうとイケナイから下げて」 お客サマが黒服に言うと一同爆笑。ダイエットは明るく、楽しい行為だ。 十二月十七日。体重変わらず。 十二月十八日、土曜日。休日。五十キロ。ヤッタ! ジムヘ向かい、いつもと同じようにトレーニングをす る。トレーナーに体重を告げる私。

「やりましたね~。エライっ。アゴのラインがシャープになってきましたよ」 励ましの一言。 「最後の腹筋、三十回に増やしましょう。今なら出来ますよ」 「そうだね。腹筋だったら、最後だしこれからもその回数でやってけるかも。でも、それ以上はいいや。どん どんツラクなってココヘ来るのが苦痛になっちゃうと困るから」

「そうですね。それに、女性の場合重さを上げればいいってもんじゃないですから。男性なら筋肉を肥大 化させることを目的としますけど、女性の場合はスリムになるのが目的の方が多いから脂肪を燃焼させる ギリギリの重さで止めないと。軽めにして回数のほうを多めにするのも効果的なんですよ」

「うん。ねえ、明日も来ようかなあ」 「明日はお休みしてください。筋肉は傷つくと約四十八時間かけて修復されて、前よりももっと大きくなろ うとするんです。超回復っていうんですけど、その繰り返しがいちばん効果的なんですよ。だから二、三日お きがホントはいちばんいいんです。あと、お家に帰ったら筋肉の疲れをとる意味で、ストレッチをしてあげてく ださい。健康で柔らかな筋肉を作ることが大切ですヨ」

そういえば、そうだったなあ。トレーナー達はインターバルの雑談でいろいろな知識を授けてくれる。過去に も言われたことがあったが、同じことを繰り返し言われることで、こちらもそうだった、そうだった、と理解が深くなり、再び、三度そのとおりやってみる。それが習慣というものになるのだろう。

今日は休日。時間を気にせずに代官山をブラブラしよう。 今は、それが私の密かな楽しみになっている。 十二月十九日、日曜日。五十キロ。変わらずかあ。 ホステスの休日は寂しい。日頃の忙しさとは対照的に予定がないのだ。ジムからも今日は休めと言われ た。今日は何をしよう。本でも読んでノンビリ過ごすとするか。

昼近く、私は朝食兼で焼き魚に納豆、お漬物、お味噌汁に白いごはんを二膳を平らげて母に聞く。 「今日の夕食何食べる?」 「そうねえ。お鍋にする? しゃぶしゃぶ? 魚とか野菜も沢山いれれば太らないし、満足感あるでしょ」 「うん、そうだね」 最近は夜までに一食の食習慣がついていた。量を気にしながら、何を食べればいいのかを考えながらの 中途半端な二食なら、満足のいく一食がいいと自分で決め込んだ。

だから、私は一食目で大好きな白いごはんを沢山食べる。でもそれを口にするのは朝食だけ。 夜の炭水化物は太る気がしてならない。人それぞれだと思うが。 十二月二十日、月曜日。五十・五キロ。ふ、増えたあ。ナ、ナゼっ!? 昨日動かなかったからダヨお。その 日、ウチのお店はクリスマスパーティ初日だというのに私は一日暗かった。同伴の約束をしているお客サマに 電話。

「あのねえ。ちょっと今日のレストラン、場所変えてもらえる?」 クリスマス気分に合わせて、フレンチのロオジエが予約されていた。 「体重増えたのか?」 ツーカーのお客サマ。 「そうなのお」 「ワカッタよ。この時期混んでるから、どこが取れるかな? 和食がいいんだろ?」 「そうね」 和食の京ふじのカウンターに予約が取れた。同伴ディナーの間中、私はウジウジ。 「あ~ヤバイ、ヤバイ」 「れみちゃん、焦るな、焦るな。ダイエットの合間にはそんなことあるよ。その後ガクっと落ちたりもするよ」 確かにそうだ。そんなに食べてないのに体重って一時的にハネ上がることがある。明日に賭けよう、明日 に。しかし、レストラン変更させて、食事中はクヨクヨして。京ふじの板前さんを前に失礼極まりないよなあ ~、と思っていたらそうでもなかった。

「れみさん、今、美味しい焼き魚ご用意してますからね。魚だったら大丈夫でしょ。あとね、白菜鍋。今、 白菜時季ですからとっても美味しいですよ。全部食べても絶対大丈夫! 明日は絶対痩せてますヨ」

い、板さんマデ、あ、ありがとう! 「えっ? ナンデ知ってるの?」 「れみさんが来る前にね、(同伴の)お客さんから聞いてたんですヨ。私もその賭け応援してますよ。もし、 れみさんが賭けに勝ったら、年末にお正月用の黒豆お届けします」

「わあ~。ありがとうございます。なんだか私、失礼だよね。こんなに美味しい料理屋さんに来て、こんな 話してて」

「いいえ。でもね、基本的に体にいいものは太りませんよ。体に変に残りませんから。和食は油も使わな いし、ダシも昆布と鰹でしょ。健康のためにも量はあまり減らさずにキッチリとキレイなものを極力食べる。ご 自宅でもそうした食習慣がいいですよ」

「うん、そうですよね。ダイエットは一時で終わることじゃないですものね。なんだかヤル気が出てきました。 頑張りますっ」

銀座の人達ってナンテ優しいのっ。ウルウルっ。 十二月二十一日、火曜日。五十キロ。ホッ。待ちきれないような心境でジムに向かう私。

「体重、昨日五百グラム増えて、今日減って、変わらず。もう時間ナイんだけど」 「でも、とりあえずあと、一キロでいいんですよね?」 「その一キロが減らないんだよお。五十キロの壁ってどーしてこんなにもブ厚いの? 「皆さん、そう仰います。だけど、前は落ちたんですから、出来ますって。とにかく頑張りましょう」 「あい」 「あと、どうせトレーニングするならサウナパンツはいたらどうですか? 今、冬だし、汗かきにくいですよね。 体が早く温まって燃焼率高まりますよ」

「ねえ、明日来ていい?」 「う~ん、パターンが変わりますから、ま、いいでしょう」 夜の銀座。クリスマスパーティ二日目。私は今日も京ふじをお客サマにねだった。 「えっ! 今から店変えるの?」 「そうだよ。やってみて」 無理を利かせる。明日も変えとかなきゃいかんなあ。私としたことが。

「今日の魚はね、笹牒です。あと、野菜をたっぷり入れた湯豆腐用意しておきました」

「ありがとう~。ねえ、板さん、明日もお願い。六時半ね」 「おいおい、目の前で違う客との予約入れんなよお。しかも同じ店かい。今日はって、昨日も来てん の?」

「そうそう。今、賭けの最中だから。ごめんね」 お店に行くと、賭けをした時に一緒にいたお仲間ホステスが、私に向かって両手を合わせ祈りながら近づ いてきた。

「れみちゃん、ダイエット順調? 頑張ってね。期待してるから。二十四日、二十四日ヨ」 「ワカッテル、ワカッテル」 この女の目的は同伴ナンダヨ。それもワカッテル、ワカッテル。

銀座は皆で夢を見ながら楽しく遊ぶところ

十二月二十二日、水曜日。四十九・五キロ。ヒャッホ~っお客サマありがとう。京ふじの板さんありがと う。お陰様で四十キロ台に再び返り咲きました私。

サウナパンツを持ってジムに行く。 確かに。汗の出方が違う。下半身だけなのに、額から汗が流れ落ちてくる。上半身は半袖のTシャツだ から息苦しくもない。どうせやるんならコレがいいかもしれない。

夜、お店に賭けの相手、会長が来た。席に呼ばれ、私は会長の横に座る。 「どうだ、調子は。物事はすべて順調に進んでいるか」 秘密の取引でもしているような言い方。 「やだあ~。会長ったら」 「ハハハハハ。れみちゃん、どうだい、痩せたかい?」 「四十九・五キロです」 「すごお~い! もうすぐじゃない、れみちゃん!」 テーブルを囲むお仲間ホステス達から歓声が上がった。 「ほ~う。頑張ってるね。こりゃ、本当に二十四日空けなきゃならんな」 「はい。でもね、いいですよ。なんだか、最近楽しくなっちゃって、そんな大切な日にご無理は言いません」 「いや、私は一度した約束は守る性質なんだ」 スバラシイ。

その日、私にトラブルが起きた。それは同伴に関することだった。私はその日の同伴のお客サマの他にもう 一人、同伴の約束をしていた人がいたのだ。私が銀座に入った当初から可愛がってくれ、ファミリーに加え てくれたパパ。その約束をしたのはずっと以前のことだった。

それを私は覚えていたのだけれど、パパからはずっと連絡がなかったので敢えて、忙しい年末に負担をか けてはいけないな、とそのままにしておいてしまった。

お店の終わり頃、アフターの約束を一件した時にパパからお店に連絡が入った。事務のオバサンが慌て て接客中の私にその内容を伝えにきた。 「れみちゃん、大変。すごいお怒りよ」 「えっ? どうして」 ピンとくる私。 「私ね、確かに約束したんだけど、ずっと連絡がなかったから、お忙しいんだと思ってそのままにしてしまった の」

「そうよね。わかるわ。私もそう言ったんだけど、耳をかさないくらいお怒りなの。あの方は長いことずっと銀 座で飲まれている方でプライドもおありだから、傷ついたんじゃないかしら。とにかく今は、謝り続けるしかない わ」

「今、どちらに?」 「六本木の水曜日の朝ですって」 「分かりました。後で伺いますと伝えてくれる?」 アフターを一件抱えている。その後か。朝になるな。そんなに怒っているのか。 アフター一件、事情を話し手短に終えた。年末の銀座、並木通りのど真ん中。タクシーが拾えない。う ~ん、ヤバイな。パパが怒っている。気が気じゃない。急がないと。じっとしてても拾えないだろう。歩くしかな い。草履の足で、並木通りから帝国ホテルを過ぎて霞が関まで走った。

息があがる。寒い。 でも、トレーニングで鍛えられているのかな、大切なパパが怒っているから意識がどっかに飛んでいるのか な、私は草履で走り続けた。

やっとのことでタクシーが拾えた。 「六本木まで。道混んでる? 飯倉片町を抜けていってね」 タクシーを降り、水曜日の朝に駆け込んだ。着物の胸元にしまってあった時計を取り出し見る。 二時四十分。遅くなったな。でも、やっとだ。パパは友人の男性二人と、他の店のホステス五、六人で座 っていた。

「今日は、本当にすみませんでした。本当にご迷惑をかけてごめんなさい」 「オマエっ、何様のつもりだ。約束しただろっ。オマエ、あの時自分から言ったんだぞ。パーティ期間中のノ ルマがあるんだろうな、と思って都合をつけた上に周りまで誘っといたんだぞ。俺の顔に泥を塗る気か! え っ」

物凄い勢いで怒鳴られた。賑やかなお店の中がシンと静まり返る。周囲のお客の視線が私の背中に刺 さるのを感じる。

「す、すみません。そんなつもりじゃなかったんです。お忙しいんじゃないかと、それを催促してはイケナイと」 周りなんてどうでもいい。私は震えながら必死に言い訳をした。 男性に怒鳴られたのは何年ぶりだろう。過去にそんなことがあったかどうかも分からない。とにかく怖くて震 えが止まらない。

「どうして、一本の電話もしてこない。そんないい加減な仕事をするんなら、銀座のホステスは勤まらな い。オマエはクビだ」

私にも言いたいことはあった。でも、こんなに怒らせてしまったことに変わりはナイ。パパの顔に泥を塗ってし まったことに変わりはナイのだ。とにかく申し訳ナイ。ショックで涙が止まらない。

ク、クビか。それも仕方ない。でも明日からどうしよう。ホステスに失敗は許されない。なんの強みもナイ職業だ、ということを実感し、私は情けないのか何なのか、ひどく落ち込んだ。

「す、すみません。私、お話聞いてもらえないと思ったので、お手紙書いてきました。読んでいただけないか とは思いますが、ここに置かせていただきます」

私はお店を出る時に慌てて書いたお詫びのクリスマスカードをテーブルの上に置いた。 「今日はこれで失礼します」 頭を深々と下げる。涙がポタポタと床に落ちる。 「座りなさい。もうイイから座りなさい」 パパは私を引き止めてくれた。パパの隣に座っていた他のお店のホステスが席を空け、私はソコに座っ た。

「れみ、もうこんなことをしてはイケナイよ。気遣いだろうが、勘違いだろうが、銀座のお客はね、約束した ことは余程のことがない限り皆アタマに入れてるんだ。君達ホステスがいかにノルマを抱えていて大変かって ことも想像がついていて、それをオマエ達があのテこのテで騙してくることも可愛くてしょうがないんだよ。だか らね、男だって騙されてやろうって思うんだよ。イイ客は変に口説いたりもしないだろう? 俺だって普段エッ チな話はするけれど、手は出してないだろう。銀座は皆で夢を見ながら楽しく遊ぶところなんだ。そうじゃな い、わかってない最近の客が金も出さずにホテルに誘ったり、約束すっぽかしたりするんだ。そんな奴等は 相手にしないほうがいい。れみはこれからだから銀座の客をもっと勉強しなくてはいけないよ。オマエが約束 をすっぽかして、お客の夢を壊してはいけないんだヨ」

私は涙が止まらなかった。その言葉がとても温かくて。優しくて。 「ごめんなさい。ごめんなさい。パパ、本当にごめんなさい」 パパは私にハンカチを貸してくれた。 「コラ、泣き止め、れみ。オマエが泣いていると、俺は女泣かしてる最低のお客になっちゃうじゃないかっ」 「やだ。パパ。グスン」 あたりが和やかな空気に変わってきたのを私は感じていた。 十二月二十三日。木曜日。祝日の休日。昨夜はいろいろなことがあった。泣き疲れた後の脱力感を 引きずりながら何も食べずに夕方を迎える。私はトボトボと体重計に向かい、乗ってみた。

四十八・五キロ。 エッ!? 四十八・五? スゴイ、スゴイ! 昨日から一気に一キロ落ちた。うわあ~い! 目的達成? ヤッタ! ヤッタ! 昨日のトラブルのお 陰? だとしたら今日は慎重に過ごさなければ。普通に食事を摂って、どこでもいいから外出をしよう。そう だ、明日のお客サマに渡すプレゼント、今から探しに行こうカナ。そんなことを考えていたら、思いがけず母と 喧嘩になった。

「今年ももう少しで終わるねえ」 話の発端はありふれた会話だった。 「私さあ、今年、銀座、最後までやり通したヨ。あと三日で終わりダヨ」 「アナタ、ところでいつまで銀座をやるつもり?」 「へっ?」 母からすると、心配で心配でしょうがないらしい。 でも、今、私はもう銀座で生きてしまっている。 今さら辞めて何するの? どうやってゴハン食べるの? それに私、銀座好きダヨ。 来年七十歳を迎える母にとって、銀座のクラブのホステスのイメージは一見華やかでありながら、陰では とても暗いものを背負っていて、歯を食いしばりながら働いてお金を掴む、というものらしい。

まあ、私も歯を食いしばっていないとは言えないが、今時の銀座はそうじゃナイ、と。そんなこんなで、口論 になった。取り止めのナイ話が続き、最後は、「もうそんなアナタの姿を見ていたくないの」という母の言葉で 締めくくられた。

その言葉に愕然とした私は「出ていこう」と決意。涙を流しながらインターネットで不動産を探す。

一人暮らしか。 寂しいだろうな。 年末、今からの引越しは無理だろうなあ……。 翌朝は七時に目が覚めた。寝ていたのか、私。パソコンの上に頭をのせて寝てしまっていた。 十二月二十四日、金曜日。体重は、きっと減っていると思う。四十八キロ、切っているのではナイか。再 び、ネットで不動産物件を探していると、お昼過ぎにパパ(お客サマ)から電話があった。

「れみ、この間は悪かったな」 「何、言ってるのパパ。悪いのは私なんだから」 「いや、皆の前で怒鳴って悪かった。男としてハズカシイ」 「そんなことよりパパ……」 私は母との喧嘩の内容を話した。 「それはね、一人暮らしを薦めるよ。早くそうするべきだったんじゃないか? 近所の人からジト~っと見ら れたり、またホステスっていうのは一般の人々とは時間が全く逆転してるからね。感覚も変わってくるし、心 配されるのも無理はない。本当の姿を見てないんだからね。説明してもしょうがないよ。だから、れみがこの 先ずっと銀座でやってく覚悟があるのなら、早いところ自立すべきだよ。でもね、マンションは焦って探して変 なもん掴んじゃったら大変だぞ。それは時間をかけて探したほうがいいぞ」

銀座でやっていく覚悟かあ……。 当分じゃなくて、ずっと? 銀座に入ったきっかけがチャラすぎて、覚悟も何も。 でも、銀座でいろんなことを経験した。いろいろな人達に出会った。そして私は銀座を好きになった。だけ ど、いつでも辞められると、気持ちのどこかに逃げ場所も作っていた。それが、なくなる。余裕がなくなる。こ の道を外したら、ホステスの明日はない。私に明日はない。

パパとの話中、会長から電話が入っていた。 体重の報告だな、きっと。適当なことは言えない。賭けだからね。 電話する前に体重計に乗る私。四十八・五キロ。意外だなあ、あれだけ討論して疲れ果てたというのに 同じ体重とは。でも、これで賭けには勝った。トレーナーにも報告しなくちゃ。

まずは会長に報告の電話。 「れみか。どうだ?」 「四十八・五キロです」 「そうか、おめでとう。じゃ、お祝いだな。どこがイイ?」 クリスマスイブ、ウチのお店はホワイトクリスマスと題して、全員が白いドレスに身を包む。 私はその日、気合を入れて銀座に向かった。お洒落にも、決意にも。 「れみちゃん、確かに痩せたわね。ドレスで肩を出したらハッキリ分かるわ。アゴのラインもスッキリとして、腰も括れた。白いイブニングドレス、とっても似合ってるわ」

大ママが私を眺めながら会長に向かって言った。 嬉しい一言。私は今まで中途半端にダイエットをしてきたのだろう。 ダイエットとはライフスタイルなんだということが、今、ようやく分かった。 もう、賭けなんてしない。勝ったけど、ダイエットは始めたら一生やり続けるものなのだ。ゆっくりと楽しんだ ほうがいい。

銀座もそう。始めたら辞めることなんて考えてはいけない。私は私なりのホステスのライフスタイルをこれか ら築くとしよう。そうと決まったら銀座も結局楽しむことが大切なんだと思う。

だってそれこそずっと続けなければならないのだから。 それにはジムが必要なのかもしれない。 トレーナーの励ましが大切なのかもしれない。 代官山の何気ない風景が私の心を洗ってくれるのか。

ピンチが私を育ててくれるのか。 失敗は私にチャンスを与えてくれるだろうか。 銀座の人々はそんな私を温かく包んでくれるだろうか。 銀座のことはまだワカラナイ。でも、多分そんな気がする。ダイエットがそれを私に教えてくれている気がす る。目の前のハードルを越えながら、今を楽しみ、流れる風を敏感に受け止める。

そんなことから明日の私は生まれるのだろう。 「会長、私ね、銀座のホステスに向いていると思いますか」 「うん。素質はあるね。だけど、まだワカラナイよ。銀座は奥が深いからね。まだまだこれからだよ。でも、今 日のれみはとってもキレイだね。まるでミューズみたいだよ」

会長が私に向かって言う。 「ありがとうございます、会長」 そうだ、私は美神。 「じゃ、皆でクリスマスケーキを食べよう。シャンパンくれ」 「会長」 「ん?」 「私がダイエットしてるの、ご存知のくせに」 クスっ。皆が笑った。 「でも、チョットだけいただきますね」 店の明かりがきれいだった。 今夜は、私が銀座のホステスとして迎える、最初のクリスマスイブなのだ。 やがて年が暮れて、お正月が来て、二月には東京にも雪が降るかもしれない。 四月になれば桜が咲き、五月には若葉が目に染みる。そして、すぐに夏になる。 夏になると、なぜか子供の頃の遠い記憶が呼びさまされる。 でもふと気がつくと、夏の空気の中に秋の気配が忍び込み、少しずつクリスマスの季節が近づく。 そんなふうに日々は過ぎていく。 四季の中で、ずっとダイエットを続けようと思う。それって、もしかしたら美容や健康以上のなにかなのかも しれない。この頃は、私はそんなふうに思うのだ。

 

ダイエットはライフスタイル

ダイエットはライフスタイルである。私は様々なダイエットの経験を経て、今、やっとこのことに気がつきまし た。

私が初めてダイエットをしたのは、先に書いたように小学校三年生の時。今から二十年以上も昔のこと になります。タダ食べないというだけの方法で痩せてから、一体何回ダイエットをして、何回リバウンドを重ね たか。本当に、本当に、ここまで長い長い道のりでした。

だけどね、その数々の失敗をつい最近のことですが、私はムダだったと思わなくなったのです。 むしろ愛しい。 本当に自分にとって最良のダイエット法を生み出すために、あの時はああだった、この時はこうだった、だ からダメだったんだ、ナンデあんなことしたんだろう、チョット考えれば分かりそうなことなのになあ~、とかね。

でも、今がよくなっていれば、過去の失敗ってどーってことナイ。あんなムチャクチャなやり方だったら失敗し て当たり前だ、とか、その時は必死でも後になると結構笑えたり、自信に繋がったり。そして、もちろん過去 の経験を参考にもしている。結局、貴重な経験になっているんですよね。

コレって、ちょっと人生に似ていませんか? 今まで生きてきた中でもいろんなコトがあった。 気ままな学生時代にも受験や試験があったり、就職活動に必死になったり、そして晴れてOLの経験も した。フリーライターになってからは、ピンチはつきもの。まさに修業といえるアシスタント時代には、いつもスト レスを抱えていた。

いつの時代も楽しいことも沢山あったけど、同じくらい悩んだり挫けたりしてきた。

その間には恋だって何度かしました。私は深~く付き合うタイプなので、まるで結婚生活のような恋愛を して、いいことも悪いことも沢山ありました。でも、別れたからといって、それはすべてムダじゃなかった。すべて が思い出と共にとってもイイ経験になっている。

そんないろんな経験を経て、私は銀座のホステスを選んだ。今まで生きてきた経験のすべてを抱えた私 が、銀座の世界が好きって感じたんだから、今の自分にとって銀座は最良の世界なんだと思っています。 となったら、まだまだ未熟な私だけど世間ではもう立派な大人。どんな職業でも、プロとしてちゃんとお仕 事が出来る人でなければならない。今までの経験からいろんなコトを考えて、こうしたほうがいい、ああした ほうがいいと、こんな私でも最良の方法を見出しながら、日々過ごしているワケです。

それは自分の好きな世界、今いる場所で快適な毎日を送りたいからに他ならない。 この〝快適〟とは、ムリなことを続けなければならないのでもなく、また、何もしなくてもいいという怠惰な 時間でもなく、自分が素直に成長してゆける状態のことだと思います。自分がやりたいから、そのための頑 張りが楽しい! そんな環境を、人は〝快適〟だと感じるのではないでしょうか。

ダイエットもそう。私の人生の傍らにはいつも〝ダイエット〟の文字があった。それは、この世に女性として 生まれてきたからには、美しいほうがモテるとか、得するとか、そんな安易な考えがいつもアタマの片隅にあっ たからだと思いますが、でもそれだけでもない。この世に女しかいなかったら太っていてもいいのか? 考えて みるとそうでもない。健康な体で、自分自身が美しくいたほうがやっぱり〝快適〟なのです。理屈ではな く、一個の生き物としてそう感じるのです。

人生ってなるべくややこしくないほうが楽しい。 難しくないほうが明るい。 だって人生って限りあるモノなんですから。 私も今まで生きてきた中で、ツライ頑張り、してきました。絶望的な思いも沢山しました。難しく考えたこ と、イッパイあります。ナラバなおさら、これからはなるべく楽しい気分で、ラク~な感覚で生きてゆきたい。人 生は楽しんだモノ勝ち。ダイエットだって楽しんだモノ勝ちです。

これからは〝好きな頑張り〟で楽しく成長していきたいナって思うのです。 そうしているうちにもっと好きな世界が見つかったり、楽しそうなダイエット法を新たに発見したならば、チョット考えて、それをやってみよう、チャレンジしてみようと思います。好きなコトなら楽しく頑張れる。それが私 にとっていちばん幸せな生き方。最良のライフスタイルはそんな単純な気持ちから生まれてくる気がするので す。

人生にはもちろん、変化はつきものです。となると、ダイエットだって変化して当たり前。いつまでも、一つ のやり方にこだわっていられない、いないほうがナチュラルかもしれない。

求めるスタイルもそう。私の場合ならば、タダ体重を落とすことだけが目的だった学生時代。 ファッションモデルを目の前にして、か細さを求めたライター時代。今、銀座のホステスとしては、ムダな贅 肉はイヤだけど、やや丸みのある女らしい体が魅力的に映ったりする。大人になるにつれ、見えるものが変 わってくる。美しいと感じるものが変わってくる。

さらに、時代と共に人々の意識だって変化してゆくものかもしれない。もしも太っていることが素敵だという 時代が来て、自分も心からそう思えば、太ったほうが心地よく過ごせるのかもしれない。

そんなふうに見えてくるモノが変わったり、意識が変わったりすることは、人間として成長していることにほ かならないのだと思います。もしも間違いや失敗をおかしたとして、フリダシに戻ってやり直しだと落ち込み、 ゼロ、いや今度はマイナスからのスタートをきらなければならなくなったとしても、人間としては確実に成長し ている。

そう、人間は成長する生き物なのだと私は思います。 そんな個人の成長のリレーが、人間に進化を促しました。そして今を生きる私達の一人ひとりは、 おおげさ 大袈裟なようですが、人類の進化の先端としての今日一日を生きている。今日の空気を吸い込む私が 何を感じるかということは、長く続いてきた人類の進化の(今のところの)総決算なのかもしれない。

あるいは明日、平穏な日々、変わらない自分を求めるようになるのかもしれない。でもそれは、日々重ね ていく変化の中で自分が求めた〝変わらない姿〟であるはずです。

最後にもう一度繰り返してもいいでしょうか? ダイエットは、ほんとうに人生そのものによく似ている。だか ら大切なのは、体重を減らすコト、痩せている姿をタダ求めることではなく、最良の自分、心地いい環境を 見つけていくことなのではないでしょうか。

自分が楽しく生きていけるライフスタイルを築いていく気持ちを失ってはならないと思うのです。そしていつ か、自分を心から愛しいと感じることができるようになること。それこそが、私が密かに考えるダイエット・パラ ダイスです。

私は両親に産んでもらい、今まで生きてきた中での経験、出会ってきた人達、いろいろな関わりによって 成長し、大人になってきた。そんなすべての出来事に感謝しています。

これからも私は変わっていくはずです。時には早足で、時にはのんびりと。そして、その成長の過程で、幸 せをひしひしと感じて生きていきたい。

そんな人生の中で、私は一生楽しくダイエットに励んでいることと思います。 ダイエットは、ライフスタイルなのですから。

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